赤井は小学生の頃とても引っ込み思案の恥ずかしがりやでした。
目立つのは嫌いで、みんなをまとめる役になったり、先導する役になったりするのは絶対に嫌でした。
だから目を付けられないようにするために、普段から黙っていました。
今にして思えばここまで引っ込み思案で恥ずかしがりやな自分がこうして演劇で舞台に立って演じているのが不思議なくらいです。
今回から、僕がどれだけ恥ずかしがりやだったのか、どうしてそこから変わっていったのかを書いていこうと思います。
小学生の頃、忘れられない事件が起こりました。
あれは小学6年生の頃だったと思います。
授業参観の一環で、学年のフロアを使い6年生全員で一人ずつ保護者の前で自分の名前の由来を発表しなければならなくなりました。
自分のクラス内の人数ですら無理なのに、学年全員でそれも保護者の前という大勢でなんて絶対に無理でした。
そもそも僕は自分の女みたいな名前を当時嫌っていました。（今はむしろ気に入っている）
だからこそ自分の名前の由来を発表するなんてそれこそ嫌でした。
一応その発表に備えて自分の名前の由来を確認したのですが、父からはお坊さんの名前からとった（この由来も当時あまり好きじゃなかった）と聞きましたが母からは知識を持った明るい子になって欲しいという意味と聞き、なぜか意見が違ったので、当時の僕はどっちの由来が正しいのか混乱しました。（結局発表当日は父が見に来たので父の言っていた由来を発表することにしたのですが…）
何度も予行練習が行われましたが、どうしたか忘れましたが、予行練習は毎回自分の番は「まだ分からない」とか適当に言ってやり過ごしていました。
そしてついにむかえた本番。
父が見に来ていました。
そしてたくさんの保護者が見に来ていました。
当時僕は1組だったので一番早く回ってきます。
出席番号も10番、かなり早い順なのでなんの心の準備もできていませんでした。
そしてついに回ってきた自分の番、一応聞いて覚えておいた自分の名前の由来を言おうとしました。
しかし、声が出ません。口も開けられません。
喋ることができず、ただ時間だけが過ぎていき、どうしよう、と焦りばかりが積もっていきます。
だんまりしていると、あることに気が付きました。
一人だけ皆の見ている前で、何も出来ずに黙っている自分が一番目立ってしまっている事に。
それに気が付くと余計に緊張し、目の前がグルグルとしてきました。
ものすごく長い時間だったような気がします。
早く終われ！と何度も心の中で願いました。
でも、自分で何もしていないので中々終わりません。
どれくらいの時間が過ぎたのか分からなかったのですが、結果的に先生が来て、どうするか聞いてきました。
出来ない、と言うこともできずただ僕は首を横に振るだけしか出来ず、次の人に移りました。
何も出来ずに終わりました。
恥ずかしい思いをした僕はもちろん、見に来てくれた僕の親にもがっかりさせてしまったし、恥ずかしい思いをさせたと思います。
家に帰ったあと、父には何で何も言えなかったのか聞かれました。
自分の名前が嫌だったなんて言えません。
僕はまた黙ってしまいました。
父もまた黙りました。
二人でだんまりの時間が続きました。
さっきの大勢の前とは違って、今度は一対一、意を決して話してみました。
自分の名前と由来が嫌だった。
すると、「それで言えなかったのか！」と怒られました。
だから言いたくなかったのにな、と思いました。
僕自身のみならず、父にも大勢の前で恥ずかしい思いと不安な思いにさせて、家に帰ってからは、さらに怒らせてしまうという最悪の日となった。
自分の名前が好きになれない上に、常に、引っ込み思案で人前で話したりすることが苦手で目立たぬように日々を送ってきたことが招いた結果だった。
あの日、怒ったあと、悲しそうな表情を見せた父を、昨日のことのように覚えている。
両親が、愛情を込めてつけてくれた名前を、僕が好きになるまでは、まだ遠い道のりだった。
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