美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その33)

2019年10月14日 21時18分31秒 | 原発

この手の「少子高齢化=増税やむなし」の悪質なキャンペーンが政府により大々的に展開されています

*訳していて思うのですが、モスラ―は、活発でシャープな知性の持ち主です。簡にして要を得た読書やマネー・ビジネスや政財官界のVIPとの議論などで鍛え上げられたのでしょう。

では、スティーヴの最後の言葉を議論の俎上(そじょう)に載せましょう。彼の、社会保障民営化の提案は、どんな株がアメリカ国民に投資され保有されようとも、株の持ち分を増やすことにはつながりません。だから、マクロレベルにおいて、彼の提案は、「国民が政府よりも上手に投資することができる」ケースでは決してありません。そうしてスティーヴは、それを知っているのです。でも、彼にとってそれは重要なことではありません。彼は、その非論理的なお話しを宣伝し続けています。彼は、自分のお話しが非論理的であることをよく分かっているのです。で、彼はメイン・ストリーム・メディアから批判をまったく受けていません。メイン・ストリーム・メディアは、株が社会保障よりも有利な投資であるかどうかについて世論をミスリードし、政府が売らなければならない国債が投資に使われうる貯蓄を奪い去るとか、国債を売ることで増える政府の負債が政府の支払い不能をもたらすとか、そのほか、私たちが「無知による嘘っぱち」と呼んでいる無意味なことを性懲りもなく垂れ流しています。

不幸なことに、それらの「ひどい無知による嘘っぱち」は、理にかなった分析の機会を台無しにし、あいまいにし続けています。

というか、事態は、悪化しています!“世代間の”物語は、以下のように語り継がれています。

「問題は、今から30年後に、もっと多くの人々が労働の第一線から退き、それと比例して、働き手が少なくなること(それ自体は、事実です)によって、社会保障信託基金が資金不足に陥ることである(まるで、信託基金の数字が、政府の支出能力の制約条件であるかのような口ぶりです。馬鹿げたことですが、人びとはそう信じています)。だから、この問題を解決するために、私たちは、仕事をリタイアした年配者たちに、彼らが必要とする財やサービスの支払いをするのに十分な額のお金を供給しうる方法を明らかにすることが求められている」

「 」の中の最後に述べられていることは、事態を悪化させます。減少する労働人口と増加する退職者数の問題は「依存度」の問題であるとされ、それは、退職者たちに彼らが必要とする十分な資金を持ちうると確信させることによって解決されると考えられています。

さて、こう考えてみましょう。いまから50年後、働いている人は一人で、3億人の働いていない人たちがいるとしましょう(話を誇張して、ポイントを明らかにしようというわけです)。そのただ一人の働き手は、すさまじく忙しい。だってね、すべての食糧を育てなくてはならないし、すべての建物を建設し維持しなければならないし、洗濯屋もしなければならないし、べての医療ケアもしなければならないし、テレビのショウ番組も作らなければならないし、など、など、など。こんな状況で、3億の働いていない人たちが、彼に支払うお金を持っていると確信できるのがいちばん重要な事柄だなんて本当だろうか?私は、そうは思いません。この問題の核心は、断じてお金ではないのです。

最も重要なのは、この一人の男が、すべてが順調に行われうるほどに、十分に賢くて、生産的で、元手とソフトウェアを十分に持っていることです。さもないと、リタイアした3億人は、どれほどお金を持っていようとも、深刻なトラブルに直面することになります。だから、本当の問題は、もしも残っている労働者たちが十分に生産的でない場合、全般的な財とサービスの不足に直面することなのです。支出の増加は、物価の高騰をもたらすのであって、さらなる財とサービスを創出するのではありません。正統派経済学の物語は次のとおりです。

「ゆえに、政府は、将来の支出に備えて基金を蓄積するために、財政支出の削減と増税に励まなければならない」

ここまで読み進めてこられたあなたが、これは馬鹿げた話であって、この「ひどい無知による嘘っぱち」が、私たちの幸福を損ない次世代の生活水準低下を招くのに精を出していることは明らかであることを知っていると、私は信じています。

*今回の論点は、社会保障と少子高齢化のつながりを考えるうえでの基本視座を提供してくれています。それを一言でまとめれば《マクロ的視野において、この問題を考えなければ、政策担当者は、緊縮財政と増税路線に行きつく》となるでしょう。いまの日本の政策担当者たちは、このマクロ的視野を獲得することができていないので、ことごとく緊縮財政と増税路線に陥っている、ということになるでしょう。恐ろしいことです。彼らには、残念ながら、真の知性がないのです。



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