プロの写真屋なんだから、「どんな会場でも、いい写真を撮ります」と、言いたいところですが、「ステージ写真の質」というのは、そのホールの設備(会場スタッフの技術を含む)に半分以上は依存します。
つまり、「どんなに優れたカメラマンであっても、ひどい会場では、いい写真は撮れない」ということです。
というわけで、いろいろな種類の会場で写真を撮ってきましたが、「苦手な会場」というのがあります。
それは、「楽器屋さん」などの建物の中にある、民間の貸しホールです。
これ、ピアノ教室の先生はわかっていないと思いますが、撮影する人間からすると、ほんとに大変なんです。
先日も、横浜市内の某楽器店の2階にある小ホールで撮影をしてきました。
ここも大変でした。
以下に、こういった会場でのいろいろな苦労話をちょっとまとめてお話します。
「絶対的に狭い」
通常の公共施設のホールですと、どんなに小さいところでも150席はありますし、普通は300席はあります。なので、客席に余裕があります。しかし、こういうホールはとにかく狭いです。
「写真屋が椅子を全部並べないといけない」
会場が狭く、かつ、客席部分に傾斜のないフラットな床面のため、通常の椅子の並べ方だと、観客の姿が画面内に映り込み、主役である演奏者の姿が隠れてしまいます。
なので、「なんとかぎりぎり、演奏者の姿に観客の後ろ姿が写り込まないように」、座席を並べないといけません。
こういった貸しホールは、多目的に使用できるように、椅子は固定されていません。
自由な場所に椅子を置くことができるのはありがたいのですが、その代わり、「そちらで自由にやって下さい」と言われるため、会場スタッフも手伝ってくれません。この前の発表会では、先生も多忙で、写真屋一人で全部の椅子のセッティングをしました。
まあ、「カメラのファインダーを見ながら調整しないといけない」ものなので、写真屋自身がやるのが一番で、仕方ないわけですが、今回のホールの椅子はすごく重くて、往生しました。(翌日は筋肉痛です)
「高い位置から撮らないといけない」
客席に傾斜がないため、カメラをセットする位置を天井ぎりぎりの高い位置にしないといけません。
このため、大型の三脚を持ち込み、かつ、脚立の上に乗って撮影しないといけません。
これは、「この姿勢をずっと維持するのは体力的に大変」という意味だけでなく、会場が狭く、スペースがないため、三脚の周囲にロープを貼って「立入禁止」とかにすることもできないため、「子供が三脚にぶつかって倒れる」といった危険性もあるため、撮影をしながらも、常に周囲に気を使って、安全に配慮しないといけません。
今回も、こちらが必死に撮影しているところに、3歳くらいのお子さんが、フィールドアスレチックと勘違いしたのか、三脚に掴まって登ってきたため、困りました。ご高齢の方が、私の三脚に、ご自分のハンドバッグをひっかけたこともありました。
「照明がひどい」
こういうホールには照明の専門知識がある人がいません。なのでメチャクチャです。
白熱灯と蛍光灯が混在していたり、おかしな色の背景だったり、と、「立つ場所にとってホワイトバランスが変わる」という、非常にやっかいな条件です。蛍光灯も、フリッカーが多発する旧式の蛍光灯だと、「写真1枚ごとに光の当たり方が変わってしまう」という障害が発生して大変です。(このため、ちゃんとしたホールでは蛍光灯を照明に使用することはありません)
また、メンテナンスもろくろくしないので、「ピアノ演奏者に当たるスポットライトの電球が切れたままで交換していない」なんてホールもありました。一番大事な照明が切れているなんて、普通の公共機関のホールではありえません。
「ステージ上を均質に照明を当てる」ということも考えられておらず、「舞台に全員が上がって並んで合唱」なんて時に、1枚の写真の中で「明るい照明があたっている人」「照明が当たってなくて顔が暗い」という差が激しく、被写体全員がきれいに写っているということが不可能になります。
「ご家族カメラマンも大変」
こういう厳しい状況のため、我々プロだけでなく、ご家族のカメラマンも苦労します。ちゃんと撮れる場所がないのです。
「非常口」の前に三脚を立てる人もいるので、「それはまずいですよ」と声をかけないといけません。
また、撮影の最中に、画面内ににょろにゅろっと三脚が伸びてくる時もあります。これも、いったん脚立から降りて「そこに三脚を立てないで下さい」とお願いしにいきます。
※今回の発表会では、先生がそのへんのことを配慮して、最前列に「撮影専用席」を用意して、「演奏している生徒さんのご家族は、入れ替わり式に、ここから撮ってください」という方式になさっていました。これは素晴らしい手法です。
この他、「4階なのにエレベーターがなく、全部の荷物を階段で持ち上げないといけない」なんてホールもあり、その時は、機材を会場に持ち込むだけでクタクタになりました。
とにかく大変で、ものすごく体力も神経も疲労します。
毎回、こういったホールでの撮影のあとはぐったりです。
「観客もたくさん呼べない」
これはカメラマンは関係ないのですが、せっかくの発表会、先生としたら、「家族」だけではなく、「祖父母」「ご親戚」「ご友人」など、多数のお客様に聞いてもらいたいものなのに、狭い会場での催行となると、「ご家族以外のお客様はご遠慮下さい」とか言わないといけません。これはつらいです。
まあ、もちろん、先生方も、本当は、こういうところではなく、公共のもっと広いホールでやりたいわけです。しかし、「いろんな会場の抽選に全滅してしまい、しかたなく、ここでやるしかなかったんです」というケースがあるわけで。(横浜市は人口が巨大なわりに、こういう公共施設の数が少ないのです)
写真屋としても、こういう「疲れる会場」では、なるべくやりたくないため、神社でお願いすることといえば、「うちの顧客の先生の会場抽選が当たりますように」と真剣にお祈りしております。
ほんと、当たって下さい。外れるとみんなが困るんです。
神様、よろしくお願いします。
ただ、「小さな会場」ということで、ピアノとの距離が近く、音がよく響いて聞こえるという利点もあります。