常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

柳の木の下で

2019年12月09日 | 読書
雲ひとつない冬晴れ。青空のなかに、瀧山が雪を被って光っている。アンデルセンの童話『柳の木の下で』の主人公、クヌートが恋に破れて、故郷に帰る山道を連想させる光景だ。この悲恋の物語は、デンマークの小さな町キェーエが舞台である。海岸に近い、みすぼらしい庭を持つ2軒の家。庭にはニワトコの木と、古い柳の木があった。隣同士で幼なじみのクヌートとヨハンネは、幼いころから柳の木の下で遊ぶことが好きであった。

子どもたちの楽しみといえば、町の広場に市が立ち、蜂蜜菓子やリボンなどを買ってもらうことだった。もっとうれしかったのは、市の立つ間、蜂蜜菓子屋のおじさんがクヌートの家に泊っていることだった。市が終わると、家に帰ってきて、子どもたちに蜂蜜菓子の小さいをくれた。ヨハンネも一緒に菓子を食べ、話上手のおじさんの話を聞くのが大好きだった。

「あるお菓子屋さんの店台に二つの蜂蜜菓子があったんじゃよ。一つは帽子を被った若者、もう一つは頭に金箔をつけた娘さんなんじゃ。ふたつは、店台の上で長い間いっしょにいるもんじゃから、お互い好きになってのう。」

おじさんは、こんな調子で話を始め、心を打ち明けないうちに娘の方は干からびて割れてしまう顛末を話してくれた。クヌートは遊び友達のヨハンネが、好きだったので、この話を聞いて、菓子のようにはなるまい決心したのだった。

幼なじみに悲しい別れの時がくる。ヨハンネのお母さんが死んで、お父さんは新しい人と結婚をするため、コペンハーゲンへ引っ越して行ったのだった。それから3年、歌が上手だったヨハンネは大勢の人前でコンサートを開くような人気者になった。クヌートは、手に職をつけて、ヨハンネと結婚できることを夢みて靴職人の道を選んだ。

アンデルセンの父は貧しい靴職人であった。14歳の時に歌手を志して、コペンハーゲンにでるが失敗した。自らの人生を素材にして作り上げた童話であるらしい。もう昔のことでどんな宴席であったか忘れてしまったが、隣の席に片言の日本語を話すデンマークの人と座ったことがあった。丁度、アンデルセンの伝記を読んだばかりであったので、その数奇な生涯と紡ぎ出した童話のすばらしさを話してみた。話そうとすることがなかなか通じなかったのがもどかしさとして思い出に残っている。

デンマークは酪農の先進地としても知られる。北海道の酪農家は、デンマークの農家へ出かけ、泊まり込みで、その技術を身につけ、帰国して経験談を酪農家へ聞かせるような試みもあった。私は少年のころ、その話をじかに聞いて、デンマークを身近に感じたが、やはり記憶の底ににはアンデルセンの「人魚姫」「マッチ売りの少女」「みにくいアヒルの子」などの童話の数々が埋もれている。

さて、『柳の木の下で』は、クヌートとヨハンネはコペンハーゲンで再会を果たす。片や華やかなライトを浴びる歌姫、片や親方の家に住み込んで、必死に技術を習得している靴職人。クヌートは勇気を出して、結婚を申し込む。答えは、私たち兄と妹よ、というものだった。恋に破れたクヌートが目指したのは、故郷の柳の木もとであった。遠い道のり、夢のなかで、あの蜂蜜菓子もクヌートとヨハンネも結婚して教会で祝福される。現実は冷たい風の吹く見知らぬ山の路上にある、柳の木の下で凍え死ぬ、という悲しい結末を迎える。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アリス | トップ | ネギ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿