【3/10/2020 日記より】
世界はどうかしている。コロナの影響で、人々は毎日狂ったようにコロナの話ばかりしている。もうそれ以外話すことがないかのようだ。
昨日、学長から一通のメールが届いた。いかなる規模のイベントも全て4月18日までキャンセル、とのこと。
信じられない。オーケストラ・リサイタルはもちろん、ミュージカルはどうなってしまうのだろう。もし、本当に全てキャンセルになってしまったら...?考えたくもない。
学生生活の半分以上を何らかのリハーサルに捧げている。それらが全て水の泡となってしまうのだろうか?
そうなってしまったら生きる気力を失ってしまうだろう。
たった今、グループチャットで数人がコロナについて話している。クレアモントで感染者の可能性が出てきたようだ。
信じられない。もう何を信じたらいいのかわからない。クレアモントにいると、外との関わりがなさすぎて全てが偽りのようにも思えてくる。実感がわかない。
だからこそ、大丈夫なのではないかと思ってしまう。感染者もいないし。だったら学校続けて欲しい。
休校に絶対なるな。
春休みどこにも行くな。自分さえよければなんて思うな。全員予防ちゃんとやれ。"I'm not scared about it"なんてデタラメ。全員警戒しろ。人ゴミに近寄るな。キャンパスから出るな。
そんなこと言っても学校が終わったら全て終わり。人生終わり。東海岸の学校はもう休校になっていたりするらしい。
私たちが休校になるのも時間の問題だ。
異常に敏感になっている自分がいる。授業中に周りの人が咳しているのが気になりすぎて、トイレに行って手洗いうがいをする。
唾を飲み込めない。マスクをしたいが、マスクがないし、アジア人の私がマスクなんかしていたら誰からも近寄られないだろう。
日本はもう3月11日に日付が変わった。東日本大震災から9年も発った。
考えてみれば、日本が緊急事態に陥るとき、私はいつも日本にいない。
震災の時も、私は何もできずにテレビ越しに日本を見つめることしかできなかった。今回も。
家族が心配でも私に何もできることはない。
日本の方がよっぽど大変な状況なのに、こっちの人の動揺ときたら、もう凄まじい。
私はまた、「日本の方が大変なのに...」とつぶやきながら、もどかしく、悲しくなることしかできない。
日本から切り離され、遠い遠い場所にいる気分だ。家が遠く感じる。
全てが悪い夢のようにしか思えない。3.11の時のように。
どうか日本にいる家族や友人が無事であることを祈ることしかできない。
10日前、私はそんなことを日記に走り書きしていました。
この数時間後に、追ってすぐ学長からもう一通のメールが届き、コロナウイルスの影響で今学期の授業は全てオンラインとなり、留学生も含め、速やかに家に帰るように勧告されました。
何とか留まるべく、最大限の努力をしましたが、却下され、日本に帰るしか術がなくなりました。
とても急な通告でしたが、大急ぎで部屋のがらくたを全て段ボール箱に入れ、来学期の9月まで会えなくなってしまった親友たちや、5月に卒業のはずだった上級生に別れを告げました。
めずらしくクレアモントでは小雨が降り続き、まるで生徒たちの悲しみを表しているようでした。
そして息をつく間も無く日本に帰り、現在自主的に自宅待機して、今日3日目を迎えました。
日記に書いていた不安は全て的中してしまいました。
練習に励み楽しみにしていたリサイタルやコンサートは全て中止になり、充実していた春学期は幻のように消え去ってしまいました。
芸術は、人との生身の繋がりが大切で、オンラインなんかで達成できるはずがありません。
特に音楽は、視覚・聴覚を研ぎ澄ませて、同じ空間を共有することによって成り立つ学問分野なので、オンラインでの授業には限界があるのではと個人的に思います。
今学期は音楽専攻としての活動に加え、ミュージカル劇団にも携わり、4月・5月の発表に向けて毎日練習していたのに、全部キャンセルで、本当にがっかりしました。
生徒が寮を退去するまでの間、コロナ対策の一貫でsocial distancing(社会距離戦略)が本格的に実行され、人との関わりが物理的に急激に減りました。
教授や友達とは部屋などではなく屋外で会うよう心掛けたり、一定の距離を保って人と接したり、ハグの代わりに肘をくっつけあうようになりました。可能な限りオンライン上のコンタクトを励行。
また、食堂は入場制限がかかり、外には長蛇の列ができるようになりました。
入り口には簡易の洗面台が設置され、手を洗わないと中に入らせてもらえません。
食べ物は個別包装されたものがほとんど。オフキャンパスのレストラン・カフェなども閉まってしまい、テイクアウトのみとなったので、外出先がなくなりました。
教授陣は、オンライン移行に向けて現在試行錯誤中。
オンライン技術がどんなに発展しても、キャンパスで学生生活を共にする経験から得られるものには及ばないと思います。
オンライン授業はまだ始まっていないので判断できませんが、同じ場所、同じ空間、同じ時間を共有することには大きな意義があると思います。
最後の授業中、教授とクラスメイトと輪になって座り、今日がみんなで顔を合わせる最後だねと話し、しんみりしてしまいました。
学生生活を当たり前のように過ごしてきましたが、当たり前が当たり前じゃなくなった今、いかに自分が恵まれていて、素晴らしい環境で勉強ができていたかを再認識しました。
そして、自分がポモナが好きで、いや、ポモナの"人"が大好きで、教授や友達と離れ離れになることが学びの弊害となることに気づいてしまいました。
秋学期が通常通り始まり、キャンパスに戻れたら、残された2年間を大切にこれまで以上に学生生活を満喫したいと思うようになりました。
【3/22/2020 日記より】
日本は快適だ。食べ物もすぐに手に入る。コンビニも24時間空いている。成田の検疫もあんなに緊張していたのに一瞬で通れた。洗濯機の順番を待つ必要もない。
1週間前、家に帰れないが寮から追い出され、事実上ホームレスになりそうな友達を思い、一緒に悩んでいたのが嘘みたいだ。
明らかにアメリカと日本では温度差がある。平和ボケになりそうで怖い。
だからこそ、世界中の友達とずっと繋がっていたい。
皮肉にも、そのためにはオンラインコミュニケーションに頼るしかない。
さら
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