Go Toトラベルの対象エリアから札幌と大阪が当面3週間除外されます。両地域での感染拡大を受けての緊急対応です。
こうした動きを受けて、今日の福岡市の定例会見で、福岡市として福岡をGoTo対象エリアから除外することを国や県に要請するかと問われたので、現時点では、考えていないと答えました。

現時点で陽性数も抑えられており、医療提供体制については、軽症者はホテルでの宿泊療養を積極的に進めているため、病床稼働率が低く抑えられており、現時点では問題ないと県からも報告を受けているからです。

もちろん、これから寒くなってくると換気をしなくなったり、全国的な感染の影響も受けるので、今後福岡市でも陽性者が増えてくるでしょう。ですから一人ひとりがしっかりと感染対策を行うことがとても重要になります。

一方、陽性者が増える前にGo Toトラベルの除外を国に要請したり、営業時間短縮などの要請を行うことによって感染拡大防止策を早めに取るべきだという方もいらっしゃるでしょう。増えてからでは遅いから今すぐに人の動きを止めるべきだと。

私は行政が市民や事業者を規制するのは最低限にすべきだと思っています。

確かに市中感染していない今から営業時間短縮を要請したり、移動制限を行うことで、感染拡大のスピードを遅らせることは出来るかもしれません。
外食にも旅行にも行かず、家で静かに暮らしている方々からすれば、コロナリスクを最小限にすることが最優先になることもわかりますし、特に家に高齢者がいらっしゃる家庭の方は本当に心配だと思います。

それもよく分かります。

しかしほぼ全ての薬に副作用があるように、経済活動や人の動きを止めるという政策にも副作用があります。

福岡は第三次産業で働く方が9割の街です。人が動かなくなれば、飲食店、そこに野菜や魚、肉を卸している方、交通事業者、宿泊施設、エンタメ業など、非常に多くの方の収入が激減します。それでなくても2020年は事業が成り立たず、お金を借入れて、一生懸命歯を食いしばって頑張っている人がいます。

そのような方々の日々の生活にも大きく影響してしまうということも忘れてはなりません。

また生きていく上では、コロナ以外にも様々なリスクが存在します。ゼロリスクにすることは不可能な中で、何のリスクにどれだけのリスクヘッジのコストを掛けるかの判断も大切になります。

客観的な数字で言えば、

福岡市内で現在新型コロナウイルスで亡くなった方の数は、今日までの累計で59人で、その平均年齢は80歳です。

福岡市内で1年間に肺炎で亡くなる方は、最新データの過去5年平均で905人です。

今年度は当初予算と比較して税収等で約160億円の減収を見込んでいます。市民生活や福祉サービス、経済対策などに使える財源が大きく減少することになります。

また、学校の休校などが続いていますが、今年は小、中学生の自殺が既に去年の倍になっています。

ちなみにインフルエンザでも毎年たくさんの方が亡くなっていますが、今シーズンは福岡市内の指定された医療機関の患者報告数はゼロです。

これらの数は新型コロナウイルスの被害は相対的に見れば小さいから無視していいと言っている訳ではありません。まだ特効薬も出来ていませんし、若年者にとって重症化リスクはかなり小さいものの、特に高齢者や基礎疾患のある方にとっては大きなリスクです。ですから社会全体で感染対策をしっかり行うことは重要です。

ただ、何から何を守るのか。コロナから身を守り、医療関係者の負担を軽減するために、どれだけの経済的な打撃を許容し、かつ国民の収めている税金を対策費として投入するか、この塩梅の判断は簡単ではないし、正解はないし、その人がどこに重きを置くかで塩梅のベストバランスが変わってくると思うのです。

全国的にもコロナの陽性者が増えていますし、寒くなれば換気も悪くなり、福岡でも陽性者は増えてくるでしょう。そうなれば市民の皆さんにも様々な活動自粛をお願いすることがあるかもしれないし、場合によっては緊急事態宣言的なものがまたあるかもしれない。そうなれば、前回以上に多くの方の雇用と収入が危機的な状況になります。

それを考えれば、今、福岡県全体でも感染者数が少ない状況において、GoToの対象から福岡を除外することは、「予防的措置として行う政策」としては、あまりにもその代償が大きすぎると判断するからです。

福岡市では、陽性者がひとり判明した場合、濃厚接触者だけでなく、広めに検査対象者を設定して検査しています。国の基準では、濃厚接触者は1メートル圏内に15分以上いた人という基準があります。
福岡市ではその範囲を超えて、一緒に仕事や会食したとか、特に介護施設や病院の場合は施設にいる人全体を検査する場合もあります。
因果関係は明確に言えないですが、現在のところは、そのような形で検査対象範囲を拡大させることが、感染拡大防止に繋がっているのかもしれません。

移動PCRセンターも作りましたし、検査能力も拡大しています。

もちろん市中感染が広がって検査と隔離が追いつかなくなれば、前回もしくはそれ以上に陽性者の数が多くなるかもしれません。

ただ、行政としても出来る対策はしっかりと打ちながらも、市民の皆さんの経済活動にストップをかける施策については、医師でもある副市長とともに、その時点での感染状況やその効果と代償をしっかり見極めながら慎重に判断しなけばならないと考えています。

市民生活に対し、最小の経済的ダメージで、最大限の感染防止効果を生むことが最も大切なことだと思うからです。




福岡市長 高島宗一郎