一般的な経済連携協定の解説として、中国や韓国に貿易ルールを遵守させることができる仕組みということができますが、この協定についてはルールをお互いに遵守しましょうというような緩やかなレベルの協定とはとても言えないものです。

 

RCEPの合意の本質は、日本にとって中国、韓国との初めての包括的な自由貿易協定であり、今後20年、30年先の日本の資本が中国の経済資本に緩やかに融合されていくということを意味します。上海辺りの投資会社が日本の多くの企業に一定程度の出資(といっても20年程度の話では多くの場合では50パーセントを超えることはないとは思いますが。)していく一方で、中国の企業に対しての日本の企業や個人の出資比率(この比率というのは中国企業全体の日本企業からの出資比率という意味合いより、日本国内の海外純資産における中国企業の割合という意味です。)が少しずつ高められていき、資本が融合していくという意味合いです。

 

こうなると戦争どころか日本からは政治上の紛争も貿易上の紛争も起こせなくなります。中国に対して資産を有している個人、企業が強力に抵抗するから当たり前です。中国は民主主義国家ではないですし、個人所有の資産を背景として政治的な圧力を掛けることが難しい体制ですから、中国側は自由に政治上の紛争も貿易上の紛争も仕掛けられるが、日本政府は仕掛けることができないサンドバッグ状態になることが簡単に予見できます。

 

しかし、それ以上に重要なのが、東南アジア、オセアニアにおけるさらなる中国の影響力の増大です。

 

TPPはアメリカが東南アジア、オセアニアに対して投資を増やすことで影響力を保って欲しいという日本の保守層の考えがあり、そのためなら多少の日本の損もやむを得ないという背景がありました。これは以前に少し解説したところでしたが、結果、TPPにアメリカは加わらずに東南アジア、オセアニアにおけるアメリカの経済的側面での地位低下はさらに決定的なものになったという部分はあります。

 

これはトランプ大統領がアジア軽視であった部分との証左でもあるのですが、トランプが軍事的な意味での地位はしっかりと守っていたため、東南アジア、オセアニアでの中国の影響力の増大が一定程度抑えられてもいました。しかし、トランプが退任することがほぼ確実視されるなかで、RCEPが署名されたというこのニュースは、アメリカが軍事的な側面でも東南アジアでの影響力を大きく落とし、もはや中国の影響力が東南アジアで拡大することを防ぐことはできなくなったということを意味します。

 

ただちにというわけではないでしょうが、このままの状況であれば、10年後、中国の影響力に対して抵抗できる政治家が、東南アジアで一定の権力を持ったまま生き残っているとは私には思えません。

 

このRCEPは6月頃はインドの復帰を待つという名目で、暗礁に乗り上げるとの見方が国内では支配的でしたが、トランプの落選が予想されていく中で、交渉が加速されました。中国にとっては、アメリカから中国に政権交代が起きたかのような告示能力を以て東南アジア諸国にこのニュースを伝えることができたのは最大の喜びでしょう。

 

そういうことまで含めて考えたのか、考えなかったのか分かりませんが、嬉々として中国との連携協定締結を喜び、平和で繁栄したインド太平洋と称して、今までの自由で繁栄したインド太平洋との表現をかなぐり捨てて中国政府に媚びているのが今の日本政府です。