一般妊娠治療における排卵誘発剤のお子さんへの影響は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、一般妊娠治療における排卵誘発剤のお子さんへの影響を検討したものです。

 

Fertil Steril 2020; 113: 1005(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.12.023

Fertil Steril 2020; 113: 932(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.01.020

要約:多嚢胞性卵巣の方(PPCOS IIスタディ)と原因不明不妊の方(AMIGOSスタディ)を対象に排卵誘発剤(HMG製剤、クロミフェン、レトロゾール)の影響を検討した2つの前方視的研究から、出産したお子さんの発達状況を生後3歳まで経過観察しました(160家族、185名)。なお、お子さんの発達度は、ASQ(Age and Stages developmental Questionnaire)とMCDI(MacArthur-Bates Communicative Development Inventory)を用いて毎年評価しました。HMG製剤、クロミフェン、レトロゾールにより出産したお子さんは、それぞれ47、52、61家族であり、多胎妊娠はそれぞれ14、6、3家族でした。ASQはお子さんのいかなる時期でも3群間に有意差を認めませんでした。一方、MCDIは、HMG製剤と比べ、クロミフェンおよびレトロゾールで有意に高くなっていましたが、この違いは多胎妊娠によるものと考えられました。

 

PPCOS IIスタディ:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の不妊女性750名を対象に、刺激法別にランダムに2群(クロミフェン、レトロゾール)に分けた前方視的検討です。

AMIGOSスタディー:原因不明不妊女性900名を対象に、刺激法別にランダムに3群(HMG製剤、クロミフェン、レトロゾール)に分け人工授精を行った前方視的検討です。

ASQ:お子さんのご両親が回答する質問票で、肉体的、社会的、情緒的、知能の発達を評価するものです。

MCDI:お子さんのご両親が回答する質問票で、コミュニケーション能力を評価するものです。

 

解説:一般妊娠治療によるお子さんへの影響については、これまで小規模な研究はありましたが、大規模な研究はUpstate KIDSスタディーしかありません。Upstate KIDSスタディーは、2008〜2010年にニューヨーク近郊の57箇所で、生後4ヶ月のお子さんのいるご家庭を対象に、夫婦の健康状態及びお子さんの出生時の状態について質問票調査を行ったものです。4886組の夫婦から回答があり、5845名のお子さんについて解析したところ、一般妊娠治療の有無はお子さんの発達や健康状態とは無関係でした。本論文は、一般妊娠治療における排卵誘発剤のお子さんへの影響を2つの前方視的研究で検討したものであり、影響はほとんどないことを示しています。

 

コメントでは、この問題の評価はなかなか難しいとしています。

 

AMIGOSスタディーについては、下記の記事を参照してください。

2018.9.28「アロスタティックロード(身体的ストレス)と妊娠の関係

2018.6.12「男女のうつ病、抗うつ薬と妊孕性について

2018.6.9「人工授精の刺激法 その2

 

Upstate KIDSスタディーについては、下記の記事を参照してください。

2018.3.11「☆夫婦の健康状態がお子さんに影響する?