中国文化への憧憬、そして、絵本「青蛙緑馬」の出版へ | 後藤 仁(GOTO JIN)の日本画・絵本便り

後藤 仁(GOTO JIN)の日本画・絵本便り

後藤仁ブログ2~絵師(日本画家・絵本画家、天井画・金唐革紙)後藤仁の日本画・絵本・展覧会便り。東京藝大日本画卒,後藤純男門下。「アジア/日本の美人画」をテーマに描く。東京藝大,東京造形大講師。金唐革紙製作技術保持。日本美術家連盟,絵本学会,日中文化交流協会会員。

 私は小さい頃から、中国文化に対して、極めて高い関心と憧憬を抱いてきました。中国の政治経済とは関係なく、その長大深遠な文化・歴史そのものに関心が高いのです。近年の中国(中華人民共和国)の急激な経済発展を受け、にわかに中国経済に注目する人が激増し、最近も中国で活動しようとする経済人・文化人にも度々出くわしましたが、その多くは中国文化への本質的な関心・知識は乏しく、ただ時流に乗ろうとする、金儲け第一主義の人々が大半でした。私は、そのような付け焼き刃的な発想ではなく、長きに渡る中国文化への執心があるのです。
 もし私に前世というものがあるのならば、きっと、中国大陸のどこかに住んでいたのではないかと思うほどです。そうであるなら、中国中南部から西域・チベット辺りの少数民族の文化に関心が高く、強い郷愁を感じたりするので、きっと、その辺りに住んでいたのではなかろうかと・・・。ただ、中国やアジアの旅をする中で、私は度々、中国人に間違われるのですが、見た目は完全に漢民族に似ているようです・・・。


 私が中国に関心を持つようになった理由は、このような遺伝的特質が原点にあるように思えますが、実際の生い立ち上では、1980年(12歳・小学校6年生頃)に始まったテレビ番組、『NHK特集 シルクロード -絲綢之路(しちゅうのみち)-』に感化された事が大きいと思います。また当時、シルクロードをテーマとした、喜多郎のシンセサイザー音楽を好んで聴いていました。
 中学校2年生頃には、イラストレーター・画家を目指すようになり、日本画家・東山魁夷先生の唐招提寺御影堂障壁画や平山郁夫先生のシルクロードシリーズにも大いに影響を受けました。私が私淑する、宮崎 駿さんのアニメ作品では、「太陽の王子ホルスの大冒険」「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」「未来少年コナン」「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」等、多くの作品から多大な影響を受けましたが、それらには、あまり東洋的な作品はありません。しかし、1984年(15歳・高校1年生の初め)に読んだ、「シュナの旅」(徳間文庫)には、西域シルクロードの雰囲気が色濃く漂っています。「シュナの旅」はこれ以降、私の座右の書の一つとして最も好きな宮崎作品となりましたが、この作品の原話は、私が後に絵本化したチベット民話「犬になった王子」なのです。(ちなみに「シュナの旅」は後に、ジブリアニメ「ゲド戦記」の原案となっています。芸術家・作家同士が互いに他作品からの影響を受けるという、複雑で不思議な相関関係にあるのです。)
 ただ、振り返ってみると、さらに昔、1978年(10歳・小学校4年生頃)に放送された、テレビドラマ「西遊記」を見て、潜在的に、中国文化への興味を持っていたようです。奇想天外なストーリーを単純に面白がる半面、子供ながらも、夏目雅子さんの清廉な美しさに魅了されていました。近年、再放送されたのを見て、そのあまりに中国風な作りこみを再認識したのです。
 私は元々、小学生の頃から、日本の歴史文化に興味を持っており、小学校の卒業アルバムには、「将来、考古学者になりたい」等と書いてあります。特に奈良・平安時代と桃山・江戸時代の和風文化の爛熟期に関心を持っていました。日本文化は、中国、さらには、インドからの文化的影響が強いので、私の中国文化への関心の高まりも、日本伝統文化への興味の延長として、ごく自然な流れなのでした。

 

 決定的だったのは、中学校2年生頃から好んで聴きだした歌手、さだまさし さんが音楽を担当するテレビ番組、「NHK ニイハオ!中国」(1983年 15歳・中学校3年生頃)を拝見した事でしょう。この頃から、実際に中国を訪れたいという気持ちが強くなってきました。
 こう書いてくると、何やらテレビやアニメや音楽にばかり影響を受けているように見えますが、実際はそうではなく、幼少期には「孫悟空」等の中国童話を読み、中学・高校生頃には、「聊斎志異」「唐詩」等の中国文学や中国関係の書物・図鑑等を多く拝読して、知識を深めていました。
 高校生(大阪市立工芸高等学校 美術科)の頃には、牧谿、徽宗皇帝、仇英 等が描いた中国絵画への造詣も深まり、大学に入ったら、真っ先に中国へ旅しようと、心に決めていました。ところが私が上京し、美術予備校(立川美術学院)に通っていた21歳頃に、とある事件が中国で起こり、その後しばらく、中国に行く事を諦めていました。
 1990年 21歳で、東京藝術大学 美術学部絵画科日本画専攻に入学し、3~4年生には後藤純男先生(西安美術学院〈大学〉名誉教授、日本芸術院賞・恩賜賞受賞者)の担当を受け、先生の御作品は高校の頃から知っていましたが、改めて、先生の中国を描いた作品からも大いに触発されました。


 中国の国情も安定してきたので、いよいよ中国への旅を希求していたところ、丁度、クラスの友人が中国への旅を計画していると言うので、一緒に行く事にしました。まだ当時は、海外一人旅をした事がなく経験不足でもあり、誰か同伴者が必要だったのです。その初めての中国の旅は、1995年(27歳・大学4年生)、「中国写生旅行 15日間(北京・西安)」です(年代が合わないようですが、私は当時、藝大や日本画界の体質への失望感等が理由で、2年間学校を離れ、留年したのです)。
 この時には、本当は敦煌まで足を伸ばしたかったのですが、中国内で飛行機の便が取れずに、西安行きまでに留まりました。初めて中国の本当の文化に触れ、大感動でした。西安辺りでは、まだ人民服を着た老人がたくさん見られ、昼間から中国将棋(シャンチー/象棋)をしている のどかな光景に、誠に古き良き中国を見ました。故宮博物院・天壇・万里の長城・秦の始皇帝陵・華清池・乾陵・永泰公主墓・大雁塔・小雁塔・興慶宮公園 等の見所が沢山ありましたが、話し出すときりがないので、今回はこれ位に留めておきます。 

 

「中国(北京・西安)の旅」 〈1995年8月20日~9月3日〉 西安・興慶宮公園にて、玄宗皇帝と楊貴妃の悲話で有名! 

「中国(北京・西安)の旅」 北京・故宮博物院 25年前ともなれば、中国人のファッションも今とは違う~ 

「中国(北京・西安)の旅」 西安・宿の近くの夜市にて、毎日通い仲良くなった 夜市で働く青年たち。今は元気でいるのだろうか・・・。  
 

 その後、2008年 39歳 「中国写生旅行 18日間」─貴州省(上海、貴陽、凱裏-ミャオ族・トン族村-桂林、北京/絵本『ながいかみのむすめチャンファメイ』取材)、2012年 43歳 「中国写生旅行 19日間」─チベット・四川省(西寧、ラサ、ギャンツェ、シガツェ、ツェタン、成都-四姑娘山/絵本『犬になった王子 チベットの民話』取材)、2018年 49歳 「台湾写生旅行 22日間」(台北、台中、日月潭、嘉義、台南、高雄、霧台、台東、花蓮、平溪線、九份、烏来)、2018年 50歳 「中国写生旅行 8日間」(上海、西塘)─日中平和条約40周年記念 日中藝術展 - 一衣帯水-(雲間美術館,中国上海)日本画ワークショップ(在上海日本国総領事館)、2019年 50歳 「煙台職業学院書画芸術研究院 成立大会、研討・展覧会」(中国山東省煙台市) 3日間 、2019年 51歳 「中国写生旅行 12日間」(南京〔絵本シンポジウム〕、揚州、西寧、敦煌莫高窟、上海/絵本『青蛙緑馬』他、絵本・日本画取材を兼ねる)と、旅や展覧会・シンポジウム等を重ねてきました。地域で言うと、北京、上海、陝西省(西安)、貴州省、広西チワン族自治区、チベット自治区、青海省(西寧)、四川省、浙江省(西塘)、山東省、江蘇省(南京・揚州)、甘粛省(敦煌莫高窟)、台湾、とかなり広範囲の中華文化圏に渡ります。
 中国地域以外の海外では、インド、ネパール、タイ王国、インドネシア、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、スリランカ、イタリア、バチカン市国の計13か国・地域を写生旅行しています。ちなみに日本国内では、47都道府県の全てを回っています。しかし、まだまだ大した経験数とは言えず、本当はもっと多くの旅をしたいところですが、時間はあっても貧乏画家故、金銭的な問題が一番理由で限界があるのです・・・。

 

絵本『ながいかみのむすめチャンファメイ』 (福音館書店こどものとも) 

 

●福音館書店 公式サイト 「ながいかみのむすめチャンファメイ」  

 https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=2519 

 

○Amazon 「ながいかみのむすめチャンファメイ」    https://www.amazon.co.jp/%E3%81%93%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%A8%E3%82%82-2013%E5%B9%B4-03%E6%9C%88%E5%8F%B7-%E9%9B%91%E8%AA%8C/dp/B00BD52ZKO/ 

 

絵本『犬になった王子(チベットの民話)』表紙

絵本『犬になった王子 チベットの民話』 (岩波書店) 

 

●岩波書店 公式サイト 「犬になった王子 チベットの民話」  

 https://www.iwanami.co.jp/book/b254895.html 

 

○Amazon 「犬になった王子 チベットの民話」  

https://www.amazon.co.jp/%E7%8A%AC%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E7%8E%8B%E5%AD%90%E2%80%95%E2%80%95%E3%83%81%E3%83%99%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%AE%E6%B0%91%E8%A9%B1-%E5%90%9B%E5%B3%B6-%E4%B9%85%E5%AD%90/dp/4001112426/
 

 

 そのような熱き想いを抱きながら、この10数年、中国をテーマとした絵本・日本画の制作や、中国での「グループ展・シンポジウム」の開催を経る内に、元福音館書店編集長で、現在、中国の児童書出版社編集長を務めている絵本編集者・文筆家の唐 亜明(タン ヤミン)さんと出会いました。唐さんは、日本を代表する絵本出版社の福音館書店で、優れた中国民話絵本 等を多数手掛けておられ、加古里子さんの文章による「万里の長城」等の絵本の編集にもたずさわられたと記憶しています。
 唐さんといつか良い仕事をしてみたいなという思いは、初絵本を手掛けた頃からありました。もう少し早くにお会いしていたら、唐さんの編集で、福音館書店から何冊か絵本を出せていたのかも知れませんが、物事は時と運次第とも言いますので、やむを得ません。私は、今現在、精一杯に絵が描けられさえすれば、本望なのです。
 数年前、その唐さんから、中国での絵本出版の話が舞い込みました。原話は、唐さんが永年、絵本化したかったという、チベットの素晴らしく面白い民話です。私は喜んで、この仕事を受ける事にして、2018~19年の1年位をかけて日本画で丹念に原画を作画しました。
 本来なら、2020年1月には出版予定でしたが、この度の新型コロナウイルスの影響を受け、出版は半年以上も遅れ続けています。しかし、中国の経済が通常の流れを取り戻した頃には、満を持して発売されるものと期待しております。また、順調にいけば、日本での翻訳出版もぼんやりと予定されていますので、気が早いですが、お楽しみにしていて下さい。発売時には、またおいおい、ご案内いたします。 
 一冊目がなかなか発売に至らないですが、さらには、中国向け絵本の”第二弾”も現在、作画中です。こちらの壮大な史劇絵本も乞うご期待、来年頃には刊行予定!?
 さらにさらに、絵本”第三弾”も構想中!!! まっこと厳しき御時世ですが、絵を描きたいという情熱だけは、どこまでも前向きです~~ (^・^)ノ。 

 

もうじき中国にて発売予定!!  

 絵本『青蛙緑馬』 

 〖中国原創絵本清品系列/浙江少年児童出版社,伝世活字国際文化メディア・小活字、中国〗 

  文 唐 亜明/画 後藤 仁 

 

絵本『青蛙緑馬』表紙 

 『青蛙緑馬』は、カエルと馬が躍動し、主人公の美男と美女が活躍する、面白くも哀しい、壮大な愛の物語です。
 困難の多い昨今、子供から大人まで、人の”愛”や”生と死”を深く考え・見つめ直す良い機会にもなる、素晴らしい絵本だと思います。中国の少数民族・チベット族の民話。


 日本と中国とは歴史上では、何度となく衝突・対立と和解・協調を繰り返してきました。しかし、それは政治的な側面であって、文化的・経済的には古代より連綿とつながり、お互いに良い作用を与え合ってきました。民族的に考察しても、日本人は元々、中国大陸からの渡来人が大多数だと思います。すなわちアジア、ひいては世界中の人々は、皆、同朋なのです。
 今後も厳しい世界情勢が続く事が予想されますが、どんな時代においても、文化・芸術・美術は国境を越えて一帯であり、将来的にも各国間での良き関係性を築き続けなければいけないのです。それには私達、創作にたずさわる者達の不断の努力というものも不可欠なのです。そして、その芸術・美術を楽しみ愛好する一般大衆の関心・応援無くしては、成し得ない事なのです。 

 今後の、日本と中国の文化交流のさらなる発展と、日本文化の真の興隆を、心より願っています。

 絵師(日本画家・絵本画家) 後藤 仁