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意思による楽観のための読書日記

ビルマに見た夢 古処誠二 ****

5つの中編からなる連作集。場所はビルマ、太平洋戦争が始まって2年、植民地化されていたビルマの独立を支持するとして進駐した日本軍だったが、一時は追いやられたイギリス軍が盛り返して、陸地を制している日本軍とビルマの住民に空爆を繰り返している。

熱心な仏教国で、信心深くて人とのコミュニケーションを重要視する、情の篤い人たちと、日本軍の住民対応担当の西隈軍曹のやり取りから、戦争の意味を深く問いかける。

イギリス軍の空爆をきっかけに精霊が乗り移って、次の空爆を予知できると言い出した村人への対応。土木工事への現地住民による協力を求める日本軍に、精霊のお告げをたてに拒否しようとする住民の老婆ドホンニョ。その説得に向かった西隈に、日本語を前の駐屯所長に教わったとういう子供モンネイが付きそう。勤労にアサインされた青年コオンテンはこのから出せない、とドホンニョはいうのだ。精霊のお告げなど日本軍は気にしないことを知りながらも、モンネイもコオンテンもドホンニョの存在を無視したくないという。部落長はそんな状況を判断して、から4人の若者を協力のために出すと言ってくれたが、西隈はドホンニョのことも気になる。社会貢献と老人子供の保護の両立を気にかける村人の温かさに、西隈の思いは優しい「精霊は告げる」。

モンネイと話をしていると、「自分は蒋介石のように偉くなりたいのだ」と言い出した。蒋介石は日本軍と戦っている敵だと西隈が言うと、「4億人の多民族の人民たちをまとめて戦う偉人であり、自分もビルマの1600万人をまとめる偉人になりたいので、日本語を学んで、できれば日本の学校で勉強をしたい」という。前の中津島所長が教えたに違いない。モンネイは更に言う。「日本人は天皇陛下を尊敬する。中国人の蒋介石は日本で学んで戦略の重要性を知った。敵を知り敬えばこそ戦いもできる」と。西隈は中津島の慧眼を悟った。モンネイの将来性を認識したのに違いない。「敵を敬えば」は、西隈が会ったこともない全所長の住民に対する深い思いを知るエピソード。

流行する感染症対策に、日本軍は全住民にワクチンを接種することを決めて、住民を集めるが、長老がワクチン接種に反対しているので、それを気にする住民が躊躇している。長老を説得に行く西隈。長老が言う。「住民が病気になると困るからワクチンを打つんだろう。戦争がなければ我々ここの住民はワクチンなどなくても平和に暮らしていた。戦争があるから軍人がたくさん来て、感染症の心配も出てくる。ワクチンはお前たちの勝手な考えから来ている。打ちたくない住民は放っておいて欲しい」確信犯である。長老は無理としても、長老を気にかける住民の説得が必要だ。ビルマ独立には文明を取り入れることも重要とワクチン接種に来た兵隊が演説するが、長老への尊敬とビルマの独立を願うモンネイの心は真っ直ぐである「仏道に反して」。

「ロンジーの教え」は、ビルマ人がどんな作業のときにも、どんなにじゃまになっても身につけて離さないのが、布製の腰巻きロンジー。どんなに説得しても誰もスボンに履き替えない。ロンジーを身に着けていると早く歩けないし、作業効率も悪いが、それのおかげで日本人が命じたようには速い速度で作業が進まず、適度に疲れる程度で一日が終わる。部落長は勤労に駆り出されているの若者が、ロンジーを身に着けて効率悪く働いていることをわざわざ現地調査にでかけてくるほどである。昼寝の二時間も譲らない。熱帯地方のビルマでは働きすぎは病気や怪我に繋がり、長い目で見ると効率を落とすことを長老は知っている。

モンネイは西津島所長が教えてくれた、そして教えてあげたことを西隈に伝える。日本の美しさ、そしてビルマの文化。誠実、正直、勤勉、これらは両国に共通する国民性である。戦争を遂行するのが軍人の勤めであることはモンネイも理解する。ビルマの独立や経済発展が必要なこともモンネイは知っている。西隈は西津島所長が、ビルマに日本の理想の暮らしを見たことを認識する。ヒトと争わず相手を尊敬し、足るを知る、身の程を知る。働きすぎず、他人に自分の考えを押し付けない。ビルマの人々は自分の祖先であること、そして故郷の暮らしがそこにはあることを西津島はモンネイに伝えようとしたのか。「ビルマに見た夢」。

2020年4月発刊の小説、日本人のルーツはビルマあたりに稲作をしながら暮らしていた人たちだと思わせるようなエピソードが連なります。小説の素材は戦争、しかし読者には毎日忙しく働き暮らしている日本人に本来の暮らしについて問いかけるような内容、都会の暮らしを考えるようなお話、忙しい人にお勧めできます。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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