美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その36)

2019年10月20日 08時12分33秒 | 経済


*一時期、中国の米国債保有高が日本を抜いたことがありました。で、「中国は、アメリカをマネーで支配しつつある。中国が『米国債を放出するぞ』と脅すと、アメリカは中国の言いなりになるほかはない」などとまことしやかに語られました。それが根も葉もないタワゴトにすぎないことが、以下の論を読めば分かるのではないでしょうか。

以前に述べたことを思い出していただきたいのですが、アメリカは、常に国内生産をサポートすることができるし、財政政策(すなわち、減税か財政出動あるいはその両方の実施)によって完全雇用を維持できます。たとえ中国が、私たちにモノとサービスを送ることによって、アメリカの特定の産業を壊滅させることを決心したとしても、そうなのです。私たちがしなければならないのは、アメリカの購買力を、諸外国が私たちに売りたがっているもの私たちが完全雇用水準において自力で生産することができるすべてのモノやサービスの両方を買うことができるほど十分に高く保つことだけです。はい、確かに、ひとつかそこらの産業で職が失われるかもしれません。しかし、正しい財政政策によって、喜んで働き、また働く能力もある人々を雇用することができるほどの十分な国内購買力がいつも存在するでしょう。雇用された人々は、私的公的消費にためにほかのモノやサービスを生産することになります。事実、最近まで、アメリカの貿易赤字は増えたのにもかかわらず、失業率は相対的に低いままだったのです。

では、わたしたちの購買行動に資金をつぎ込むために、酔っぱらった水兵のように海外からお金を借りている合衆国についての大騒ぎのすべてはどうなのでしょうか。これまた間違っています!私たちは、米国債を買うため、もしくは、私たちの出費の資金を供給するために、中国に頼ってなどいません。事の真相は、こうです。すなわち、アメリカ国内の信用創造が、諸外国の貯蓄に資金を供給しているのです。

*信用創造とは、銀行が、貸出によって貨幣を新たに創り出すことです。その際、一般に信じられているように、銀行は集めた預金から貸し出すのではなくて、単に、数字を書くだけで貸し出します。具体的には、預金通帳に印字するだけで、銀行は新たな貨幣を創り出すのです。

これはどういうことなのか。典型的な取引の例を見てみましょう。

あなたはアメリカに住んでいて中国製の車を買うことにしたとしましょう。あなたはアメリカの銀行に行き、借り入れを受け入れてもらい、車を買う資金を支出します。あなたは、車を買うための資金を借ります。中国の車会社はその銀行に預金口座を持っています。その銀行は、あなたへの貸出金と、彼らの帳簿上の、中国の車会社に属する預金口座とを持っています。この場合、すべての関係者は“ハッピー”です。あなたは、資金よりも中国製の車を持ちたいと思っている。でないと、それを買ったりしませんものね。で、あなたは“ハッピー”です。中国の車会社は車よりも資金を持ちたいと思っている。でないと、その車を売ったりしませんものね。で、その会社は“ハッピー”です。銀行は貸出と預金を欲しがっている。でないと、貸出をしたりしませんものね。で、“ハッピー”です。“不均衡”などまったくありません。関係者はみんな満足しています。みんなほしいものを手にしています。銀行は、貸出と預金を持っています。だから銀行はハッピーで均衡しています。中国の車会社は、貯蓄としてほしがっていたUSドルの預金を持っています。だからその会社はハッピーで均衡しています。そうしてあなたはあなたがほしがっていた車とあなたが同意した車の支払いとを持っています。だからあなたたもまたハッピーで均衡しています。関係者はみんな、その時点で、欲しいものを手にして幸せなのです。

そうしてアメリカ国内の信用創造——すなわち銀行の貸し出し——は、中国の車会社の、その銀行に貯蓄という名のUSドルの預金口座を持ちたいという希望に資金を供給したのです。どこに“外資”が存在するでしょうか。どこにもありません!アメリカが外資に頼っているという考えは、見当違いなのです。逆に、諸外国こそが、USドルの金融資産を貯蓄したいという彼らの願望に資金を供給するアメリカ国内の信用創造のプロセスに頼っているのです。それはすべて、諸外国の貯蓄にアメリカ国内の信用創造によって資金を供給するケースなのです。私たちアメリカ人は、資金を供給するのに諸外国の貯蓄に頼ってなどいないのです。

再び申し上げます。お金はすべて表計算ソフト上の数字なのであり、もしも外国人がUSドルを貯蓄したいと思うのならば、彼らは、私たちアメリカ人の砂場で遊ばなければならないのです。USドルで貯蓄した外国人は、USドルの預金口座のために何の選択肢を持っているでしょうか。持ってはいません。それがいやなら、彼らは、喜んで売ろうとする売り手からほかの金融資産を買うか、喜んで売ろうとする売り手からモノやサービスを買うしかありません。そうして、彼らが市場価格でそうするとき、関係者はみんなふたたびハッピーなのです。買い手は彼らが欲しがっているモノやサービスや金融資産などを手に入れます。売り手は、彼らの欲しがっているもの、すなわちUSドルの預金を手に入れます。不均衡がないことは可能なのです。そうして、アメリカが外資に頼る可能性は万が一にもないのです。なぜなら、この一連のプロセスのどこにも外資がまったく存在しないからです。

*「Deadly Innocent Fraud #5」は、これで終了です。

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