福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

祝! 「新版クラシックCDの名盤」増刷 ~ 旧版の思い出も交えて(第3回)

2020-04-18 15:01:49 | コーラス、オーケストラ

当ブログに先だつ2週間ほど前、新版増刷の歓びをフェイスブックにて報告したところ、思いがけず多くの方に感謝や激励のお言葉を頂戴した。

「座右のガイドとしている」「バイブルです」「3人の掛け合いが絶妙で面白かった」「(1人でよいから、或いは他の人と組んで)続編を書いてほしい」など。
涙が出るほど嬉しかった。わたしの中では半ば過去のものとなっていた「クラシックCDの名盤」の影響力の大きさを改めて実感したのである。

 旧版が9年間で17刷、新版が12年間で6刷。旧版の勢いは凄まじかったので、1刷あたりの部数も旧版の方が遙かに多かったように記憶する。販売総数の差は単純に3倍では効かないだろう。そこで、気がかりなのは、多くの読者に「旧版の福島章恭しか知って頂けていない」ということである。すでに価値観の定まられ揺るぎなかったお二人とは違い、37歳から46歳のわたしは価値観や美意識の大きな変動期にあった。新版にはその変化が反映されている。自らの演奏経験やアナログ回帰によってもたらされた大きな変貌を、もっと多くの方に伝えたいという想いはある。

ところで、「新版クラシックCDの名盤」は、出発の段階から「売れること」を第一目標には置かなかった。売れることより「残る」ことを意識した。新書として「売る」ためには定価を900円以内に設定しなければならない。分厚く重たいよりは、手軽に手に取れるもののほうが喜ばれる。旧版のページ数はそこから計算された。そのセオリーを敢えて無視して大増ページを敢行したのは、「これが最初で最後の増補改訂版となるだろう。許される限り多く書き残したい」という三人の著者の共通の想いであり、それに編集者も共感してくださったゆえである。

 新版から6年後の2014年には、「クラシックCDの名盤 大作曲家篇」を刊行し、これが3人の共著の最後となった。ここでは、著者3人の対決姿勢は消え、3人がそれぞれ好き勝手に語るというスタイルへと変貌している。肩の力が抜けたというか、融通無碍というか、これはこれで味わいのあるものだが、初版の熱さ、エキサイティングな遣り取りを懐かしむ声があるのも不思議ではない。

「大作曲家篇」刊行の少し前、編集者に向かって、
「もうCDの時代でもないでしょう。書名を変えませんか?」
と提案したことを覚えているが、「このビッグネームを外すわけにはいかない」という文春営業部の方針は揺るぎなく、最終的にお任せすることとした。これに勝る対案は浮かばなかったし、いま振り返れば、そのままで正解だったと思う

 さて、合唱指揮活動が充実し、多忙となるにつれ、執筆から遠ざかり月日は流れた。ひとり部屋に籠もり、消耗戦を強いられるよりは、多くの人々と音楽を作り上げる歓びが勝ったのだ。また、大阪フィルハーモニー合唱団の指揮者に就任してからは、国内演奏会の批評も軽々しくできなくなった。ひとつのオーケストラに所属する人間が他のオーケストラを批評するのは、儀礼的にあり得ないことだし、そこで批評した指揮者やソリストと共演することだってあるかも知れない。それは気まずい(笑)。そんな不自由さも手伝って、書くことに積極的になれなかったのである。

 ところが、この度の新型コロナウイルス禍により、我が人生の全てとも言える合唱活動ができなくなってしまった。三密、即ち「密閉」「密集」「密接」を避け難く、常に飛沫を伴うがゆえに、暗いトンネルの出口も見えない。ドイツでは8月いっぱいの演奏会は中止が決まったし、或るアメリカの医療関係者は音楽イベントの再開は少なくとも来年の秋になるだろうと予測している。もちろん、1日も早くの収束、再開を祈るばかりだが、こればかりは個人の力では如何ともし難い。

 そんな鬱々とした気分の最中に届いたのが「新版クラシックCDの名盤」増刷のニュースであり、多くの読者からのご声援である。これは「執筆を再開せよ」とのお告げに違いない。そう受け止めなければ罪だ。

さてしかし、何を書こう? 

 新版の出された2008年当時でさえ、中野さんは「まえがき」の冒頭、「CDの売上高が減少を続けている」という一文から綴られている。CDの落ち込みに関しては、いまや12年前の比ではない。さらに、名曲名盤ガイドという形式は、もはや不要となりつつある。かつては、限られた小遣いの中から、どのレコードやCDを買うべきかという音楽愛好家の 羅針盤たり得たが、いまは、ナクソス・ミュージック・ライブラリーに加入すれば、同じ作品を何十という演奏で聴くことができる。音質さえ気にしなければYouTubeで十分という人もあるだろう。つまり、評論家のお墨付きなどお構いなしに、各自が好きな演奏を選ぶ時代なのだ。
 ネットで自由自在、音楽を無限に選べる今という時代に、従来の「名曲名盤ガイド」の枠を超えた本を書かねばならない。読んで愉しく、作品やその演奏に新しい光を当てた本を。
 それを模索したいと思う。

(取り敢えず、以上)

※写真は、宇野功芳先生お別れの会 2016年9月21日 飯田橋ホテルグランパレスにて
https://blog.goo.ne.jp/akicicci/e/11763b847666d3f405d551d492c2e1a4


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 祝! 「新版クラシックCDの名... | トップ | 雨の日にブルックナーを壁に飾る »
最新の画像もっと見る