2020年8月31日月曜日

「事務管理」について(前編)

 司法書士の岡川です。


今日は、文字通りの意味のようでそうでもない法律用語、「事務管理」を取り上げたいと思います。


「字面のイメージと実際の意味がかけ離れている法律用語ランキング」を作ればおそらくトップ3に入るであろう「事務管理」ですが、法律用語としての「事務管理」は、単に「事務を管理すること」のような意味ではありません。


民法には、次のような規定があります。


民法697条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。


つまり、法律用語としての「事務管理」とは、「法律上の義務なくして、他人のために、その事務を処理する行為」をいいます。


単なる「事務の管理」よりも色々と条件が付いていますが、このような限定的な意味でしか「事務管理」という言葉は使われません。


イメージがわかないかもしれませんが、例えば、「隣の人が留守中に電話料金の集金が来てたので、代わりに立替払いした」とか「隣の人が海外旅行中に台風が直撃してその人の家の窓ガラスが割れていたので、修理した」とか、そういう行為をいいます。


典型例として挙げられているこれらの事例が適切かはさておき(私も大学生時代に事務管理の概念を知ったのですが、「隣の家の窓ガラスを修理って…そんなヤツおらんやろ」と思ったものです)、とにかく、委任契約とか請負契約のように、何かを頼まれてやるのではなく、事情があって「頼まれてないのにする」という場合、事務管理が問題となります。


本来、自分のことは自分でするというのが原則であり、勝手に他人が口を出したり手を出したりすることは想定されていない(義務はない)し、それどころか場合によっては違法になることもあります。


しかし、事情によっては、義務はないけど他人が代わりに手を出すことが必要な場合があります。

その場合に、好意でやってあげたことで不法行為が成立し、損害賠償を請求されたりしたらたまったものではありません。


そんな世知辛い世の中にならないよう、相互扶助の精神が活かされる制度が民法の中に置かれたわけです。



では、もう少し詳しく事務管理の要件と効果についてみていきます。



まず、当然の要件なのですが、「法律上の義務がないこと」。

法律上の義務があるということは、例えば委任契約があったり、後見人であったり、その義務が発生する何らかの法律関係があるはずです。

よって、その場合は、その法律関係に基づいて事務処理を行うべきであって、事務管理の問題にはなりません。



次に「他人の事務の管理」です。


「事務」というと、デスクワーク的な何かをイメージしがちですが、実際はかなり広い概念でして、「人の生活上の利益に影響を及ぼす一切の仕事」というように定義されます。

お金を払う、屋根を修理する、ご飯をあげる等々、法律行為だろうが事実行為だろうが事務管理における「事務」になりえます。


そして、もちろん「他人の」事務の管理ですので、自分の家の修理をすることは事務管理ではありません。



また、「他人のため」とあるとおり、他人のためにする意思をもってしなければなりません。

他人のためにすることが、同時に自分のためにもなるというのは別に構わまいのですが、専ら自分のためにする場合は、事務管理が成立しません。



加えて、「他人の意思ないし利益に反することが明らかでないこと」というのも要件です。

事務管理を始めると、管理を継続する義務がありますが、「事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるとき」はこの義務を免れます。

そういう場合にまで、事務管理を成立させる意味がないことになります。



さて、これらの要件を満たせば、法律上の「事務管理」が成立します。

事務管理が成立するとどうなるかというと…



ちょっと長くなったので続きは次回ということにします。



では、今日はこの辺で。

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