常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

燧ケ岳

2020年09月21日 | 登山

先週末、一泊二日の日程で燧ケ岳に登った。前日に桧枝岐の民宿に泊まり、東北の最高峰燧ケ岳・俎嵓を目指す。民宿はひのき屋、代表は平野チサエさんである。この名で思い出すのは、平野長蔵翁である。尾瀬の開発と自然の保護に生涯を捧げた尾瀬の恩人である。今も翁が始めた長蔵小屋が尾瀬沼の畔にある。長蔵が初めて俎嵓に登ったのは、明治22年の8月のことである。この年長蔵は20歳であった。この景観に感動して、翌月には石碑を建て、後年に最初の長蔵小屋を始めて、登山道の整備や遠来の客の案内も行った。

小屋の炉端で、客と話すのが大好きであった。そこで生い立ちを語り、淡水魚の養殖や植物愛護の話、また政治や時局、尾瀬の発電所などについて熱く語った。次第に有名人となっていく長蔵は村民の嫉妬の的でもあった。自ら尾瀬沼山人と号したが、山人の行動を私利私欲からと断じ、事業の妨害を行うものもあった。人も通わぬ尾瀬を広く世に広め、東京の学生たちが憧れてここを訪れるようになったのは長蔵翁の功績と言ってよいだろう。この民宿のご一家が、長蔵翁の子孫か縁戚であるか、聞かずじまいであったが、多分ここでは多くの平野姓があるものと思われる。
桧枝岐の民宿に泊まり、登山口は御池。予報では、雨マークもあり、空は低い雲に覆われていた。登山口から1時間ほどの急登をして辿りつくのは、広沢田代である。田代は湿原に点在する池が、田のように見えることからこのように呼ばれる。大沢田代の池に青空が移り込んだのは登頂を終えて下山した3時ころであった。このコースの特徴は、登りはじめてすぐに始まる石やらの急登、湿原や山中でも水のあるところには木道が敷いてあることだ。登山口から俎嵓までは約4時間、急登を挟むように田代と呼ばれる湿原が二つある。広沢田代の木道で休んでいると、青年が降りて来た。聞けば、「上の湿原ではガスっていて寒いので上に行くのを断念した」と言う。確かに湿原は吹き曝しで、気温も低い。キンコウカの花も終わり、草紅葉が始まっていた。

低い雲が時おり明るさを増す。広沢の上は熊沢田代まで、木道が終わると急登が始まる。丁度二つの田代が、このコースの休み場になっていて、頂上までのきつい登りのための体力の温存の場でもある。登り道で振り返ると、すでに遠くなった広沢田代が見えている。散在する池が光って、草紅葉の光景は、この日一番の景観であった。この日の参加者は11名。内男性4名、チームは元気にあふれている。登山口から頂上までは約4㌔だが、思ったより足の筋肉疲労が感じられる。次第に後ろから登ってくるグループの数が増え、若い人たちの姿も多い。小学生を連れた家族連れも目立つ。この連休は、コロナの外出規制が緩められたせいか、山中でも人出は多く感じられる。
頂上には噴火でできた安山岩が積み重なっていた。この石の表面は平なものもあり、よく見ればまな板に見えなくもない。俎嵓などという、田舎言葉がこの頂上の名であるのは、麓の集落の人々にここが親しまれてきたゆえであるような気する。この先15分ほどのところに柴安嵓がある。度重なって起きた噴火で五つのピークができたが、最高の2360mの峰である。それらをひっくるめて燧ケ岳と呼ぶ。頂上からは強風とガスのために、360℃の絶景はホワイトアウトしている。心眼で、胸の内にその光景を思い浮かべるしかない。目の前にには昨年登った至仏山、日光連山に次に登る会津駒ヶ岳、そして平ヶ岳をはじめ名の知れぬ山々が折り重なるこの世とも思えない光景。眼下には尾瀬沼や休み場となった広沢や熊沢田代。俎のような石に座ってそれらの光景にたっぷりとひたりたい。そんな願望も、霧と風に妨げられ撮影もそこそこに下山した。下山口で風を避けるように男性が岩の陰に休んでいる。「妻と娘が柴安まで行ったんですよ。」見ればリュックが置いてある。我々も計画していた柴安を断念。風のない石やらの道まで下って昼食。

熊沢田代まで順調の下山。山頂直下の岩場も問題なく通過する。広沢から登山口までの急坂の下りで筋肉疲れが悲鳴を上げる。たかだか8㌔の行程だが、しばらく大きな山から遠ざかったせいか、下りで使う筋肉が疲れて乳酸をためはじめたらしい。槍ヶ岳へ登ったときにもでなかったうような筋肉の疲れだ。下山してリーダーからクールダウンのストレッチを入念に行う。下山時刻3時。桧枝岐の露天風呂でゆったりと身体を伸ばす。筋肉痛も温泉のぬくもりと一緒にいつの間にか消える。

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