わにの日々-中西部編

在米30年大阪産の普通のおばさんが、アメリカ中西部の街に暮らす日記

スターリンの葬送狂騒曲

2018-10-16 | 映画・ドラマ・本
「怖い絵」や「名画の謎」で知られる中野京子氏が、ご自身のブログで触れておられたので、観たくなって図書館で借りてきました。公式サイトはこちら。公式サイトによるあらすじは:
1953年、ソビエト連邦の最高権力者スターリンが、脳出血の発作で危篤に陥る。“粛清”という名の大量虐殺による恐怖で、国民はもちろん部下たちも支配してきた独裁者だ。今こそ彼の後釜につくチャンスだと色めき立つ側近たちが、互いを出し抜くオトナげない駆け引きを始めるなか、スターリンは後継者を指名することなく息を引き取る。表向きは厳粛な国葬の準備を進めながら、スターリンの腹心だったマレンコフ、中央委員会第一書記のフルシチョフ、秘密警察警備隊長のベリヤが3大トップとなり、各大臣にソビエト軍の最高司令官ジューコフ陸軍元帥までが参戦し、権力バトル開始のゴングが鳴った!

なんか軽い紹介文だなぁwww


アメリカ版のポスターでは、A Comedy of Terrors(恐怖のコメディー、シェークスピアのThe Comedy of Errorsのパロディーかな?)とありますが、史実を鑑みると笑ってる場合じゃ全く無いのに、くすくす笑える場面の連続。フルシチョフ役がスティーブ・プシェミ、モロソフがマイケル・ペイリンなんて、それだけでも笑うやん。実在の本人たちに何となく姿形の似た、笑いのツボを突いてくるタイミングが絶妙な曲者名優達の駆引きと、悲劇的な史実に笑いを持ち込んだ脚本が素晴らしい。

 残酷な絶対権力者スターリン自身も、その突然の死に右往左往する側近たちも、言動や行動はアホな悪ガキ・レベルの大人気なさですが、彼らは皆、権力に取り憑かれた大量殺人者。独裁者による静粛や、民間人への無差別攻撃、政治犯への拷問・処刑が日常茶飯事の巨大国家を動かす狡猾にして間抜けな男たちの、仲間内の権力闘争と、壮大にして姑息な陰謀、という様々な相反する要素が、とんでもない内容(しかも史実!)なのに、トホホな笑いを誘います。まさに狂想曲という真っ黒なコメディーで、この邦題は巧いよね(原題は「スターリンの死」です)。

 凄惨な弾圧の時代、静粛の名の下に200万人を殺し、恐怖政治を敷いたスターリンの葬儀に続々と集まる民衆が、独裁者の死を悲しんでいるのは心寒い。ふと、未だ一部の米国民に絶大な人気を得ている、トランプの事を思い出してしまいました。

 そんな、葬儀のためにモスクワに集まった市民への無差別攻撃は、裏切り合い殺し合ってきた中で生き残った非道な男たちの、政治的駆け引きの手段。そんな凄惨な史実を踏まえながらも、当の張本人達は妙にセコく、そこへ更にアホな息子が小者感たっぷりなトホホな連中。こういう風刺って、とってもイギリスっぽいって気がする。

 映画冒頭はコンサートのシーンでしたが、最後も権力を手にしたフルシチョフがコンサートを聞いているシーンです。その斜め後ろから、ヒゲ眉が睨んでますよ…(レーニン=ハゲ、スターリン=ヒゲ、フルシチョフ=ハゲ)。そして、とても皮肉なエンドロールも秀逸でした。ところで、DVDには、削除されたシーンが入っていますが、警察長官ベリヤのゲスぶりを示すシーンがいくつもカットされていました。確かに映画には無用と思ったけど、興味深かった。



 ロシアでは「西側の陰謀」とされて、上映禁止の憂き目にあったのだそう。ここアメリカでも、見た人の評価は高いけど興行成績は振るわず($8mil.ちょっと)、私もこの映画のことは、中野さんのブログで読むまで知りませんでした。早速、息子らにも勧めたよ。


 ところで、今、日本では「怖い絵」の展覧会が開催中で大盛況だそうですね。本の中で見た絵の実物を、実際に前にできるなんて羨ましい!こういった本や展覧会が大人気であるというのは、日本人の知的好奇心と教養の高さを示していると思います。

 中野京子さんの本は、先日LAに行った時にまだ持っていなかった「名画の謎」を二冊もゲットできて嬉しかった。ユーモアを交えた読み易い文章で、歴史や絵画を分り易く解説してくれる、この方の本は全部読みたい!のですが、中の絵が恐すぎて手元に置くのが怖い~な本もあるので、図書館に置いて欲しいなぁ…

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは☆ (JUNxxx)
2018-10-16 20:36:08
昨年、怖い絵展行ってきましたよ。
苦手な満員電車状態でしたが、怖い絵はやっぱり怖い絵でした^^;
目玉だったレディ・ジェーン・グレイの処刑もパンチありましたよ☆

スターリンの葬送狂騒曲、、なんかグロそう?(笑)
チェックしてみます☆
Unknown (わに)
2018-10-18 02:23:57
おお!それは羨ましい!
やはり本物は迫力あるのでしょうね。
しかし、満員電車状態とは… アメリカで同じ展覧会があっても、ゆっくり見れそうw日本人は文化的好奇心も豊かですね。

スターリン映画、グロいシーンすら笑えちゃうという大層不謹慎な映画なので、人が死んでんねんで!と、思う真面目な人は、笑い事にするな、と怒られそうですが、歴史的にも悪名高きスターリンとその高官の卑小さを笑い飛ばす皮肉に私はゲラゲラ笑っちゃいました。

コメントを投稿