私達の身の回りに何気なく咲いている花、本書によればより多くの子孫たちを世に送り出すための巧妙な戦略を持っている。昼夜を区別する光センサー、食虫植物の開閉装置、昆虫を捕らえる振動感知装置、毒と解毒、アリやハチなどを傭兵として使うなどなど。花は甘い蜜や擬態などを駆使して実を結び、種子は動物を操って旅に出る。
タンポポ、漢字では蒲公英、名前の由来は諸説あるが横から見ると鼓の半分に見えるので、鼓の音からタン、ポ、ポ。家の周りのタンポポは在来種ではなくセイヨウタンポポかもしれない。花びらの外側の総苞が反りくり返っているのがセイヨウタンポポで明治初期に乳牛飼料として輸入されたのが最初。高度成長時代に土が掘り返され、受精が不要な無性生殖のセイヨウタンポポが激増した。無性生殖の弱点はすべてが同じ遺伝子を持つため全滅のリスクが高いこと。植物ではドクダミ、彼岸花、ニホンスイセン、じゃがいもも三倍体とよばれる植物で、花が咲いて実を結ぶのではなく球根や地下茎でクローンを増やす。
埼玉県に天然記念物指定を受けている花がある、荒川河川敷に生えるサクラソウである。田島ヶ原で保護されているが個体数は激減している。サクラソウは2つのタイプが有り、自家受粉では受精しない。よってマルハナバチという昆虫の助けが必要だが、その昆虫が護岸工事や流域開発で激減した結果サクラソウも激減した。つまり、サクラソウの周りを囲っても保護できなくて、そのサクラソウを取り巻く環境全体の保護が必要ということ。
カタバミは多年草で春から夏にかけて黄色い花を咲かせる。葉は3つのハートが集まった形の片喰紋としておなじみ。花は朝開き午後に閉じる。薄暗い日は一日中咲かない。ハチが晴れた午前中に活動するのに合わせているという。葉が夜に閉じると片側が欠けたよに見えるのでカタバミ。花は開花期間中次々に結実して振動感知型の炸裂装置となっている。炸裂すると同時にネバネバの液体も飛び散り、振動を与えた動物に付着、こうして種子の拡散を図る。カタバミには蓚酸が含まれ、これはタデ科のイタドリ、ルバーブにも含まれて食べ過ぎると結石を引き起こす。ほうれん草にも蓚酸は相当量含まれるので食べ過ぎには注意。
あじさいは日本生まれ、シーボルトが西洋社会に紹介して世界に広まった。花びらと見えるのは萼、その懐に小さな花を抱く。ガクアジサイの花に見える装飾花は花序の外側に一列に並び、その様子を額縁に例えて額紫陽花。花の色は赤から青がアントシアニン、黄色から白がフラボン、赤から黄色がカロチン、紅がベタレインという科学物質で、アジサイの花の色はアントシアニン、酸性からアルカリ性の土壌性質により赤から青まで変異する。アジサイは青から赤に色を変えて、虫に対して蜜が吸える時期が終わることを知らせているという。
クローバー、マメ科の多年草で、稀に四つ葉があるが、同じ株には四つ葉がある可能性が高く、探すには同じ場所を見れば良い。クローバーの根にはマメ科特有の根粒菌が寄生する。大気中の窒素からアンモニアを生成、窒素固定をするので、根粒菌が植物からは炭水化物やビタミンをもらうのと引き換えになるため相利共生と呼ばれる。同じマメ科のレンゲソウが田んぼに植えられるのはこの窒素固定のため。
植物は動けないので、生え始めたところで一生を過ごす、と思っていたがとんだ間違い。子孫を増やすための戦略の歴史は動物よりも遥かに長くて昆虫や動物も巻き込んでしたたかである。