静岡市の職員が南アフリカの多肉植物を盗掘したことについて、怒りに震えておりますの件。

静岡市の職員が南アフリカ産の多肉植物を盗掘!?

「興奮してついポケットに…」くらいなのかと思った

今朝のこと。
何気なくニュースをチェックしていると、こんな記事が目に入ります。

 静岡市は10日、今年5月に南アフリカを旅行していた市環境局の40代の男性職員が、同国の法律で保護対象となっている多肉植物を採取して逮捕されたと発表した。職員は現地の裁判所で有罪判決が言い渡されるまで約2カ月間拘束され、7月に罰金約2万ランド(16万円)を納付して釈放された。市は同日、信用失墜行為に当たるとして職員を減給10分の1(2カ月)の懲戒処分にした。

引用元:南アフリカで多肉植物を採取の静岡市職員、現地で2カ月拘束 – 毎日新聞

詳しく読むと、どうやら旅行中にユーフォルビアを盗掘し、現地当局に逮捕されたとのこと。

 市によると、職員は4月26日~5月12日の日程で南アフリカを1人で旅行した。同月9日に「ユーフォルビア」など数種類の多肉植物を所持していたところを現地当局に職務質問され、同国の自然保護法違反容疑で現行犯逮捕された。道路脇に自生していたものを採取したという。

引用元:南アフリカで多肉植物を採取の静岡市職員、現地で2カ月拘束 – 毎日新聞

このニュースを読んで僕は、なるほど植物好きがテンション高くなっちゃって、ついつい大好きなユーフォルビアを盗掘してしまったのだろう…。

で。
ポケットに1~2本入れて持ち帰ったところで現行犯逮捕されたのか…なるほど、なるほど。
…くらいのニュースなのかと思ったのです。

2種類53株を引っこ抜いて「観賞用でぇ~す」

ところが、もう1つの記事を読んだとき、この人物の印象がガラリと変わりました
その記事には、

男性職員は2019年5月、旅行先の南アフリカ共和国で、道路脇に自生していた多肉植物2種類53株を採取し、所持していたところを現行犯逮捕されました。

引用元: 多肉植物を採取して南アフリカで静岡市職員逮捕 市は減給処分(静岡放送(SBS)) – Yahoo!ニュース

とあり、さらには、

静岡市によりますとこの職員は野生植物の採取が禁じられていることは知っていたものの逮捕されるほどだとは思っておらず、「観賞用に持ち帰るつもりだった」と話しているということです。

引用元: 多肉植物を採取して南アフリカで静岡市職員逮捕 市は減給処分(静岡放送(SBS)) – Yahoo!ニュース

とのこと。
要点を書き出すと、

  • 2種類53株のユーフォルビアを盗掘し
  • 禁じられていることを知りながらも、大量に持ち帰ろうとした

という、どう考えても趣味家が「観賞用」に盗掘したとは思えないありさま。
別の記事を読んではじめて、ニュースの精度が変わり、僕の考えも変わりました。

なぜなら、同じ種類の植物を大量に観賞するマニアはそうはいないから。
僕の肌感覚でも、同品種が5株くらいに増えてしまったら「これは増やしすぎたわい(テヘペロ)」と思うくらいですよ…。
つまり、売買目的のために南アフリカへ赴き、持ち帰ろうとしたのだと断定せざるを得ません。

そのうえで僕は、この静岡市の職員が不正に植物を売りさばこうとしたとみて話を進めます

このニュースを深く知れば知るほど、腹が立つ

このニュースに触れて、各人、様々に思うところがあるかもしれませんが、僕は腹が立って、腹が立って仕方がないのです。
冷静になって考えると、3つの「沸点」と1つの「噴火点」があることに気が付きました。
まず、怒りの「沸点」を挙げると、

  • 植物を1から育てる国内業者を圧迫すること
  • 静岡市民(県民)はこのまま騙され続けて職員を養う税金を支払うということ
  • 違法に採掘された株を知らないで買わされること

そして、いちばん腹がたっている「噴火点」が、

  • 僕も南アフリカに行ってみたい憧れがあるから

ということで、まずは「沸点」からひとつひとつ、イライラしながら書き進めてまいります。

僕がイライラする3つの「沸点」

① 植物を1から育てる国内業者を圧迫すること

僕はいま、鉢物を生産する会社で働かせていただいています
休みの少ない現場でありながらも、ほぼほぼ毎日、何かしら植物と対峙しています。
さすがに辛いと思うことも多々あります。

それでも続けていられるのは、植物が好きだからということもあるし、工夫すればさらに発展できる業種であると心の底から思うから。
そのためにタネから育てたものを「商品」として市場に流すまで、工程を休みなく回し続けているのです。

そんなことは僕だけではなく、全国の鉢物農家さんもほぼほぼ同様です。
今年はダメだったけれど、来年はこうすればもっと良いものが作れるだろう。
お客様に手に取ってもらえるよう、より高品質で丈夫な、観賞価値の高い品物を如何につくれるのか
文字通り、休むことなくあくせくしているのです。

photo credit: Euphorbia pulcherrima en Navidad via photopin (license)

そこに海外からの不法に盗掘された、完成品が流れてきたらどうなるのでしょう。

理解の前提のために、ここで昨今人気の「珍奇植物」事情をば。

自生地から立派な年代物の植物が入ったとき、業界用語で「山採り(自生地から)」の「現地株」とか「現地球」などが入荷!?と騒がれたりします。
塊根植物(コーデックス)の類で使われることの多い言葉ですが、そのほとんどは輸入の際の検疫で土を落とすために根を切られていることがザラ
結果、発根することなく枯らすリスクも高いのです。

ゆえに未発根の株は比較的大きなサイズであっても格安で売られていることがあります

もし仮に、タネから育てる「実生」の株を同程度にまでに仕上げた国内の生産農家がいたとしたら、それはきっと、国内産のほうがずっと値が高いはず。
そりゃそうですよね。
冬場に暖房を使っていればそれだけ油を喰っているワケで、他にも水を与えたり、植え替えたりと人件費だって掛かる
つまり、専門店でみかけるサボテン・多肉植物の価格が高いのには理由があるのです。

そこに現地球がワンサカと入ってくれば、国内農家なんて商売あがったり
そもそも、海外の労働者に安い対価を払い採掘させ、さほどの労力もなく大金が稼げる一種のプラントハンターは職業としては魅力的なのかもしれませんが、趣味の幅を広げる役割を担う人間としての倫理はいかがなものか…。
と、僕は思うのです。
たぶん、皆さんも同じように異論はないかと思います。

今回の件は、職員が1人で行った犯行とされていますが、気軽にやったことが誰かの迷惑になっている…という自覚はあったのでしょうか。

② 静岡市民(県民)はこのまま騙され続けて職員を養う税金を支払うということ

次に、職員は「観賞用として盗掘した」と説明しているそうですが、何10株もの同じ品種の植物を一堂に並べて観賞するとは、常軌を逸しています
果たして、ほんとうに「観賞用」なのでしょうか?
なぜ正直に「売買目的で」と説明しなかったのでしょうか。

地方公務員は法律で、大規模な副業が禁止されているのが前提(最近は緩くなりつつあるよう)ですが、農業は認められる場合があるそうです。
それなら、良いじゃないですか。
声を大にして「根が出るまで育て、売りさばき、大金を稼ごうとした」と言えば
それをコソコソと「観賞用」と言ってる時点で無性に腹が立つし、実際に売買する目的えあるのならば、市民にウソをついたままということにもなりかねない。

それを10%の給料をひいただけでノホホンと働かせている静岡市は、なんて良い労働環境なのだろうかと感じます。
ほんと、「静岡市はいいねぇ。」。
素晴らしいです。
…えっ、皮肉を言ってるんですけど、通じてますか?

もう一度言います。
毎日新聞の記事によると静岡市の職員はたった2カ月間10%の給料カット
10%にカットではありません。
給料から10%を差し引くということ[*01]。
しかも、総額で支給される「給与」ではなく、基本給のような「給料」からなので、諸々の手当てはつくのでしょう…。

静岡市で公表されている資料によると、一般行政職が41.1歳で平均給料月額が 326,858円。
それに10%を引いてもおよそ294,000円。
公表されている資料と同基準で10%の「給料」を差し引いた「給与」を弾き出せば、およそ385,000円です。
園芸業界に、しかも生産に携わる従業員たちは、これだけの給料をもらっている人がどれだけいるのでしょう。
恐らくは20万円行くか、行かないかが相場ではないのでしょうか。

さらに2週間以上の休みを得ているうえ、自らの悪行で2ヶ月ほど職場に穴をあけるという行為でも、減給処分のみ
外国で「逮捕」され、現場に多大なる迷惑を掛けているのにもかかわらず、免職でもない。
もしも園芸店のユーフォルビアを転売目的で大量に盗んで逮捕されれば、普通の企業ならクビではないですか?
悪質さはこれと同程度だと僕は考えるのですが、静岡市の判断基準は違うのですか?
どれだけ、地方公務員法はザルなのですか?
どれだけ、公務員の職は「安定」しているのでしょうか。
まじで、「静岡市はいいねぇ。」。
素晴らしいです。
…えっ、あらためて皮肉を言ってるんですけど、通じてますか?

③ 違法に採掘された株を知らないで買わされること

そして、そのようにして流れてきた不法な植物を買わされた人の気持ちも考えるとやりきれない
どういう経路であれ、消費者は「正規のルート」で流通された植物を買っていると思うのが当然のこと。
正規のルートというのは例えば、国内で生産されたもの、あるいは合法的に許認可を得て海外から持ち込まれたもののこと。

中にはどんなルートであれ、その植物が手元にあれば良いという方もいるかもしれません。

ですが。
一般的な消費者が、ヤフオクであれ、メルカリであれ、はたまた専門店であれ、それなりの価格に設定された商品に対価を支払っているゆえ、まさか違法に掘り取られた植物を買ったとは思いもしません
僕だって、できればそんな品をコレクションに入れたくはありません。

植物が「商品」というカタチとなっては、元をたどるのが難しい
これがいまの現状なのです。

農産物には「顔の見える生産者」という仕組みが相次いで導入されています。
園芸植物についても、同じようなことが必要な時代にきているのかもしれません。

現在はまだ、生産者や販売業者のモラルに寄るところが大きいのですが、こうなってきている以上、何か有効な手立てを行う必要があるのではないでしょうか。
もっとも、それが「ブランド」という新たな価値に繋がるやもしれないですし…。

僕が怒りで震え、ハラワタが煮えくり返っている「噴火点」

南アフリカ盗掘ツアー中、僕とそれを取り巻く園芸業界は…

そして最後に。
温厚な(?)僕が今年1番、腸が煮えくり返ったことをキレ気味に書いてまいります。

この職員が南アフリカへ盗掘旅行を満喫しているあいだ、僕は1日の休みもなく、働いていました
そうです、母の日商戦のためです。
きっと、園芸関連の多くの業者は母の日に向け、死ぬ気で働いていた人が少なくないでしょう。

ですが僕は、こんな働き方をしていてはいつか、現場が疲弊し、園芸という文化すらも良い結果にはつながらないだろうと考えています。

休みの日は休んで、趣味の園芸などに精一杯、力を注ぎこむ。
園芸は娯楽という要素を多分に含んでいる以上、売り手・作り手が楽しさを分からないのでは本末転倒です。

…ということを、以前、記事に書きました。
詳しくは以下のリンクよりご覧ください。

そのうえで僕は何が言いたいのかと言うと、1日も休まず植物を育て、やっとの思いで出荷している人間がいるということ。
かたや17日間もの休みを貰え、植物を売れば多くの旅費を賄える、いわば「南アフリカ・ロハ(無料)ツアー」を敢行した静岡市職員。
結果、あくせく仕事をしていた生産者がバカを見るなんて、そりゃあ不公平だわなと、声を大にして言いたいのです。

とはいえ、です。
園芸業界も休みもなく、低賃金というのは是正しなくてはならない問題であり、だからこそ、あれやこれやと試行錯誤を繰り返しています
そんなところへ、こんな人間のために業界が圧迫されてしまうのは、到底、許すわけにはいきません

静岡市「環境局」の対応に疑問

静岡市は真相を明らかにしていませんが、 53株もの植物を持ち込んだ正当な理由を納得するまで説明してほしい

『他にも同じ品種の株をそれぞれ25株ずつ100種類持っているので、新しく2種類導入するために25株ずつコレクションに入れようとした…』
『キッチン・トイレ・リビング・ベランダなど、計25か所に1株ずつ置いて、ユーフォルビアを愛でようとしたが、もう1種類置いて、品種ごとの生長を楽しみたかった…』
『そもそも、栽培が下手糞過ぎてすぐに枯らしてしまうので、53株あれば、そのうちの1つは元気に冬を越せるかなと思った…。まぁ、何かしらの暖房器具は必要かなとは思ってるんですけどね(笑)』

くらいでやっと納得できるかもしれませんが…。
できないか(笑)。

で、忘れてはいけない重大なことは、「環境局」という、環境を保全する立場にあるであろう行政機関に従事する人間が、南アフリカの貴重な資源を引き抜き、環境を破壊したことについて、当の「環境局」から、なんのアナウンスもなされていません

南アフリカには多肉植物をはじめ、多くの絶滅に瀕した動植物が存在します。
それらに対して、保全活動を啓蒙するとか、職員に再教育を行うとか、募金をつのるとか、何らかのアクションを起こすべきではないのでしょうか?

冷静になって、怒りに震える理由を考えてみれば…。

ってか、正直、僕はこの人について、なんの興味も関心もありません。
数年間できっと、色のついていないお金を1円くらい彼にお支払いした以外、なんの関係もありません。
けれど、僕はいま、怒りに震えています
怒りに震える手で、キーボードがクラッシュするほど打ち叩いています。
近所迷惑です。

なぜ、そこまで腹が立つのか。

それは単なる『嫉妬』です。
えぇ、僻みです。

僕も南アフリカに行ってみたい憧れがある。だからこそ。

僕がのめりこむ趣味園芸のほとんどは南アフリカ産の植物で成り立っています。
だからこそ、南アフリカには死ぬまでに1度は行ってみたいし、おいそれとは訪れることのできない旅費であるゆえに、憧れが芽生える

多肉植物を効率よく観賞するためにカーステンボッシュ植物園に行きたい。
神秘的な球根植物の開花を望める神々の楽園をこの目に焼き付けたい。
ほんとうに道端に多肉植物が生えているのか、はっきりと確かめたい。

そんな希望を持ちながら、幾度となく発刊される自生地を映した写真集や雑誌をなけなしのお小遣いをはたき、手に入れては眺め、その地に立つ自分を妄想しては悦に浸るのです。
多肉植物に興味があるのなら誰でも『南アフリカ 多肉植物 自生 画像』と、一度は検索したことがあるはずです。
真夜中に南アフリカの植物が某番組で放送されるときいて、半ば眠りながらもみていたら見当違いの内容だったこともありました。
果ては南アフリカの植物に憧れて、ツアーの資料を取り寄せては、何度も読み込み、旅費をみては溜息をつく毎日…。

そんな悩める僕らの遥か彼方で、5月9日、日本国の「環境局」の職員が、憧れの多肉植物を引っこ抜いて大量に持ち帰ろうとしている…。
しかも、「母の日を通した園芸」のために休みなく働いているときに!!

キィィィィィィィィィィィィィィィィィヴfsdkぁcふいdvhふしあyhふぃおぎdvhすあ;kl!!!!!!

タネから育てた植物を誰かに届けるために、今日も働こう!

ほんとうはこのニュース、スルーしようかと思ったのですが、情報が入るにつれ、さらにその情報を読み込むにつれ、ふつふつと怒りが込み上げてきたのです。
もう、この怒りをどこにどうぶつけたらいいのやら

仕方がありません。
この怒りをバネに、働くしかありません
いつかの南アフリカへの渡航のため、園芸文化に奉仕し、勤労してまいります。
世のため、人のため、そして花のため。

みなさん。
台風で被害にあわれた千葉県などの農産物を買い、応援しましょう
そして、日本全国、汗水流してタネからつくる僕らの鉢物の商品を、どうぞお買い求めくださいませ

  1. 法律で「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、その総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とあるそうです []

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。