リンザゴリクスによる子宮内膜症由来の痛みの軽減:第2相試験 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、リンザゴリクスによる子宮内膜症由来の痛みの軽減について検討した第2相試験です。

 

Fertil Steril 2020; 114: 44(欧州と米国の多施設)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.02.114

Fertil Steril 2020; 114: 58(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.04.006

要約:2016〜2017年に欧州と米国の67施設から子宮内膜症由来の痛みのある方328名(18〜45歳)を対象に、リンザゴリクス投与量を6段階(0、50、75、75TD、100、200mg/d)に分け(ダブルブラインド・ランダム化試験)、24週間投薬を行い、痛みの程度、E2、骨密度、鎮痛剤使用量、QOLを評価しました(第2相試験)。なお、子宮内膜症の診断は過去10年以内の手術による診断がついた方のみとし、投薬期間は希望により最大52週間まで延長可能としました。なお、今回の検討は24週間までです。また、75TD(titrated-dose)では、最初の12週間は75mg/dとし、後半の12週間は、E2<20の場合に50mg/dに減量し、E2>50の場合にに100mg/dに増量しました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

12週間投与時の痛みの減少率

リンザゴリクス   0    50    75   100   200mg/d

全体の骨盤痛   34.5%  49.4%  61.5%  56.4%  56.3%

月経痛      28.5%  43.3%  68.2%  68.6%  78.9%

月経以外の疼痛  37.1%  46.2%  58.5%  61.5%  47.7%

 

24週間投与時の痛みの減少率

リンザゴリクス   0    50    75   100   200mg/d

全体の骨盤痛   52.5%  70.8%  66.7%  66.7%  77.3%

月経痛      47.5%  58.3%  71.1%  82.1%  84.4%

月経以外の疼痛  50.0%  72.9%  64.4%  64.1%  72.7%

 

E2値は、リンザゴリクス50〜100mg/dでは20〜60pg/mLに調節されていましたが、200mg/dでは20pg/mL未満に抑制されました。また、骨密度減少率は、リンザゴリクス50〜75mg/dでは1%未満でしたが、用量依存性に増え、200mg/dでは2.6%でした。なお、リンザゴリクス投与群ではQOLは有意に改善しました。

 

解説:新しい経口のアンタゴニスト製剤にはエラゴリクスとリンザゴリクスがあり、エラゴリクスはすでに第3相試験が実施されています。エラゴリクスは半減期が4〜6時間であるため1日2回服用が必要ですが、リンザゴリクスの半減期は15〜18時間であるため1日1回の服用で構いません。リンザゴリクスの第1相試験では健常ボランティアに対する安全性の検討が行われました。本論文の第2相試験では、患者さんに対する薬剤の用量決定と安全性の検討が行われ、子宮内膜症由来の痛みの軽減にリンザゴリクス75mg/d(あるいは200mg/d+アッドバック)が設定されました。次回の第3相試験で最終になります。


コメントでは、子宮内膜症の治療の歴史を紹介し、これまでの治療戦略は下記としています。

 ファーストライン:ピル、鎮痛剤、黄体ホルモン製剤

 セカンドライン:ダナゾール、子宮内黄体ホルモン含有IUD、GnRHアゴニスト製剤

GnRHアゴニスト製剤による更年期障害を克服するために、Barbieriが提唱したestrogen threshold hypothesis(エストロゲン閾値仮説)の重要性を述べています。治療に必要なE2濃度は子宮筋腫では20pg/mL、子宮内膜症では40pg/mLと設定し、更年期症状には40pg/mL以上、骨塩量の維持には20pg/mL以上あれば良いと推定したもので、E2を20〜50pg/mLの間に設定すれば,子宮内膜症組織の発育を抑え,かつ更年期症状と骨塩量減少を最小限に止めることができるという理論です。ただし、この数値には個人差がありますので、症状を見ながら調節する必要があります。

 子宮内膜症の新しい治療薬として、経口アンタゴニスト製剤(エラゴリクス、リンザゴリクス)、SPRM(ユリプリスタール、ビラプリサン)、アロマターゼ阻害薬(レトロゾール)、腹腔内免疫調節剤が候補に挙げられます。エラゴリクスには肝機能障害がありますので、エラゴリクス長期投与の場合の副作用確認が必要です。また、リンザゴリクス75mg/dではE2が20〜60pg/mLに調節されるため、更年期障害や骨密度減少の副作用はありませんが、逆に妊娠の心配があり、実際に投与中に妊娠したという報告もあります。これらを踏まえて、今後の治療戦略のファーストラインにリンザゴリクスが入ってくるものと期待します。

 

下記の記事を参照してください。

2020.5.13「ディナゲストによる月経困難症と痛みの軽減 その2」(第3相試験)

2020.3.4「ディナゲストによる月経困難症と痛みの軽減」(第2相試験)

2019.3.19「自然発生の子宮内膜症サルで痛みの研究

2017.11.24「内膜症の新しい治療戦略