前回脳震盪のお話をしました

 

ラグビーと脳震盪

 

 

今回は、セカンドインパクト症候群を掘り下げて見たいと思います。

 


セカンドインパクト
 

1回目の頭部打撲に続いて起こった2回目の頭部打撲をセカンドインパクトといいます

 

脳震盪、もしくはそれに準ずるような頭部外傷の数日から数週間後、2回目の頭部外傷を負った際に、致死的な脳浮腫を呈するものをセカンドインパクト症候群と呼んでいます

 

 

これはエヴァンゲリオンのセカンドインパクト・・・

 

早くシン・エヴァンゲリオン劇場版:||が公開されないか・・・

 

 

それはおいといてセカンドインパクト症候群の話をしましょう

 

 

1973年に初めてその病態が報告され、1984年にセカンドインパクト症候群という用語が使われました

 

致死率は50%程度ともいわれています

 

Saunders RL, Harbaugh RE.

The second impact in catastrophic contact-sports head trauma.

JAMA. 1984;252:538-9.

 

 

病態については、血管の過拡張による脳浮腫、いわゆるvasoparalysisが原因と考えられていましたが、頭をぶつけるだけでそんなことが起こるのかという疑問はありました

 

Cantu RC, Voy R. 

Second Impact Syndrome.

Phys Sportsmed. 1995;23:27-34.

 

近年、セカンドインパクトの際に頭部CTを撮ると急性硬膜下血腫所見を伴うことも指摘されており、何らかの関与が考えられていますが、結論は出ていません

 

Cantu RC, Gean AD. 

Second-impact syndrome and a small subdural hematoma: an uncommon catastrophic result of repetitive head injury with a characteristic imaging appearance.

 J Neurotrauma. 2010;27:1557-64.

 

 

初回のCTでは変化がなくても、フォローでCTを撮影するとうっすら硬膜下血腫が出てきているような場合もよく経験します

 

小脳テントの部分や、大脳鎌のあたりは骨や膜でもともと白くなりやすいところで、気をつけて見ていないと出血を見逃してしまいます

 

脳震盪症状が継続する場合にはフォローを行うことも重要です

 

また、見逃しがちな部位は、冠状断を確認すると出血所見を指摘しやすくなりますので、疑わしい場合には冠状断作成も検討した方がよいでしょう

 

 

 

選手の復帰は?

 

初回の脳震盪でERを受診された方から、よく「いつから復帰できますか?」という質問を受けます

 

当然ですよね

 

僕が選手なら1分1秒でも早く復帰したいです

 

岸和田で開催される、かの有名なお祭り関係の方には、頭蓋内出血を起こしていたとしても「明日は走られへんのか!? 何とかなれへんか!?」などと詰め寄られたりします

 

前回紹介した国際スポーツ脳震盪会議によるSCATでは、復帰のための道筋も例示してくれています

 

https://bjsm.bmj.com/content/bjsports/early/2017/04/26/bjsports-2017-097506SCAT5.full.pdf

 

 

 

以前は「当初の安静」が主張されていましたが、近年は「症状に応じて動かしましょう」とされています

 

症状が落ち着いていればステップアップし、スポーツに戻ることが許可されます

 

ただし、何らか症状が出現した際には前のステップに戻ります

 

 

なので、アドバイスとしては

 

「日常生活を送って何も症状が出なければ、歩行やランニングから始めて、コーチなどと相談しつつ、症状の有無を確認しながら強度を上げていってくださいね。もし何らか自覚症状があるなら無理せず相談してください」

 

 

としています

 

なお、SCAT5には学校生活に戻るまでのステップも記載されています

 

お祭り関係へのアドバイスは記載がありませんが、当然その日はもちろん翌日も走ってはダメです

 

翌年のお祭りは症状と相談ですかね……

 

 

セカンドインパクト症候群と脳損傷と競技復帰

しかし、やはり気になるのはセカンドインパクト症候群です

 

受傷数カ月以内の再受傷は恐ろしいのです

 

軽微なものでも頭蓋内出血を伴っている例や、初期症状が重篤な例では、競技復帰させたくありません

 

どの程度の損傷で、どのくらい時間が経てば大丈夫かなどを明確に言えるエビデンスは当然ありません

 

経験的に、こうした症例では数カ月のスパンを置いて競技復帰を促すしかないと思われますが、日本脳神経外科学会は2013年に以下のような提言を行なっています

 

 

日本脳神経外科学会「スポーツによる脳損傷を予防するための提言

1-a. スポーツによる脳振盪は、意識障害や健忘がなく、頭痛や気分不良などだけのこともある。 
1-b. スポーツによる脳振盪の症状は、短時間で消失することが多いが、数週間以上継続することもある。
2-a. スポーツによる脳振盪は、そのまま競技・練習を続けると、これを何度も繰り返し、 急激な脳腫脹や急性硬膜下血腫など、致命的な脳損傷を起こすことがある。
2-b. そのため、スポーツによる脳振盪を起こしたら、原則として、ただちに競技・練習への参加を停止する。競技・練習への復帰は、脳振盪の症状が完全に消失してから徐々に行なう。
3. 脳損傷や硬膜下血腫を生じたときには、原則として、競技・練習に復帰するべきではない。

 

 

 

セカンドインパクト症候群と硬膜下血腫の関係はまだ曖昧ですが、わずかにでも出血があるなら、残念ながら引退を考えてもらうしかありません

 

たかが脳震盪、されど脳震盪

 

来院時点で症状が消失している場合はいいですが、症状持続時などは救急外来だけでフォローするのは困難ですから、院内全体で情報を共有し、コンセンサスを得ておきたい病態の1つです