「ドクター・デスの遺産 BLACK FILE」　★★☆～なぜもっと踏み込まないのか

※※※　注意　※※※

　「シネマ報告書」は、映画鑑賞後の率直な感想を伝えるため、映画の内容や核心・結末に触れる、いわゆる“ネタバレ”が多分に含まれる場合があります。

　これから観ようと思っている方は、本報告書の趣旨についてご理解のうえ十分注意してお読みくださるようご了承願います。

「『シネマ報告書2020』の掲載にあたって」

なぜもっと踏み込まないのか ★★☆

（2020年／日本／120分） 【　監督　】 深川栄洋【　原作　】中山七里【　出演　】

綾野剛
北川景子
岡田健史
前野朋哉
青山美郷

柄本明

木村佳乃
石黒賢

【あらすじ】

　重病の末期患者ばかりが次々と不審な死を遂げる事件が相次ぎ、刑事の犬養と高千穂は捜査に乗り出す。

　捜査を進めていくうちに、依頼を受けて患者を安楽死させる“ドクター・デス”と呼ばれる医者の存在にたどり着くが、正体がつかめないまま捜査は難航する。

　執念の捜査により、正体がつかめる直前まで行った矢先、重度の腎臓病に苦しんでいる犬養の一人娘の沙耶香が、ドクター・デスに安楽死を依頼してしまう―

【コメント】

　さて、今回劇場で鑑賞したのは、綾野剛＆北川景子のW主演によるサスペンスミステリーである本作。

　いつもながら原作未読でありながら、“安楽死”をテーマにした興味深い刑事ミステリーとお見受けし、産休だった北川景子の本格活動ということで、またお美しい北川景子の御姿でも堪能しようと「立川シネマシティ」に足を運んだ次第です。

　うーん・・・ダメだこりゃ。“安楽死”というセンシティブな社会的テーマを取り扱いながらも、結局は単なるサイコパスとの追いかけっこに終始してしまい、肝心の“安楽死”の是非といった域に全然踏み込んでこない。映画なら批判を恐れずもっと踏み込めや！問題提起しろや！と、言いたくなる映画でしたね。

　オープニング、まるで昭和のTVの刑事ドラマを彷彿とさせるような出だしから始まり、全体的に陰気な感じのする空気は嫌いではないのでワクワクしながら鑑賞していたんですが、結果的に最初から最後まで刑事ドラマ的展開のまま何も変わらず、もっと言えば2時間のサスペンスドラマの域に留まってしまい、心にズシンくるような重いテーマ性が全然感じられない。

　主人公の綾野＆北川の刑事コンビもガサツでワーワーと取り乱してばかりで何とも冷静さに欠ける。この手の刑事ものは冷静で地道な捜査をするような地味な刑事像のほうがリアルで絶対に面白くなるはず。なのにやたら走り回ったり掴みかかったり拳銃振り回したりとリアリティに欠ける。社会的テーマとフィクションの共存がうまく出来てないんですよね。

　そして、“安楽死”という重いテーマを扱いつつも、結果的に犯人は単なる快楽殺人者。遠回しに「安楽死は殺人である」という結論に持っていこうとしているようで、安楽死＝悪としているような気がして、安楽死支持派の僕としては考え方に合わなかったかなとも感じましたね。どちらかの点に誘導するのではなく、結論を出さず観客の考え方に委ねるのが映画としては深みが出ると思います。

　個人的には安楽死・尊厳死については賛成派なんです。いいオッサンだし、近頃も自分の死というものについてよく考えるようになりましたからね。

　仮に僕自身が大病を患い、医者も匙を投げ地獄の苦しみを味わいながら延命だけを施されるくらいならば潔く命を絶ちたい、苦しまず安らかに永眠したい、なんだったら健康なうちに死を選択したいとまで思っています。たった一つの大事な命、と言う人ももちろんいるのは分かりますが、これが現在の人類の医学の限界である以上、死の選択というのはあってしかるべきだと思っています。

　ただ、それを法的に整備するためにはかなりの議論が必要でしょうし、それを逆手に取った殺人が起こる可能性も十分に考えられます。

　そんなテーマ性を本作にもっと盛り込んでほしかったかなーと。そうすれば本作はもっともっと面白くなったと思えてなりませんね。

【2020年度 Myランキング】（11/15時点）

　本作は、本年度のベスト10ワースト3ともにランキング外。

　コロナ第3波来たか・・・

（ベスト）…　★★★☆以上が基準

　　１位：1917 命をかけた伝令 ★★★★★

　　２位：薬の神じゃない！ ★★★★☆

　　３位：ミッドサマー ★★★★

　　４位：透明人間 ★★★★

　　５位：TENET テネット ★★★★

　　６位：Fukushima 50 ★★★★