☆プロテインサプリメント使用中の精子は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、プロテインサプリメント使用中の精子に関する国家規模の研究です。

 

Fertil Steril 2020; 114: 89(デンマーク)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.02.103

Fertil Steril 2020; 114: 61(ブラジル)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.05.019

要約:1996〜2002年に出産した男児770名18〜24歳)を対象に精液所見とライフスタイルの関連を調査する横断研究FEPOSスタディ)を実施しました。オンライン形式の質問票により、運動の頻度、BMI、喫煙、飲酒、サプリメント(種類、使用目的、使用頻度)を調査しました。プロテインサプリメントを現在使用中の217名(28%)、過去に使用していた187名(24%)と全く使用していない366名(48%)の精液所見を比較検討したところ、プロテインサプリメント使用による精液所見の各種項目に有意な変化を認めませんでした。

 

解説:スポーツ関連の健康食品やサプリメント(プロテイン、クレアチン、アミノ酸など)が幅広く販売されており、主に男性アスリートを中心に使用されています。これらのサプリメントの中には、禁止薬物である筋肉増強剤を含んだ商品があります。筋肉増強剤はFSHを低下させ造精機能低下を引き起こすことが知られています。また、大豆由来のプロテインサプリメントは、女性ホルモン作用のある大豆イソフラボンにより造精機能低下の可能性があります。プロテインサプリメント使用中の精液所見を検討した報告は過去1件のみ、わずか20名の不妊男性で調査したものであり、プロテインサプリメント中止により精子数が2倍に改善したというものです。本論文はこのような背景の元に行われた国家規模の研究であり、一般男性でプロテインサプリメント使用中の精液所見に有意な変化がないことを示しています。

 

コメントでは、大量のプロテイン摂取は活性酸素(ROS)酸化脂質を産生するため、精子のDNA損傷を引き起こす可能性があるとし、これらの測定も必要であると述べています。本論文だけで結論を出すのは早計であり、プロテインサプリメントが造精機能に与える影響については今後の検討が必要であるとしています。