精子のPLCZ1遺伝子変異による受精障害 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、精子のPLCZ1遺伝子変異による受精障害について、新たな遺伝子変異を発見した報告です。

 

Hum Reprod 2020; 35: 472(中国)doi: 10.1093/humrep/dez282

要約:2016〜2018年に顕微授精の受精率25%未満の夫婦で、その男性の精子によるマウスの卵子活性化が生じなかった(MOAT試験)14組の夫婦を対象に、男性のPLCZ1遺伝子変異を検討しました。このうち5人の男性から、6個の新たな遺伝子変異と1個の既知の遺伝子変異(c.588C>A)が見出されました。新たな遺伝子変異は、ミスセンス変異4個(c.830T>C、c.1733T>C、c.1151C>T、c.1344A>T)とバリアント2個(インフレーム欠失c.1129_1131delAAT、スプライシング変異c.570+1G>T)です。この5名の精液中にはPLCZ1蛋白の発現はなく、4個のミスセンス変異と1個のインフレーム欠失を導入したヒト卵子では、前核形成が抑制されました。この5組の夫婦にイオノマイシンによる卵子活性化を行ったところ4組で受精障害が改善し(77〜89%)、3名の児が誕生しました。

 

解説:受精障害には卵子側と精子側の原因が考えられます。卵子では、TLE6遺伝子変異とWEE2遺伝子変異による受精障害が報告されています。一方精子では、PLCZ1遺伝子変異(H398P、H233L、c.588C>Aなど)による受精障害が報告されています。PLCZ1遺伝子は、卵子のカルシウム・オッシレーションを起こし卵子活性化を生じる原動力になっています。本論文は、男性のPLCZ1遺伝子変異による受精障害について、新たなPLCZ1遺伝子変異6個を見出したものです。精子側にも卵子活性化を阻害する要因があることは重要な知見だと思います。