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意思による楽観のための読書日記

カール・エビス教授のあやかし京都見聞録 柏井壽 ***

「京洛大学」の文学部教授としてイギリスから東京を経て京都に赴任した、京都好き英国人を主人公に仕立て上げた、京都紹介本。京都には、歴史上の逸話やおばけの話、怨霊の祟りなどがたくさんある。それを、教授の担当大学院生という九条葵という女性が先生の付き添いお世話係としてさり気なく紹介してくという流れ。ちなみに、エビス教授は上京の新夷(しんえびす)町に暮らすという設定で、御所と鴨川、出町、廬山寺に囲まれた場所、そこは私自身も小学生時代まで暮らした場所で、まことに懐かしい。

最初に紹介されるのは、相国寺に伝わる宗旦狐。千宗旦に化けた狐が弟子たちを騙すほどの腕前を発揮する、というお話で、その後相国寺の危機をその狐が救った、という逸話から。出町の枡形商店街、その側にあるふたばの豆大福、虎屋の羊羹、鍵善のくずきり、万寿屋の鯖寿司、月の桂の純米酒、末富のわらび餅などが登場。

続いて鉄輪(かなわ)の井戸、松原堺町に住む亭主の浮気に怒った妻が、頭に五徳を被って夜中に貴船神社にお参りする。妻は怒りのあまり井戸の前で死んでしまったため、その井戸の水を飲むと縁が切れる、という逸話。今はホテルオークラになった旧都ホテル、庭の見事な粟田山荘、明石名産で京都人も大好きなイカナゴの釘煮、澤屋まつもとの純米酒、京都人必携の粉山椒と実山椒、志津屋のカツサンド、紫野源水の和菓子などが登場。

六道珍皇寺は生死の境界があり、小野篁はそこを行き来していた、という話がある。そこで出産後死んでしまった母が霊になって、赤ん坊が育つように飴を与える、ということで今でもそこには飴屋がある、と言う話。夏越の大祓の茅の輪くぐり、桂の中村軒の麦代(むぎて)餅、人が死んでいく様を描いたという九相図、グリル富久屋、朽木の比良山荘の鮎の塩焼きが登場。

鳥居本の平野屋は鮎料理で有名、そこに至る道筋には、祇王寺や横笛伝説の滝口寺がある。葵がエビス先生をそこに案内する傍ら、伝説を紹介する。

おかめ伝説では、千本釈迦堂を建てる時の棟梁が、間違って四柱の一本を短く切ってしまい、妻のおかめのアイデアで、四本とも短くして継いで使った。しかし、おかめはそれを苦に自害、棟梁は深く悲しんだ。お多福とはおかめの愛称、釈迦堂にはおかめの像がありおかめ塚と呼ばれる。その他の社寺にも愛称があるというお話では、永観堂は禅林寺、釘抜地蔵は石像寺など。

百夜(ももよ)通いでは、小野小町に恋してしまった深草少将、小町から自分のところに百夜毎晩通ったら思いが通じます、と言われたので、住まいの墨染から小野小町の暮らす小野村まで百夜通い、最後の日に死んでしまった、という話し。墨染には会席料理の名店、清和荘があるので、葵はエビス教授を案内する。

本書内容はここまで。京都の特に上京、中京、下京に住まいを構える人たちのこだわりには、よそ者は辟易することもある。上京に生まれ育ち、その後宇治に引っ越した私でも、京都在住メンバーで集まる時の皆さんのこだわりには感心することも多い。たいてい、「コトとモノ」がセットになっている。坂本のお墓参りの帰りには、逢坂山の「かねよ」で鰻とか、お盆の集まりの時には「木乃婦」の仕出し、だとか。鯖寿司は「いずう」やわ、とか、夏越の大祓の時に食べる「水無月」は虎屋、いや私はどこそこがええ、とか。夏は鱧でどこがええ、冬のすき焼きはやっぱり三嶋亭やで、いやキムラかって私かまへんで、とか。年中行事と食べ物や場所がリンクしていると考えると、京都人はそういう毎年の繰り返しを楽しんでいるとも言える。

京都人はストレートに物事を話さないので、考えていることがわかりにくい、と最近ではケンミンショーでも、イジられているが、身内同士は極めてストレート。「ぶぶ漬けでも」は有名だが、「気がついてよね」というメッセージなので、実は応用が効く。「ええ時計したはりますねえ」と言われれば、もう時間かな、と気がつくし、「ピアノ上達しはったね」と言われれば、音がうるさいのかな、と分かる。それでも、そのことに気が付かないのは、気配りが足らん、という証拠、と言われれば、さらに嫌になるのが、人の常である。一朝一夕では追いつかない、まあ、京都では気長に過ごすこと。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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