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留意事項 アビガン錠® 催奇形性の適正理解

2020年05月22日 05時16分52秒 | 救急医療

留意事項 アビガン® 催奇形性に対する適正理解:妊婦さんの救急医療

 

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野

救急科指導医・専門医,麻酔科指導医・専門医,集中治療専門医

松田直之

 

はじめに

 新型コロナウイルスの関連で,薬剤の催奇形性について,救急外来で質問を受けることがあります。妊婦さん,また妊婦さんではない方から催奇形性の質問を受けられた場合は胎盤通過性催奇形性,または神経発達障害などの胎児毒性として,正しく説明することが必要です。その上で,救急領域における妊婦さんの急変対応で胎児毒性や催奇形性として注意するものは,解熱鎮痛薬(インドメタシン,ロキソプロフェン,ジクロフェナク,アセトアミノフェンなど)てんかん治療薬(バルプロ酸),抗凝固薬などです。また,生活習慣としては,タバコ,ニコチン,アルコールは危険であることを,妊婦さんに説明させていただいています。また,新型コロナウイルスSARS-CoV-2やおたふく風邪などのウイルス感染症では,使用する薬剤とは関係なく,精巣や副睾丸や卵巣に病巣を作る可能性がありますので,罹患時には妊娠しにくくなったり,流産や催奇形性などの危険性があります。催奇形性という言葉は,薬剤開発の上で私たちは,とても気をつけなければならない事象なのですが,多くを正しく理解することが必要です。催奇形性の説明として,以下のような説明としていますが,参考とされてみて下さい

 

催奇形性について:具体的説明例として

説明例 1:一般のみなさんへ「多くの薬物は胎盤を通過しますので,妊婦さんでは,薬やその代謝産物が胎児の血液中に入ることによる影響や,催奇形性に注意しています。胎盤を通過しやすいのは,特に分子量が300〜600程度の分子量の小さな薬物です。そして,血漿蛋白との結合率が低い薬物(蛋白結合率の低い薬物)や塩基性薬物は,服用後に血中濃度が高くなりやすいために,胎盤濃度も高くなる可能性があることに注意しています。一般の知識としては,受精後19 日から37日,つまり妊娠約2カ月までは子供さんの臓器などが作られる時期ですので,まず,この妊娠2ヶ月までは胎盤を通過する薬剤はすべて,救急・集中治療では原則として使用していません。」

説明例 2:女性の皆さんへ「皆さんが胎児毒性や催奇形性で一番気をつけるべきものは,タバコ,アルコール,そして頭痛や解熱などに用いる消炎鎮痛薬や解熱薬です。頭痛がするからと妊娠したことを知らないで解熱鎮痛薬を飲むことに注意して下さい多くの解熱鎮痛薬は胎盤を通過するので,胎児に影響が出る可能性が高いのです。妊娠初期に,不注意に解熱薬や鎮痛薬を服用すると子供さんの催奇形性や流産の可能性があります。今は,薬局でロキソニン®やイブ®などの市販薬を,頭痛薬や解熱剤として簡単に購入できます。こうした解熱剤は,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs)という名目で分類されています。妊娠初期には流産を増加させ,妊娠中期以降は子供さんの動脈管を閉鎖させてしまう危険性があるために,妊娠中の使用は禁止です。39℃とどうしても熱が高く,解熱薬として使用したほうが良い場合,解熱鎮痛薬ではアセトアミノフェンを私たちは処方しますが,アセトアミノフェンですら胎盤通過性があり,子供さんへの影響が完全に否定できるものでもありません。このため,妊娠の可能性がある場合は,妊娠反応検査をさせて下さい。最終月経なども,お聞きするようにしています。」

説明例 3:おじいさんやおばあさんへ「催奇形性というのは,私たちが服用して,私たちが1ヶ月後や10年後に奇形になるというものではありません。催奇形性というのは,まだ生まれてこない子供ちゃん,胎盤通過性と胎児への影響,つまり妊婦さんや女性への薬剤注意喚起の用語と考えて下さい。妊婦さんが周りにいる場合には,気をつけてあげてください。妊婦さんがお腹が痛いとして,お腹を巻くようにたくさんの鎮痛系の湿布薬を貼っている場合があります。痛み止めの湿布は,妊婦さんでは要注意または禁止です。さらに,熱があるからなどと心配して,妊婦さんに市販の熱冷まし,解熱鎮痛薬を買ってきてあげないで下さい。おでこや首のクーリング,アイスノンは大丈夫です。解熱薬や鎮痛薬は,お腹の中にいる赤ちゃんに有毒であること,つまり有害性がわかっていますので,妊婦さんには解熱・鎮痛薬はだめです。催奇形性というのは,妊婦さんに対しての注意事項ですから,おじいちゃんが妊娠していない限りは安全です。」

以上などとして,妊婦さんやご高齢者に説明を加えると良いかもしれませんが,それでも理解が難しいかもしれません。

 

まとめ

 COVID−19が疑われる女性に対して,解熱鎮痛薬を催奇形性や胎児毒性として,絶対に服用して服用してはいけないという報道が期待されます。アビガン®というレベルの問題ではないと評価されます。さらに,妊婦さんが,「便秘のために下剤を処方して欲しい」と救急外来を受診される場合があります。刺激性下剤プルセニドは,流産の危険性があるために禁忌です。妊婦さんの便秘に対しては食物繊維の多い食品を取るように指導しながら,適度な運動と十分な水分補充と食事療法として対応します。救急外来で,一時的に補助的なものとして処方する場合は,マグネシウム塩類下剤,ビタミンB5(パントテン酸)としています。入院中には,ラキソベロンなどを使用しますが,急激な下痢により水分体液バランスが崩れることに注意し,救急外来ではラキソベロンを処方することはしていません。

 また,バルプロ酸テトラサイクリンは,催奇形性があるために妊婦さんには禁忌に準じるものです。バルプロ酸が二分脊椎の原因となることは,医師国家試験などとして知らなければならない常識的範疇です。しかし,バルプロ酸に催奇形性があることが明確とされているのに,妊婦さんに禁忌としていないのは,てんかんの治療(ご自身と胎児への低酸素化等の影響)と催奇形性(胎児)をどちらを優先するか,うまく調節できると必ずしも催奇形とならない可能性が残されているからです。このバルプロ酸ように,催奇形性があっても妊婦さんに禁忌ではない薬剤もあります。また,蕁麻疹で,クロルフェニラミンを処方することがありますが,ペポスタチンなども含め抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)も胎盤移行性がありますので,できれば自家感作性湿疹対策を含めた皮膚局所の軟膏にとどめ,抗ヒスタミン薬は処方しないことをお勧めします。胎児への中枢作用については,未だ不明瞭な領域です。

 2019年12月より,新型コロナウイルス,およびその感染症であるCOVID-19が問題となりました。アビガン®には催奇形性があるなどとして,適切な臨床研究が必要などの安全性と有効性を混同したコメントなどが認められます。丁寧に運用されている薬剤は,既に安全性試験としてルーティンに胎盤通過性や乳汁分泌性が評価されており,インタビューフォームに安全性と危険対象が明記されています。催奇形性についても,明確な理解として説明することが必要です。COVID-19においては,解熱鎮痛薬の催奇形性にも注意していることは医師の常識の範疇です。

 そこで,確かにいらっしゃるのです。「先生さあ,アビガン®を飲むと指が取れたり,なくなったりするの?」。催奇形性を誤って理解している場合があります。催奇形性とは,「妊娠中における胎児への催奇形性」として,正確にお伝えすることが大切です。「催奇形性」や「胎児毒性」という言葉は,サリドマイド時代の怖いイメージを持つ用語,恐怖=注意の時代の用語かもしれません。現在は,妊娠の時期に合わせての薬剤の説明として,「胎児影響性」などとして優しく丁寧に説明するように,用語の修正が必要かもしれません。催奇形性という専門用語に対して,現在,適切な用語変換が期待されます。催奇形性や胎児毒性については,生活環境におけるタバコ,アルコールおよび化学汚染等についても,お気をつけ下さい。

 

医師国家試験 予想問題 胎児毒性・催奇形性・流産の危険性のある薬剤と生活習慣

□ 非ステロイド性抗炎症薬 NSAIDs:ロキソニン,イブプロフェン,ボルタレン,モービック,ロピオン静注

□ 高血圧治療薬:アンギオテンシン変換酵素阻害薬,アンギオテンシンII受容体拮抗薬

□ 血栓症治療:ワルファリン:ワルファリン胎芽病,点状軟骨異栄養症,中枢先天異常

□ 喫煙・ニコチン:子宮内胎児発育遅延

□ アルコール:胎児アルコールスペクトラム障害

※ 成人における副作用として知られている薬剤で胎盤を通過するもの(分子量300~600)は,胎児にも同様の副作用が出る危険性に注意して下さい。

  例:抗がん剤,アミノグリコシド系抗菌薬(聴力障害,腎機能障害)など

※ アミカマイシンの分子量は,残念ながら585(<600)であり,胎盤を通過します。

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