記者の目 冷え込む日韓関係 「解決済み」超える努力を
(毎日新聞 2019/02/15)

堀山明子 ソウル支局

 昨年10月末に韓国最高裁が徴用工問題で日本企業に賠償を命じて以来、日韓関係は一気に冷え込んだ。負の循環は経済、防衛分野にまで拡大、韓国国会議長の「天皇謝罪発言」も波紋を広げる。日本政府は判決に対し「1965年の国交正常化以来築いてきた友好協力関係の法的基盤が根本から覆された」(河野太郎外相)と、全面対決の姿勢だ。基盤が揺らいでいるのは事実だろう。ただ、65年の日韓条約を強調するあまり、その後の両国の努力と実績を軽視する議論に陥っていないか心配だ

 旧正月の連休に入った今月初め、私は一時帰国して成田空港から電車に乗った。隣に座った韓国人の女子高校生が片言の日本語で、新宿駅への行き方を尋ねてきた。韓国南東部・大邱市(テグ)から家族4人で「初の日本旅行」という。私が最短時間の乗換駅を説明すると、向かいの在日韓国人女性が「荷物が多いから乗り換えが楽な駅がいい」と別ルートを勧めた。さらに別の日本人が第3ルートを案内し、おもてなしモード全開になった。女子高生は「渋谷にも行きたい」と目を輝かせた。

 昨年、日本を訪れた韓国人観光客は史上最多の約754万人。徴用工問題の最高裁判決後も増加傾向で、旧正月に海外旅行に出た4人に1人、推計21万人以上が訪日した。国家間の関係悪化にもかかわらず、韓国では日本旅行や居酒屋文化が空前のブームだ。

◇65年合意不完全 補強続けた両国

 一方で、徴用工問題を巡り文在寅(ムンジエイン)大統領が日本に謙虚さを求めた新年記者会見直後の韓国の世論調査では、文氏の対日政策について「もっと強硬に」(45・6%)と「対応は適切」(37・6%)を合わせた日本に厳しい見方は8割を超えた。「自制すべきだ」は12・5%にとどまった。

 「世論調査の質問には、日本の謝罪は不十分と答える。でも、韓国は先進国なのに、いつまでも歴史問題を叫ぶのは自分のプライドが傷つく」。日本旅行好きの40代女性は、世論調査結果と日本ブームのギャップをこう説明した。日韓関係に歴史問題は残っているが、優先課題ではない――。これが韓国の今の市民感覚かもしれない。

 日本が経済協力資金を韓国に提供することで、戦後補償問題を含め「完全かつ最終的に解決した」と合意した65年の日韓条約と請求権協定は、懸案を棚上げした決断だった。冷戦下、米国が日韓両国に早期締結を促し、植民地支配への謝罪や北朝鮮の法的地位などの争点は、二重解釈が可能な文言にされた。締結に至る過程の日韓の外交文書が2005年以降公開され、「解決済み」は表向きだけだったことが明らかになった

 不完全な日韓合意は、何度も補強されてきた。83年に訪韓した中曽根康弘首相は、全斗煥(チョンドゥファン)大統領の求めに応じ40億ドルの経済協力を約束し「不幸な歴史」への反省の弁を述べた。当時、北朝鮮によるテロの脅威が高まり、安全保障上、日韓関係の強化が必要と判断したとされる。

 従軍慰安婦問題や韓国人被爆者、旧ソ連・サハリンに残留する韓国人問題が国際問題化すると、日本政府は人道支援名目で追加措置を行い、日韓の市民団体も協力した。

 植民地支配に対する日本の謝罪は、98年の小渕恵三首相と金大中(キムデジュン)大統領の日韓共同宣言に明記された。戦時中の日本による強制動員については、盧武鉉(ノムヒョン)政権で07年、韓国政府による追加措置として、動員被害者への支援法が制定された。被害認定の資料探しでは日韓の市民団体が連携した。15年の慰安婦問題に関する日韓合意もこうした取り組みの一環だ。国際情勢の変化に応じ、両国の政治家や市民が「解決済み」とされた65年の条約の限界を補う努力を続けてきたのだ

 だが、韓国最高裁の徴用工判決は、65年以降の両国政府や市民団体の努力を「道義的措置にすぎない」と指摘した。日本だけでなく、支援を進めてきた韓国外交当局者や市民団体にも徒労感が広がる。

◇徴用工判決後も原告は対話期待

 「日本での訴訟を含め20年以上戦ってやっと勝利したのに、被害者救済の韓日対話は発展していない。勝った後のほうが悩みが深い」

 徴用工訴訟を支援してきた韓国の軍人軍属遺族の70代女性が、勝訴後にもらした言葉が胸に刺さっている。彼女は法廷闘争のかたわら、強制動員被害者の支援法に基づく申請を目指す被害者のために、資料集めに奔走してきた。徴用工訴訟で勝訴できる原告は一握りなので、判決をきっかけに日本企業や日韓政府が被害者救済に動き出すことを望んできた。判決は日韓対話への通過点なのだ。

 崩れた日韓友好の基盤を再び補強できるのか。国際司法裁判所(ICJ)や第三国による仲介で法的解釈の違いに白黒をつけるのか。日韓関係は分岐点に立たされている

 ただ、どの道に進むにしても「65年で解決済み」との一言で議論を逆行させ、積み重ねた成果を無駄にするのは避けたい。日韓友好の基盤は、65年の法的限界を乗り越えようと試行錯誤の中で少しずつ厚みを増し、今ある大衆文化や人的交流につながったと思うからだ。


韓国がごねるたびにお金を払って来たから日韓友好が進んだのだから、今回もお金を払え。ということですか。

“そんな関係”をおかしいと思っている雰囲気が世論にも表れているのにね。



ちなみに、キム・デジュン大統領訪日時の安倍信三議員の「朝日 発言録」と朝日社説↓

国としての反省、清算は日韓基本条約で終了した。二つの国が全く同じ歴史認識を持つことは不可能に近い。それを強いると、日本に言論統制を求めることになるし、「嫌韓」感情が高まるおそれがある。
1998年10月09日

1998年10月09日