いつ頃からだったろうか、なんだか寅さんが急に老けて見え始めるようになった。おそらく40話を過ぎたころからだったか。


寅さんが主役というよりは、吉岡秀隆が演じる満男がかなり重要な役になり、寅さんの出番はだいぶ減るようになっていった。


寅さんの動きが少しづつ鈍く見えるようにもなって、やはり寅さんも歳には勝てないよなぁと思うようになる。


寅さんだけではない。さくらもおいちゃんもおばちゃんもタコ社長もみんな歳を取った。ファンとしてずーっと続いてほしいが、アニメではないのだから、役者の限界を感じる。


サザエさんのカツオやワカメや江戸川コナンたちは、いつまでも子供でいられるし、ルパンも峰 不二子もずーっと色男と色女でいられる。


しかし、代われる役者のいない『男はつらいよ』レギュラーメンバーは、いつかは世を去らねばならないのだ。


寅さんのなんだかとても寂しそうな後ろ姿を感じとった時、寅さんは何か重い病気なんじゃないだろうかと、ふと思った時があった。


確か第47話の「拝啓寅次郎様」の時だったと思う。次回作は無理ではないかと不安がよぎった。しかし、第48話が制作されることになった。


マドンナは浅丘ルリ子である。私は小躍りする気持ちになった。たくさんのマドンナたちの中で4度も出演しているのがリリー役の浅丘ルリ子である。


リリーが他のマドンナと違うのは、寅さんの事情や性格を知り抜いていることや、寅さんの家族にも、とても信頼が厚いことである。


そしてどことなく寅さんとはお似合いのカップルであり、唯一寅さんと結婚の可能性が見えるマドンナであることだ。


喧嘩しなければ、これほど息の合うコンビはいないだろう。男はつらいよが大好きな人たちは、私の考えに同調してくれるに違いない。


そのリリーが出演するとなると気合いが相当入った作品に違いない。しかも、ロケ地が九州の奄美である。


私の、寅さんは重い病気かもしれないという考えはぶっ飛んで、やはり歳を取ったということなんだろうと自分に言い聞かせた。




やがて封切りとなり、1996年の正月"第48話寅次郎紅の花"を映画館で観た時に、私は『男はつらいよ』の集大成であり、近年の寅さん映画の中で一番満足を得られた作品であると実感した。


心から満足した。


物語の後、寅さんとリリーは結婚しなかったとしても、お互いを大切にして寄り添いながら生きていくだろうと思った。


満男も、ダスティン ホフマンの映画『卒業』なみにどえらいことをやってしまったが、きっと後藤久美子演じる泉と一緒になったに違いないと想像出来た。


これ以上は、作って欲しくない。


こんな素晴らしい作品を第48話で作ったのだから、「山田洋次監督っ、もうこれで完了させてください」と映画が幕を閉じると同時にスクリーンに向かって、私は心で叫んだものである。


そしてキャスト、スタッフに心から感謝と敬意を表したい気持ちだった。




それから、半年ばかり過ぎた時に寅さんこと『渥美清』の訃報に衝撃が走った。(1996年8月4日)


15歳の頃から寅さんを観続けた私にとって、親戚の中の一番好きな叔父さんが亡くなったような気持ちになり、それを知った夜、私は深夜までやっている古い居酒屋に入って一人弔い酒で寅さん映画の思い出にふけり、感謝と別れを告げた。(のち、撮影所で行われた渥美清のお別れ会にも参列した)


渥美清は1991年に肝臓癌が見つかり、最期は転移した肺がんによって亡くなったという。約6年間のがん闘病でありながら、寅さんを最期まで演じ切った。


が、しかし、本当はそのはるか二十年前に最初の癌を宣告されていたようなのだ。(長男 田所健太郎の話)


「オレはもう死ぬんだから、お母さんの言うことをしっかり聞かなきゃダメだ」


幼稚園児だった息子にそう諭したという。


他界する約二十年前となると、第15話『寅次郎相合い傘』あたりではないか。この作品こそ、リリーの再出演で人気を博した寅さんシリーズでも大ヒットした作品ではないか。


船越英二郎もゲスト出演しており、私自身の寅さんシリーズランキングでベスト10に入る名作である。


3人の旅がとても楽しく面白かった。


では、この15話くらいの頃に、最初の癌を宣告されてから、ずーっと寅さんを渥美清は演じてきたというのだろうか・・


若い頃、渥美清は肺結核で肺の半分は切除、2年間の療養生活をした時代があった。つまり、役者になった頃から、身体は弱くてその一生は病いとの闘いでもあったと言える。


しかし、寅さんは風邪もひかないほど元気で明るい人にしか見えない。


癌を宣告されて20年間も寅さんを演じたとなれば、それを微塵も感じさせなかった『男はつらいよ』シリーズは、驚異としか言いようがない。


のちに、最期の方で痛みを堪えながら撮影に臨んでいたことを知った時、私は泣かずにはいられなかった。


奥さんと二人で深夜に散歩したエピソードを聞いた時に、どんな思いで奥さんと歩いたんだろうと思う。


殆ど、スタッフやキャストにも癌闘病を知られることなく演じたという。


ファンの期待に応えるため、松竹映画を支えるために最期まで役者魂を持って演じた渥美清という役者を、俳優の中で私は一番尊敬する。




寅さん映画は、喜劇である。


喜劇を命をかけて演技して、最期の最期までお客さんを笑わせて逝った。


映画『男はつらいよ』シリーズは、一人の役者がその役者生涯を病と闘いながらも、いかに演じたのか、長編連続記録映画であり、役者魂の真髄に触れることが出来る俳優、役者を目指す者にとって最高の教本映画でもある。


役者の道に行くのなら、寅さんが20年ぶりに柴又に帰ってくる第1話から、最期の集大成といえる『紅の花』全作品までを順番に観てほしいものである。


きっと観ていくうちに、観なきゃやってられないくらいあなたも『寅さん』にハマるだろう。そしてきっと、爆笑せずにはいられないだろう。


以下次回。






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過去の公演
『短編劇&スクリーン上映』
銀サギ特別編
〜つつじヶ丘児童館ホール〜


☆終了 満員御礼☆

 

[キャスト]

 

★短編劇:
藤坂みのる    竜ノ宮いか    ねこまたぐりん    真崎明

★映像:
河辺林太郎 赤井ちあき 星ワタル 竜宮いか ねこまたぐりん 真崎明
 
主催】劇団真怪魚
 
 
【公演日程 場所】
 
9月22日(日)
15開演
 
調布市つつじヶ丘児童館ホール
 
 
 
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