細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

本当のこと

2020-01-23 05:17:20 | 人生論

1月21日(火)に、20分ほど学内で講演しました。GMIシンポジウムというもので、オープンイノベーション、がテーマでした。

私のいただいたお題は、「共同研究を束ねる産官学連携 コンクリートインフラの長寿命化」というものでした。

他とはかなり毛色の違うプレゼンをしました。

・まずは土木工学というものを良くしってもらいたい。
・国土学(大石久和先生提唱)を紹介しました。適切に国土に働きかけ、恵みを得るようにしないと、私たちは生きていけないし、他の国と競い合うこともできない。働きかけた成果をストック効果として、次世代以降にも引き継いでいく必要がある。そのように先人たちもしてくださった。
・翻って、現在の日本にインフラは足りているか?全く足りていない。足りている、日本に市場はない、海外に打って出ろ、という思考停止論ばかりまかり通っている。防災対策を考えると、さらにインフラは全く足りていないといってよい。地域が疲弊していくのも、インフラが都市部に偏っているからである。
・公共投資は削減の一途をたどった。GDPが全く成長しない(20年以上)のも異常。失政による。

さて、なぜ失政(特に「緊縮財政」)が続くのか。

この状況では間違いなく財政出動すべきで、インフラへも投資すべきである。本当の制約条件は、「お金」ではなく、「供給能力」である。インフラを例に挙げれば、建設するためには様々な人が様々な役割で働く必要があり、そちらが制約条件になります。20年以上もデフレで供給能力を毀損し続けてきた今、建設するための人、技術力の方が制約条件になってしまう、恐ろしい状況になってきています。この愚かしい状況がさらに続けば、建設もできない、劣化した構造物のメインテナンスもできない、という状況にいずれ陥ります。

本当はお金はあるのに、なぜ国にはお金がない、と嘘を刷り込まれ、「財政再建」のための「緊縮財政」という失政が続くのでしょうか。

中野剛志先生の著書、「全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】」の第14章を引用して、「経路依存性」を説明しました。以下、中野先生の本から部分的に引用。ぜひ買ってお読みください。

第14章 「歴史の大問題」

経路依存性

一度、決まってしまったことは、そう簡単には元に戻したり、変更したりすることはできない。このような現象を「経路依存性」と言います。(細田注:「経路依存性」は社会科学で用いられる用語)

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発電用原子炉の主流が軽水炉であることも、「経路依存性」の例です。

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軽水炉は、商用原子炉として最適だったからではなく、軍事からの転用をきっかけとして採用されたにすぎませんでした。

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この他にも、鉄道における狭軌軌道や、電力の直流システムに対する交流システムの優位などが、「経路依存性」の例として挙げられます。

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この例からも分かるように、ある技術がいったん採用されて、使われ始めると、その技術を使い続けることのメリットが次第に高まり、逆に、別の技術に乗り換えることのコストがかかるようになります。このため、同じ技術を使い続けるようになる。これが「経路依存性」のからくりです。

これらの「経路依存性」の例は、技術や製品に関するものです。しかし、政治や経済にも、「経路依存性」というものがあり得ます。

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具体的な例を挙げてみましょう。

例えば、1999年に労働者派遣事業が製造業などを除いて自由化されました。次に、2004年には、製造業への労働者派遣も解禁されました。

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こうなっては、労働者派遣事業を禁止することは、きわめて困難でしょう。

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あるいは、地方自治体が水道事業を民間企業に委託するPFIについて、・・・・

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2018年、日本は、入国管理法を改正し、本格的な移民政策へと舵を切りました。

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日本が20年もの間、デフレから脱却できないでいるのも、デフレには「経路依存性」があるからだと言えるでしょう。

第4章で述べたように、富裕層、投資家、経営者は貨幣価値が下落し、賃金が上昇するインフレを非常に嫌がります。

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イギリスのEU離脱が困難を極めているのも、「経路依存性」によって説明できるでしょう。

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財務省の「財政健全化」という理念には、強烈な「経路依存性」があります。

終戦直後、財政法第四条第一項に健全財政の理念が明記されて以後、大蔵省(財務省)は、およそ半世紀にわたって、財政赤字の抑制に努めてきました。この間、財政赤字の抑制に成功した官僚が高く評価され、出世したことでしょう。

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その結果、デフレが続こうが、大震災が起きようが、財務省は、財政健全化という路線から外れることができなくなってしまったというわけです。

引用終わり。

この内容も、20分のプレゼンの中に含めました。

本来は、足りていないインフラをしっかりと時間をかけて整備していく必要がある。また、既存のインフラも劣化が著しいものもあり、これらをしっかりとメインテナンスしていく必要ももちろんある。地域の環境条件は多様(積雪寒冷地から亜熱帯まで)で、その中で長持ちするインフラを整備したり、適切にメインテナンスしていくことは壮大なチャレンジとなります。もっともっと人手も必要だし、生産性向上も必要。

そのようにできなければ、この国は衰退の一途、でしょうね。

その文脈で、産官学協働の、インフラの高耐久化の一例を示しました。また、中央(土木学会コンクリート標準示方書)と地域規準の適切な連携のあり方、そこに学がどう関わるか、についても私の考えを示しました。

私としては、当たり前のことを言っただけですが、講演後に、何人かの方に話しかけられ、

「一番面白かった。何せ、本当のことを言う人がいなくなったからな」とかなりの年配の方に言っていただきました。地域を支える長老の方のようで、「講演を依頼すると思うのでよろしく」と言われました。

本当のことを言えない、言わない、という社会状況になると、どうあがいてもまともな方向には進まないと思います。

全体の方向性が適切でない中での、部分最適化は、最悪の結果をもたらす可能性があります。

現在は、その状況にあろうかと思います。

全体の方向性が適切でないなら、むしろサボタージュした方が、劣化を食い止められる可能性すらあるのです。恐ろしい状況かと思います。

さて、2週間強、激務が続きましたが、今日の日中の業務が終了すると、少しホッとできます。土曜日は昼寝ができそうです。。。

ブログを書き終わった後、下ごしらえはすでに準備してありますが、お弁当作りです。。。


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