折にふれて

季節の話題、写真など…。
音楽とともに、折にふれてあれこれ。

桜 記憶の中の風景

2019-04-16 | 抒情的金沢

 

金沢で桜の名所といえば、ここ沈床園である。

 

 

だが、それはあくまでも個人的な思いであり、

その思いをさらに深く手繰るなら、

ある記憶の中の風景が「名所」と言わせているのである。

 

金沢城と兼六園の間を抜ける並木道がお堀通りで、

兼六園の外周を巡る百万石通りとともに

「日本の道百選」にも選ばれている。

そのお堀通りの脇、金沢城石川門を見上げる園地が沈床園だ。

満開のその日、たわわな桜の花をつけた枝が

その重みに耐えかねるように

花見客の頭上に覆いかぶさっていた。

そして、その様子を眺めていて、

ふと、ある情景にたどり着いたのだった。

 

それはもう40年も前のこと、社会に出て初めての春だった。

配属された職場で催された花見の会場が沈床園で、

歓迎会を兼ねてはいたものの、宴席を確保することが新入社員の初仕事だった。

「早く行け!」と午前中には会社を追い出され、

畳一枚ほどのビニールシートを何枚も敷き並べて陣取りする。

同じ職場に配属された4人の仲間で手分けしたのですぐに終わり、

ほかにすることがないので、寝そべって桜を眺めていた。

やがて半日ほどはそうして時間を過ごしただろうか。

そして、その時の記憶が・・・

例えば、研修に追われた緊張がすっとほぐれ、そのまま桜に見入っていたこと

「それにしても...」と、満開の桜の下にスーツ姿で寝そべっている自分たちが妙におかしかったこと

など、思い返せばあどけない所業の数々が鮮やかに蘇ったのだ。

 

ところで。

この場所、今は沈床園とは呼ばないらしい。

もともとこのあたりは百間堀と呼ばれた大きな堀の底で、

金沢城や兼六園から見れば一段下がった場所となる。

それで、沈床園という名で呼ばれ始めたのかも知れない。

しかし、金沢市民なら誰でも知っているその呼び名も今は「百間堀園地」に変わった。

観光用としてはわかりやすいが、

一方で、なんとも味気ない呼び名にも聞こえるのは私だけだろうか。

記憶の中にある桜名所、その名を奪わないでほしい。

この風景を眺めながら、そんなことを思ったりもしていた。

 

 

 

 


Comments (19)    この記事についてブログを書く
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19 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (よっちん)
2019-04-16 22:01:59
就職して私は今年で36年。
世の中がというか
働く環境も様変わりしました。

仕事への不満は山ほどありますが
転職する勇気がないのも事実。
いや、転職する才能がないのが現実。
とにかく頑張らないとね。

応援ぽち
Unknown (かず某)
2019-04-16 22:10:06
こんばんは!!!
美しいですね。
満開の桜と金沢らしい白壁が絶妙な味を加えています。
この場所での思い出が蘇る、、、素晴らしいことだと思います。
私にはそういう場所ってないな〜なんて思いながら拝見させていただきました。
金沢の今も昔も変わらぬ美しさをさらに感じました。確かに名称は変えて欲しくないですね。
Unknown (lunaya)
2019-04-17 00:02:14
juraku-5th さま

桜にも その環境に応じて咲くべき宿命が
あるのだとしたら、お城の周りを彩る桜には
きっとお写真の桜のように咲かなければ
ならないでしょう…。そしてそのミッションどおり、
豪華に雅に気高く咲き誇っている桜さん!
青を敢えて排した(?)背景に 艶やかな晴れ姿です。

桜色の思い出、いいですね!ほっこりしますね!
こんばんは (bara)
2019-04-17 00:19:42
見事な桜ですね~。
思い出のある場所の桜。きっとその頃を桜は見て知って覚えていてくれるのでしょうか。

白壁に映える桜色は見る人の心も奪っているのでしょうね。
そして思い出として残るのでしょうね。
Unknown (笑子)
2019-04-17 10:45:30
わぁ~美しい~!!
なんだろうこの透明感は・・
やっぱり 写真にはお人柄が
知らず知らず写り込んでしまうのでしょう・・(*^_^*)

あまた咲く1つ1つのお花にまで気持ちが込められて
いるように感じてしまいます

「さまざまの事思ひ出す桜かな」
あまりにも有名な松尾芭蕉先生の俳句ですが
毎年毎年桜を見上げるときの気持ちは
もうすべてこの一句に集約できるなぁ。。と思います

お花見の場所取りのお話ですが
私はそれを橋の上から俯瞰して撮りたいです!
桜とシートと新入社員!すでに俳句が(笑)いや川柳が
頭の中に浮かんできます(笑)
Unknown (hitsujigumo3942)
2019-04-17 18:58:26
こんにちは
新入社員の時の思い出の沈床園の桜!
とても優しい色の桜ですね。
桜の色と同じで淡い思い出ですね。
今も‥新入社員さんが花見の場所取りをするのでしょうか?そもそも‥花見があるのかな?
Unknown (サイモン)
2019-04-17 19:25:28
これはこれは♪

「沈床園」の由来、叔父に付いて行って、
金沢で住んでいた叔母から聞いたことがありました。
風流人で、「アンサンブル金沢」や大正琴が大好きで、
重役夫人
として、金沢ライフを堪能していたことを思い出しました。
私の恩人でもある叔父も他界。姉であった私の母親も他界して仕舞い、本人はそれらを知りません。
時代の変遷とは、こんなものかと・・・
Unknown (chacha○)
2019-04-17 19:57:59
見事な桜と石垣
新入社員の初仕事が場所取り
昔はよくあることでした
今は…そうゆう事しないなんだろなぁ
これも、いい思い出ですね。
Unknown (よっちん)
2019-04-17 21:08:34
桜ももう見頃を終え
新緑が楽しみになってきました。

でも、この週末はもう一度
最後の桜を見に行こうと思っています。

応援ぽち
よっちんさん (juraku-5th)
2019-04-18 14:32:49
たびたびのコメントありがとうございます。

ひとつの職場にお務めなのですね。
それも立派なことだと思います。

私はちょうど40歳の時に転職して
今では転職後の職場の方が長くなりました。
けれども、今でも前の職場の同僚や、
先輩後輩たちとしょっちゅう交流しています。
ゴルフや飲み会がほとんどですが
会うと同じ昔話ばかりしていますが、
私にとっては心地いい時間です。

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