寅さんは一体何度、恋をしたのだろう。


その殆どが片想いである。


殆ど、と書いたのは両想いも実際はあったのだが、すれ違いや寅さんの方から身を引いたこともあったからだ。


だが、圧倒的に失恋ばかりだったと思う。


寅さんは惚れっぽい。


出会った人が美人だったり、優しくされたりするとすぐに恋に落ちる。


一方マドンナたちは、天衣無縫な寅さんと触れ合うと、瞬く間に信頼を抱いて心を許してしまう。


もうまるで昔から知っている幼馴染みや親友、時には兄妹、親戚、場合によっては恋人のように接するマドンナすらいる。


だから、寅さんが恋するのも当然じゃないか・・勘違いすのは当たり前だろう、なんて思ってしまう。


私の田舎の幼馴染みの親友には、いつまでも結婚出来ない男がいた。


仲間は全員結婚したのに彼だけが、女と無縁だった。


無縁というのは、付き合うような女がいないというだけで、女友達は誰よりも多かったのである。


彼は、身体はどでかくて頭はツルツルで、どこかのヤクザの親分さんかレスラーではないかと思ってしまうような風貌だつたが、笑うと可愛い顔になり、性格は底抜けに優しく無垢だった。


だから、男も女も友達がたくさんいて皆の信頼も厚かった。


ある時、彼と一番親しい女友達と二人で話す機会があった時に、私は彼と結婚したらどうかと言ってみた。


すると彼女の顔が急に青ざめた表情になって私の方に怪訝な目つきでこう言った。


「そんなのありえない。一度もそんなふうに意識したこともないし、なんでも話せる男友達だけど、付き合うとか考えたこともないし、ましてや結婚なんか絶対に無いに決まってるでしょ」


この言葉にショックを受けたのは私の方だった。


私にとっては最も大事な親友の一人だけに、他人事でなく、私が思いっきり傷ついてしまった。


実はその後も彼に関しては、優しいんだけど付き合う対象には思えないから・・という言葉は、他の女性からも何度か聞いたのである。


その度に、私の心は折れていった。


その友人は、私がたまに田舎に帰って久しぶりに一緒に飲んで、数日後また東京へ私が戻る時に見送りに来てくれて、突然目前から消えたかと思うと、お土産をたくさん買って現れ


「お前の父ちゃんと母ちゃんと妹に土産じゃ」


と差し出すような男である。


そんな人に尽くす男だから、女性にも真心で尽くす。


好きという言葉も言えないまま、彼の目の前でウエディングドレス来て嫁に行った女性が何人いただろう。


しかし、彼はひと言も女たちのことを恨んだり嫉妬したような言葉を私は聞いたことがない。


むしろ、女友達の結婚式に常に招かれ、彼はニコニコと祝福する側にいつもいる。


寅さんと彼は決して似ているわけじゃない。


しかし、完全に共通する点がある。


それは、ふられても、相手の女性の幸せを願っていることである。


寅さんは、ふられても大好きだった女性のこれからの幸せを願って最後は旅に出るのだ。


妹のさくらも素晴らしい。


「お兄ちゃん、あの人幸せになるといいね」


「あー、そうだなぁ。お前も博や満男と仲良くするんだよ」


そう言って木枯しの吹く柴又を一人去ってゆくのだ。


大好きだった女に恨みごとを言ったり、あとをつけまわしたり、幸せを踏みつけることなんか絶対にしない。


恨んだり、ストーカーをしたり、傷つけたりするような奴は、本当にその女を愛していたのでなく、自分を溺愛しているに違いない。


真に人を愛するとは、相手の幸せを一番に想うことではないだろうか。


失恋したら、寅さんを何本も何本も観るがいい。


何度も笑って泣くうちに、しだいに心は清々しい気持ちになって、きっと相手の幸せを少しづつ願ってあげられる心も芽生えてくるだろう。


そして、また、きっとこれから新しい出会いが訪れることを感じてゆくに違いない。


そして、あなたもきっとふらっとひとり旅にでも出てみたらいいのである。


きっと何か、新しい発見や出会いがあるだろう。


そうそう、ところでその友人はだいぶ遅かったが、その後、いい女と結婚出来た。


美人で気の利く芯をしっかりと持ったとても優しい女性である。


しかもひとまわり若い女性である。


残りものには福がある、とはこういうことだろうか。


私は初めて友人から彼女を紹介された時、その晩一人で泣きながら酒を飲んだ。


心底嬉しかった。


独り身を貫いた寅さんには、誠に申し訳ないと思う。


「いいや、良かったじゃねえか。あんたのお友達も幸せになることをオイラ祈ってるよ」


どこからともなく、寅さんの優しい声が聞こえてきそうだ。


さて、シリーズでお伝えした『男はつらいよ』について、まだまだ話は尽きないが、今回はこれでとりあえず終了したい。


連載を書くことにしたのは、ついに『男はつらいよ』の最新作が制作されたからである。


寅さん亡きあと二十数年ぶりの新作とは驚異とも言える。


ここにたどり着くまで、本当に大変だったろうと思う。


山田洋次監督、並びにスタッフ、出演者に心から敬意を表したい。


これを機に日本の若者が、いや世界中の人が寅さんの魅力に触れてほしいと願う。



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過去の公演
『短編劇&スクリーン上映』
銀サギ特別編
〜つつじヶ丘児童館ホール〜


☆終了 満員御礼☆

 

[キャスト]

 

★短編劇:
藤坂みのる    竜ノ宮いか    ねこまたぐりん    真崎明

★映像:
河辺林太郎 赤井ちあき 星ワタル 竜宮いか ねこまたぐりん 真崎明
 
主催】劇団真怪魚
 
 
【公演日程 場所】
 
9月22日(日)
15開演
 
調布市つつじヶ丘児童館ホール
 
 
 
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