無排卵症のHMG/FSH製剤使用についてのASRM公式見解 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、無排卵症の方へのHMG/FSH製剤使用についてのASRM(米国生殖医学会)の公式見解です。

 

Fertil Steril 2020; 113: 66(ASRM)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.09.020

要約:無排卵症のHMG/FSH製剤使用についてのASRM公式見解

1 熟練した医師による管理が必要

2 1個の卵胞発育を目標にする(ただし、なかなか難しい)

3 1個の卵胞発育であれば多胎妊娠やOHSSの回避が可能

4 多胎妊娠やOHSSを完全に回避することは難しい

5 HMG/FSH製剤使用のリスクについての事前の十分な説明が必要

6 HMG/FSH製剤は少量(37.5〜75IU)から開始し、反応がなければ増量する

7 16mm以上の卵胞が3個以上、あるいは中等度の大きさの卵胞が3個以上の場合はキャンセルする

8 視床下部性無月経の方には黄体補充が有効だが、PCOSの方への黄体補充についてはデータが不十分である

 

解説:無排卵症の方へのHMG/FSH製剤は医学的に必要な治療です。本論文は、本件に関するASRMの公式見解です。排卵は2個まで許容すると受け取れます。ART(体外受精、顕微授精)治療や一般妊娠治療でのHMG/FSH製剤使用は除外しておりますので、ご注意ください。

 

日本の薬事法における分類では、クロミッドとセキソビットは「排卵誘発剤」であり、HMG/FSH製剤は「卵胞成熟ホルモン(FSH)製剤」「ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン剤」「遺伝子組換えヒトヒト卵胞刺激ホルモン(FSH)製剤」と分類されています。一方、HCG製剤は「ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン」「遺伝子組換えヒト絨毛性性腺刺激ホルモン製剤」です。非常にわかりにくいです。クロミッド、セキソビット、HMG/FSH製剤は卵胞を発育させる薬剤、つまり「卵胞発育剤」で、HCG製剤は排卵の司令および卵胞成熟させる薬剤、つまり真の「排卵誘発剤」です。患者さんの中には混乱されている方がおられるものと推察します。