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紹介 COVID-19の集中治療:呼吸管理法のANZICSの提案 2020.3.16

2020年03月16日 23時19分51秒 | COVID-19の集中治療

紹介 COVID-19の集中治療:呼吸管理法のANZICSの提案 Ver.1

The Australian and New Zealand Intensive Care Society (ANZICS)

COVID-19 Guidelines

Version 1 16 March 2020

Identification and Treatment of Patients with COVID-19 Infection Fundamental Principles

救急科指導医・専門医

集中治療専門医

松田直之

 

はじめに

 オーストラリア・ニュージーランド集中治療医学会(ANZICS)より,新型コロナウイルス感染症COVID−19ガイドラインが2020年3月16日付けで公表されています。本稿では,COVID-19の集中治療に関する推奨内容と私のコメントを記載しています。

 

ANZICSガイドライン2020

COVID-19における呼吸不全管理の推奨13項目

 ANZICSのCOVID-19ガイドラインVer.1では,COVID-19で呼吸機能が悪化している患者さんの早期認識の重要性を記載しています。 集中治療室(intensive care unit:ICU)では,ICUケアを必要とする患者さんの拾い上げシステムを構築するとともに,管理の早期最適化を目標とします。ANZICS は,COVID-19の呼吸管理として,13項目の治療についての記載をしています。写真をクリックすると,ANZICSホームページにも飛ぶようにしています。ANZICSは,この内容を広く世界に公表したいとされています。ここでは,ICUの医療従事者は,完全防備として,以下の適切な対応を行うことが記載されています。内容の記載の後ろに,私のコメントを付加しています。

1. HFNO療法:スタッフの最適なPPEの着用

 High flow nasal oxygen(HFNO)は,スタッフが最適な個人防御具(PPE:Personal Protective Equipment)を着用している限り,COVID-19疾患に伴う低酸素症の推奨療法である。最適なPPEや感染制御予防策が徹底されている場合,新しいHFNOシステムが適切に取り付けられていれば,新型コロナウイルのスタッフへの空中伝播のリスクは低くなる。 HFNO療法を受けている患者は,陰圧室管理が望ましい。高炭酸ガス血症,低酸素血症,呼吸疲労,循環の不安定,または精神状態が変化している場合は,気管挿管下人工呼吸管理を考慮すべきである。

私のコメント:宇宙服のようなPPEを付けた環境で,陰圧個室管理とできるのであればHFNOは利用できます。また,私は,High Flow Nasal Cannula(HFNC)とブログ内で記載しています。

 

2.非侵襲的人工呼吸:非侵襲的人工呼吸(NPPV)の日常的使用は推奨しない。

 現在までのCOVID-19の診療では,低酸素血症におけるNPPVは失敗率が高く,気管挿管の遅延,マスク適合が不十分な場合のエアロゾル化のリスク増加に関連していることが示唆されている。気管挿管までの遅延に気をつける。NPPVが閉塞性換気障害などの管理として適している場合には,HFNOと同様にPPEを使用して,感染防御を徹底する必要がある。 また,NPPVの患者は,陰圧室管理がよい。NPPVを行うすべての患者については,治療の失敗に対する次の明確な計画が必要である。

私のコメント:NPPVにおいては,エアロゾル暴露の十分に注意します。また,ARDS管理と同様に,気管挿管への以降のタイミングが重要となります。

 

3.気管挿管下人工呼吸管理:急性呼吸不全の管理として,肺保護機械換気が推奨される。

 低換気量戦略(予測体重4〜8mL/理想体重kg)を使用し,プラトー圧を30 cmH2O未満に制限した人工呼吸管理とする。高炭酸ガス血症は,permissive hypercapniaとして容認し,肺損傷を軽減する。高いレベルのPEEP(15 cmH2O)が推奨される。 APRVなどは,臨床医の好みと経験に基づいて検討する。回路にはウイルスフィルタを使用する必要があり,人工呼吸回路は定期交換しなくてもよい。

私のコメント:PEEPを15cmH20までは必要としないケースも多いようです。回路交換については,SARS-CoV-2が回路内で繁殖するわけではないので,アシネトバクター管理のような場合とは異なり,定期的交換は不要かもしれません。

 

4.筋弛緩薬(NMB):適応を定めた使用とする

 筋弛緩薬(neuromuscular blocking agents:NMB)は,悪化する低酸素症または高炭酸ガス血症,また,鎮静だけでは呼吸ドライブを管理できず,人工呼吸器と同期できない場合(dys-synchrony)やおよび肺虚脱(lung decruitment)で考慮する。

私のコメント:2007年7月31日にロクロニウムが日本でも認可/承認され,ロクロニウムを臨床で使用できるようになってから,より一層に筋弛緩薬を集中治療室の人工呼吸管理に使用しやすくなっていると思います。パンクロニウムやベクロニウムの時代とは異なる血漿除去半減期を考慮した使用となります。一方,適応・用法として,「集中治療における人工呼吸中の筋弛緩」はありませんので,こうした使用に厳しくなる傾向があります。薬剤の厳格管理として,院内承認を得てから使用されてください。

 

5.腹臥位療法:腹臥位療法は有効であるが注意が必要

 現在までの報告では,腹臥位療法がCOVID-19の低酸素血症の改善に有効であることが示唆されている。しかし,管理スタッフに適したPPEの着用とし,事故抜管などの有害事象のリスクを最小限に抑える病院ガイドラインに基づいて行われるべきである。

私のコメント:重力性にすりガラス陰影がでてくる場合,これは線維芽細胞増殖に,TGF-βなどの増殖性サイトカインの影響が出ている場合と考えられます。また,このような拡張性の損なわれた箇所に沈下性無気肺も生じてくるのだろうともいます。換気・血流比の改善など,免疫が育ってくるまでの人工呼吸中の時間稼ぎにもなるのかもしれません。一方,事故抜管などによる不幸な事例を避けるとともに,事前に院内で承認を取るとともに,患者さん,患者さん御家族に,十分な説明と同意のもとで施行して下さい。2015年までは,このような厳しい規約はなかったようにもいます。しかし,現在は,集中治療や救急医療における「院内包括的同意」として倫理審査を通しておくことも,急性期医療のルーティン管理として考慮されるとよいでしょう。また,医療スタッフの皆さんがSARS-CoV-2の自己暴露に十分に気をつけてください。

 

6.輸液管理:ドライサイド;厳格水分管理

 肺外水分量を減少させるため,輸液制限とし,経腸栄養量も高用量としないことを推奨する。

私のコメント:輸液バランスを毎日チェックし,尿量0.5 mL/kg/時レベルは必要としますが,過剰輸液に注意できると良いです。確かに,炎症に留意する一方で,輸液管理はドライサイドを皆さんが心がけていることでしょう。

 

7.人工呼吸管理からの離脱:標準的な抜管プロトコルに従う

 HFNOやNPPVは,抜管後のブリッジ療法となるかもしれないが,管理スタッフは厳密なPPEのもとで対応する。

私のコメント:余り抜管を急がないほうが良いと考えています。SAES-CoV-2に対する自己免疫ができるのは,症状発症後約14日〜21日です。抜管した後に肺線維症がでてくる患者さんにも注意します。気管挿管中は,人工呼吸関連肺炎(VAP)に注意が必要ですので,とにかく消化管免疫を維持すること,経腸栄養が必須と考えています。

 

8.気管切開:エアロゾル化対策必須

 気管切開術後のエアロゾル対策に注意し,また患者や御家族の意思決定で考慮する。常に最適なPPEを使用する必要がある。

私のコメント:気管挿管下での人工呼吸管理2週間で,一般に気管切開術を考慮しています。このタイミングを1週間,後ろにずらしても良いかもしれません。

 

9.気管内吸引:閉鎖式回路の推奨

 閉鎖式インライン吸引カテーテルが推奨される。肺虚脱(lung decruitment)とエアロゾル化(aerosolization)を避けるために,人工呼吸器から気管チューブを外さないようにする。

私のコメント:閉鎖回路を使うことは,SARS-CoV-2の管理では必須と思います。これは,このガイドラインに記載されているとおりだと思います。一方,気管内吸引において,必ず酸素濃度を上げるように指示している施設があるともいます。閉鎖式吸引カテーテルを用いる場合には,開放する場合とは異なり,回路内の酸素濃度は一定です。このため,不必要に酸素濃度を上げてはいけません。この時に注意して監視するのは,パルスオキシメータのSpO2の低下程度と心拍数です。SpO2が低下する場合は,末梢気道が収縮するためです。このANZICSガイドラインが提唱するように, PEEPレベルを15cmH2Oレベルに高めた方が良いのかもしれません。このあたりは,集中治療専門などがいらっしゃれば適切にPEEP値を設定してくれることでしょう。また,閉鎖式インライン吸引カテーテルを用いることで,循環変動は起きにくいとされていますが,頻脈傾向が出る時には,頭部後屈・顎先挙上として気管内吸引をしてください。気管チューブの咽頭や声門部への刺激を軽減して下さい。

 

10. ネブライザー:ネブライザーは推奨しない。

 吸入療法では,定量型吸入器の使用が推奨される。

私のコメント:気管挿管チューブの根本でコネクションできる良い定量型吸入器の開発が期待されます。吸入ステロイドなどの気管チューブ内投与なども,統一規格にできると良いと考えています。

 

11. 気管支鏡検査:気管支鏡検査は推奨しない。

 ウイルス性肺炎の診断には必要ではなく,エアロゾル化のリスクを最小限に抑えるためには,気管支鏡検査を避ける必要がある。COVID-19の診断のためには,気管吸引サンプルで十分であり,気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage:BAL)の必要はない。

私のコメント:現在,集中治療における気管支鏡の適応は少なくなってきています。無気肺などができるメカニズムを考慮し,その適正化が優先されるようになってきたからです。そうは言っても,昔からの名残で,気管支鏡による吸痰などをしてしまいがちですが,① 肺胞虚脱,②SARS-CoV-2への暴露のリスクに注意します。

 

12. 抗菌薬:2次感染に注意

 敗血症または敗血症性ショックである場合は,1時間以内に適切な経験的抗生物質を投与する必要がある。COVID-19感染症の一部は,二次的な細菌性下気道感染症を合併している。

私のコメント:細菌感染症の併発に,もちろん注意して対応されて下さい。CRPの再上昇がおきないように管理することがポイントです。私のCOVID-19管理バンドルにも記しています。

 

13. 救命治療:一酸化窒素(NO)吸入療法およびプロスタサイクリン

 急性呼吸不全における吸入一酸化窒素,プロスタサイクリン,または他の選択的肺血管拡張薬にはエビデンスがない。しかし,新興感染症では,腹臥位療法やECMOでも難治性低酸素血症となる場合には,NO吸入療法やプロスタサイクリン併用を一時的な対策としても良いかもしれない。一方,初期のVV-ECMOは,推奨されない。現在までの報告では,COVID-19が上述の人工呼吸器戦略で対応できるようである。VV-ECMOを使用するためには,重症呼吸不全として選択基準を確立し,十分な専門知識と経験を持つ専門センターでEVCMOを導入する必要がある。 ECMOの専門家と早期に話し合うとよい。

私のコメント:ここにプロスタサイクリンが登場するのは,疑問があります。肺における換気血流比を改善させるためのNO吸入療法は,ECMOに移行できない状況では,考慮されても良いかもしれません。一方,日本では,日本救急医学会と日本集中治療医学会と日本呼吸療法医学会が主体となり,日本COVID-19 対策ECMOnetが立ち上っています。現在,日本では300例のECMO対応ができると見積もっています。その上で,ECMOnetが,ECMO管理を指揮していることは,素晴らしい業績です。日本集中治療医学会では,このECMOnetやCOVID−19の集中治療管理の情報をWEB掲載させて頂いています。その上で,現在,COVID-19で心配されていることは,人工呼吸器の数,ECMO対応ベッド数,また集中治療管理のマンパワーです。通常の集中治療管理とCOVID-19の集中治療管理の分離形式,場としての管理区分も重要課題となっています。このような内容は,今後も大きな課題となってまいります。院内発症ではない重症感染症や傷病者管理では,「救命救急センターの充実化」が,本邦における極めて重要な管理体型です。国公立大学病院が,救命救急センターを運営し,平時より人工呼吸管理,代用腎臓管理,ECMO管理などを適切に行うことが期待されます。この指導者として,私などもしっかりと後継者を育成することが大切であると感じています。

 

おわりに

 ANZICSガイドライン「新型コロナウイルス感染症COVID−19ガイドライン」は,ANZICSにより2020年3月16日にホームページに公表されています。他の項目などを含めて,ご参照下さい。

初版:2020年3月16日


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