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「ロートレック荘事件」 筒井康隆 新潮文庫

2019-12-06 | 読書


平成2年初刊行の文庫版で平成7年発行。 筒井さんにしては珍しい推理小説。でも読み終わってみると、やはり読者に対してサービス満点というところの筒井作品だった。


今のミステリ小説はジャンルが豊富で作品数が多くなりストーリーも多彩で、人気作はシリーズ化するのが定石のようになってきているが、この時代、推理小説が発表されたころはまだは今のように推理小説がメインの賞も少なかったようで、当時の水準がよくわからなかった。私の知識不足もありそうなので、声がだんだん小さくなるが。

と調べてみたのは、筒井さんが自信をもって発表した(らしい)作品のストーリーには、期待したほどには驚かなかった。ちょっと構えて読み始めたので。
それに閉ざされた別荘に集まった人たちの中に犯人がいるという設定は歴史があるし。

叙述トリックというのは、もっと頭をひねって、パズルを解くようにあれやこれやと作者と知恵を競って犯人を探すものだと思っていたが、初読みにも拘わらず早々に、意図に思い当たってしまった。
まぐれ当たりもあるかもしれないと思いながら、今回は解説も後回しにしたが、それでも読み進めるのをやめなかったのはミスリードされてどこかにどんでん返しでもと期待があった。

筒井さんならきっと何かあるだろう。やはりあったが。それ以上に予想があたってわくわくで面白かった。

筒井さんはやはり面白いし頭脳的だ。
トリックの肝は変わった設計の家で起きる事件で、建物の展開図でもないと文章では犯人の足跡がちょっとわかりにくい。こんな曲がりくねった話はおいそれと書けるものではないのはよくわかった。

この古い本に手を出したのは筒井好きもあるが、立ち読みした第一章で引き込まれ続きが読みたくなった、それほど巧みな幕開けだった。



俺と重樹がともに8歳の夏。俺は重樹が滑り台の中ほどで止まってしまっていたのを、上からローラースケートを尻に敷いて滑り降り、彼を突き落としてしまった。重樹は下のコンクリートの角で脊椎を打ち下半身の成長が止まった。
俺は慚愧の思いと責任感で一生重樹と離れず、彼を助けて見守る決心をした。

そして二人が28歳になった夏、重樹は将来を嘱望される画家になっていた。
ロートレックの収集家の別荘に三人の有望な青年と美しい女性たちが集まった。
別荘の持ち主夫妻と令嬢の母親もいた。

そこで二発の銃声が聞こえ女性の一人が殺される。
次々に三人の女性が殺されていく。最後には美しい女性はみな殺されてしまう。
なぜ?
動機も侵入経路も確定できない。
建物の奇妙なつくりが面白い。この作品が既成のタイプに似ていたにしても面白い。

トリックが優れた機知にとんだストーリー展開と、ミスリードと見せかけてあちこちに散らばって巧みに織り込んであるヒント。注意深く読めば作者の親切な遊びがわかる。

これは筒井さんの機智とユーモアと読者への挑戦と試みが融合した実に面白い一冊だった。

とりとめのない感想しか書けないけれど、エンタメなのです。狙いは最後にやられた!と言わせたい狙いで犯人の独白というか告白付き、最後は先に読まないで下さいというのがお約束、これも懐かしいスタイルだった。



先日、新刊本の建物と中古本の建物が棟続きで新装開店と本屋さんのチラシが入っていたのでこういうの大好きなので見逃せない。ではではと覗きに行った。

古本の匂いもいいなぁと長時間楽しんできた。

とげとげしくなりそうなときに読もうと思った古今東西の、ほのぼの優しいほっとするようなものも見つかった。

本ばかり増やすのが自分なりに気が咎めて、嵩低く早く読めるような薄い本を探した。古い本ばかりだったけれど帰ってみると20冊近くあった。
気合いを入れて読もうとしたらほのぼのどころか半数以上が変な、奇妙な味のものだった。
短いものだけに種(味が)ギュッと詰まっている。
一応裏のあらすじを読んで、それぞれ面白そうなのでいいか。
薄い本ばかりで山は低いのも救い。その中の一冊。



※気を付けたのですが、ネタバレ注意!
結末や犯人など重要な内容が推測される場合がありますm(__)m






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