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「ジキルとハイド」 ロバート・L・スティーヴンソン 田口俊樹訳

2020-07-12 | 読書

この作品が世に出たときは、きっと内容の怪奇さと、人の心理の二面性をこんなに鮮明に書き出した、生々しい善と悪の心の葛藤の物語を、共感と驚きをもって多くの読者は絶賛し読まれたに違いない。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

二重人格というだけでおおよそのことは想像できるし、今では二重人格どころか多重人格、解離性同一性障害等という一層複雑な病名まで知られてきている。

そんな物語なので、つい最近までストーリーも分かったような気分で改めて読もうとは思わなかった。
それが「2020新潮文庫100」でリストを見ているうちに、現代の多くは不遇な子供時代の心の傷や不幸な環境がつくりだしたという話が多い解離性の心の病気とは違って、これは意図してふたつの人格を作りだした話だ。
主人公が何時、どうやって、親友や雇人にも見分けられないほど異なった外貌を持つようになったのか。
深入りしなければ気にならないようなことだが、これは原作を読んでみないと、面白みは分からないのではないかと思った。

まず
ハイドを作り出したジキル博士とは
二重人格を作り出した方法
ジキルとハイドの風貌の相違
お互いに対する認識
ジキル博士がハイドという人格になったことに周りはどう反応したか

そんな子供じみた興味でじっくり読んでみた。

結論。
スティーブンソンさんの作り出したおどろおどろしい雰囲気の文章も素晴らしい。医学的には多分創作だと判りすぎる部分は大雑把に適度に緻密で読み過ごせる。

殺人を犯して平然としているハイドを、恐れと後悔から、元に戻そうとする、分離できない体にする薬づくりに没頭するジキルの懊悩。

恵まれた環境のジキルには優れた友人もいた。その友人たちは、反面隠し続けた二つの姿が明らかにされるかも知れない知性を備えた危険な友人たちだった。
中でもジキルに遺言を託されたアタスン弁護士、その遺言書がまたナニコレで興味深く面白い。
最後のジキルの告白の手紙で全貌を知るラニヨン博士。
ここでジキルの手紙を読んだラニヨン博士の手記は圧巻、博士は死ぬほどの恐怖に捕らえられる。

ついに分離が薬の作用でなく、絶え間なく起き始める。
その時周りも、薄々ジキルの人格が分離しているのではないかと気が付き始める。

ジキルは子供の頃から密かに隠していた野蛮な本能が形になったことで、快楽だけではなく、次第に制御しきれないハイドの悪が力をつけて心を蝕んでいく。
自分で招いたこととはいえ、親友に向けた告白文は哀れだ。

堂々とした風采のジキル博士が薬を飲めば小柄で目をそむけたくなるような悪の雰囲気を纏った男になる。
ハイドは肌の青白い、小人のような男だった。はっきりとした病名のあるものではないにしろ、なんらかの奇形を思わせる。不愉快な笑み、臆病さと厚かましさがないまぜになった異様な振る舞い、どこか壊れたようなしゃがれた囁き声。それらすべてがハイドを不快に見せている。


ジキル博士といえば
長身で、均整の取れた体つきをした、人当たりのいい五十代の男。それがジキル博士で、少しばかりの狡猾さはうかがえるものの、肝要と優しさがそれをはるかに凌いでいる。

その体格の違いが生活するには様々な不自由がある、そのところなど読む面白さが十分で、読んでよかった、面白かった。

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