パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

風の電話★★★・5

2020年05月05日 | アクション映画ーカ行

「ライオンは今夜死ぬ」の諏訪敦彦監督が、震災で家族を失った少女の再生の旅を描いた人間ドラマ。今は亡き大切な人と思いを繋ぐ電話として、岩手県大槌町に実在する「風の電話」をモチーフに映画化した。主人公ハルを「少女邂逅」のモトーラ世理奈、森尾を西島秀俊が演じる。第70回ベルリン国際映画祭ジェネレーション14プラス部門に出品され、スペシャル・メンション(国際審査員特別賞)を贈られた。

あらすじ:8年前の東日本大震災で家族を失い、広島の叔母のもとで暮らす17歳の少女ハル。ある日、叔母が突然倒れ、自分の周りの人が誰もいなくなってしまう不安にかられた彼女は、震災以来一度も帰っていなかった故郷・大槌町へ向かう。豪雨被害にあった広島で年老いた母と暮らす公平や、かつての福島の景色に思いを馳せる今田ら様々な人たちとの交流を通し、ハルは次第に光を取り戻していく。道中で出会った福島の元原発作業員・森尾とともに旅を続けるハルは、「もう一度、話したい」という強い思いに導かれ、故郷にある「風の電話」にたどり着く。

<感想>十七歳の少女が広島から岩手まで旅をする物語。一人旅だが、途中で、さまざまな出会いがあるので、少女の孤独感が離れたり戻ったりしてジグザムに進んでいく。悲しみがそれを真っすぐに貫いている。少女が目指すのは、故郷の岩手県大槌町で、9歳の時にあの東日本大震災で、父母と弟が津波に奪われた。岩手県大槌町には、電話線の繋がってない“風の電話”がある。天国に繋がっているというこの電話には、毎日多くの人々が訪れている。そんな“風の電話”をモチーフにした映画。

演じているのは、モトーラ世理奈であり、いつも無表情で顔のアップはごく少なくて、後ろ姿や、長い髪がかぶさる横顔の場合が多いのだ。にもかかわらず、というよりは少女の心情を切々と訴えてくるの。

少女は大震災の後、広島県の呉の伯母に引き取られていたが、その唯一の肉親が病に倒れた。病院へ行った帰り道、土砂崩れの跡地である、工事現場へ迷い込み、ふらふらと歩くうちに涙ぐんでしまった少女は、お父さん、お母さんと叫んで泣き崩れてうずくまってしまった。瓦礫の荒れ地が9歳の時の衝撃を蘇らせたのであろう。

手持ちカメラで撮られたその長回しの場面の後、ロングショットになり路上に倒れた少女を、軽のトラックで通りかかった三浦友和が少女を助け起こすのだった。そして少女を家に連れて帰り食事を与えるのだった。彼は老母と二人暮らしで、老母が問わず語りに原爆の被災体験を話すのが印象深かった。

少女はその後、岩手県の大槌町へ一人旅に踏み出す。ヒッチハイクで拾ってくれた妊婦さんとその弟と、レストランで食事をして夜の駅前で、若い男3人に拉致されかけたところを、今度は車に乗った西島秀俊に助けられ、彼の人探しに同行する。

尋ね人は福島原発事故の時、ボランティアに来ていたクルド人なのだ。その人は難民として収容されたままだとわかる。西島が車を発進させて、助手席のハルにクルド人の少女の写真を見せる。渡されたそのクルド人の家族写真を凝視する彼の表情が、微妙に哀しく揺れる。津波で亡くなったのかと思い彼が問うも、まだ見つかってないという少女の応え。

2人は福島で被災し廃屋となった彼の家へ寄った後、彼と親しい西田敏行を訪れて食卓を囲む。放射能差別が話題となり、少女は西島が元原発の職員で、妻と娘を津波で亡くしたことを知る。土砂崩れ、原爆体験、クルド難民、廃屋、風評被害、元原発職員の被災。

広島から岩手への少女の旅に。それらが点々と連なって描かれることで、東日本大震災という主題が浮かび上がってくるのであります。原爆とクルド難民、いわば時空を異にする二つの存在が、主題の現在性をより豊かに立体化しているようにみえた。

タイトルの「風の電話」の素晴らしさではなく、重要なのは点々たる連なりの立体化であり、主演のモトーラがめったに感情を表にあらわさないが、二度、激しく泣き叫ぶシーンがある。冒頭での土砂崩れの跡地のくだりと、終盤の大槌町へ着き、基礎だけが残った自宅跡地を歩き回り、「ただいま」と帰ってきたんだよとつぶやくうちに、感情がさく裂シーンであります。地面に倒れた彼女が、前者では三浦友和が、後者では西島秀俊が抱え起こすシーンなのだ。

この映画の中ではよく食事シーンが出てくる。少女の心を食べ物で鎮めようとするわけで、他にも食べるシーンが多く出てくるのだ。彼女が満面の笑みを浮かべるのが、レストランで山本未来の大きな丸いお腹を触るときであり、女たちは抱擁する。少女の閉ざした心を、風の電話で天国の父母へ繋がって語り掛けるシーンにも、胸がキュンと締め付けられた。

 

 

2020年劇場公開、鑑賞作品・・・38  アクション・アドベンチャーランキング

 

映画に夢中

 

トラックバック専用ブログとして、エキサイトブログ版へ

トラックバックURL : https://koronnmama.exblog.jp/tb/31172090


この記事についてブログを書く
« コンプリシティ 優しい共犯... | トップ | 新型コロナウイルス感染に類... »

アクション映画ーカ行」カテゴリの最新記事