いまきしょうじ（今城昭二）の書道・篆刻ブログ : 指　導　法

　　　樂道閑居
　　このブログを読む前に、
　　必ず下の マーク をクリックして下さい。
　      　　　　　
   　         　　　
この文章は2013年４月１日に書いたものをコピーしています。

　　弟子に手取り足取り教えるのか、温かく見守るのかは相手によるだろう。指導とは指して導くと書くので、手本を書き続けたり、電車のようにレールを敷いて他の方向に行けないようにしたのでは指導とはいえない。

　　門人を『お弟子サン』と呼ぶところでは、門人は大切なお客さんだから、やめないように懇切丁寧に教えてくれるだろう。私は弟子を厳しく指導することを旨としているが、道を指すだけで、相手がその道を通らなくても、途中でやめても意に介さない。ただ温かく見守るだけである。

　　保多孝三先生は長く教職にあった。大学では厳しかったと教わった人から聞いているが、私には何も言わなかった。厳しい人だと感じたのはただ一度だけである。

　　大学一年の春休み、新橋の画廊で絵の個展を開いた。普通は弟子に手伝わせるのだが、保多先生の個展の手伝いは大学の研究室の助手など2-3人しかいなかった。私は師匠は親も同然と思っているので、押しかけ雑用係として毎日会場にいった。多くの高名な書家なども来たし、毎日先生の画を見るのも楽しかった。帰途に晩飯をご馳走してくれ、話を聞く機会も多かった。

　　あるとき会場で、『毎日ここに来ていて勉強のほうは大丈夫かね・・』、『大丈夫です。大学は春休みですから・・』　『大学が休みでも勉強は出来る ! 』手伝いに来ている者を叱るとは、なんと厳しい師匠だと思った。私は　毎日ここで勉強しています　とそのときは言えなかった。

　　私は自分で保多孝三の側近弟子だといっている。子息や孫もそう思っているだろう。しかし保多先生本人からは一度も私の弟子だといってもらったことも、他人に紹介してもらったこともない。

　　16年間師事し、晩年は自他共に認める最側近の弟子だと思っているが、師匠は手取り足取り私に教えたことはなかった。私は師匠の芸も人物も尊敬していたが、あちこちで学びいろいろなことをやっていった。師匠はただ見守るだけで何も言わなかった。手本を書いたり添削したりするばかりが指導ではない。自分の生き様を見せ、弟子を温かく見守るのは最良の指導法だと思う。　　

　見守るだけで弟子から月謝を取るのは、手本を書いたり添削したりして月謝を取るより、先生がはるかに勉強しなければならない。よほど先生の芸や人物に心酔しなければ、先生が何もしてくれないのに月謝を払い続ける人はいない。
　
　私が毎日展をやめるきっかけになった篆刻家の高弟が、あるとき保多先生は『弟子の育成をしなかった』と言った。たしかに社中を組織したり、弟子を展覧会に出させたりはしなかった。しかし大学などで多くの学生に篆刻を教えている。大勢の弟子を取って徒党を組み、展覧会で覇を競っている篆刻家よりはるかに後進によい影響を与えていると思う・・・　器量のない人が大勢お弟子サンを取って添削しても育成などできない。(と思う)

　私が二十歳くらいの時、保多先生夫妻が私の母の実家に来て泊まったことがある。叔父が植木生産業をやっており、多摩の御宅の庭木はここからトラック2台分運んで植えた。また学生を集めて近所の寺で合宿をやった時も木更津に来て我が家 (実家) に泊まった。当時先生は60代半ば、日展評議員、国学院大学教授で日本を代表する篆刻家であった。

　60代後半には先生夫妻と子息、私と妻の5人で香港・マカオ・台湾と11間旅をした。また70代初めには当時住んでいた船橋の借家にご夫妻で遊びに来た。私の仕事机に座り、長女を抱っこしている写真が残っている。

　私も師匠宅に泊まったり、個展の時は自分の仕事を休みにして手伝いに行った。先生と一緒に食事したのも数百回に及ぶ。こういう師弟関係が16年間続き、先生から多くのことを学んだ。最初の4-5年は添削を受けていたが、その後10年近く、先生に添削どころか作品を見せたこともほとんど無かった。それでも私は師と仰ぎ、先生は弟子 (と思っていたのか?) として温かく見守ってくれていた。私を指導してくれていたのである。

　今まで教えを受けた人は大勢いる。中には月謝を払った人も、息子同然に可愛がってくれた人もいる。こういう人達を私は『教わった先生』というが『師匠』とは呼ばない。師匠とは自分が生きる世界では親以上の存在であり、利害など存在しない関係である。月謝でつながり、自分が世に出るために教わる関係など師弟関係ではない。こういう関係の人を師匠にもつと、自分のところにもこんな弟子が集ってくる。(と思う)

    〇〇〇飛行隊格納庫で整備中のCH-47JA         訓練飛行中