第6話 未払賃金立替制度
★現金かJコインか?
「では未払い賃金の話を聞きましょうか?ただし経営者が失踪している場合、未払い賃金が戻ってくるのに時間がかかることがありますが、それは大丈夫ですか?」と瀬奈が切り出す。
「そうですね。私だけではなく、アルバイトさんもいますので、それは私から説明します」
「そうですね。そうしていただけると助かります。それと報酬の支払いは戻ってきたお金の10%をいただきます。支払い方法はJコインでお願い出来ますか?」
「Jコインですか?なんですかそれは?」
「ステーブルコインと言って法定通貨と連動した暗号資産の事です。今、なんとかPayとかが流行っていますよね?それとおんなじ感じです。若い吉田店長ならアプリを入れたらすぐ使えますよ。簡単です」
「はい。私も一つ使用しています。LINPayです。無料通話アプリの」
「なら、話が早いですね。LINPayと一緒です。あれは口座登録しておくと自動チャージしてくれるアプリですよね?Jコインは口座登録しておくとそこから、電話番号だけで送金、入金が出来るアプリです。問題なさそうですね?」
「はい、私は大丈夫ですが、アルバイトさんには年配の方もいるので出来るかどうか?」
「大丈夫ですよ。吉田店長が集金してJコインで送ってもらえれば良いんです」
「あのー先生、それなら現金では無理なのでしょうか?」
「吉田店長、瀬奈先生はJコインでしか受け取らんのだよ、おかしいじゃろ?」と笑いながら大屋敷が口を挟んできた。
「大屋敷さん、余計なことを言わないで下さい。この時代に現金主義の大屋敷さんの方が成り金みたいでおかしいですよ。いつも財布に50万円入れているなんて、現代では考えらません。紛失や盗難のリスクを考えたら、カードや電子マネー、Jコインの方が安全ですよ。ATMに並ぶこともないんですから・・・」と瀬奈は自分の考えを述べた。
「いや、先生違うぞ、わしはそんな利便性は必要じゃないんじゃ、わしは今のお金はデータという考えがものすごく嫌いでのう。昔、幼少期は貧乏だった影響かもしれんし、現金で給与を受け取っていた最後の世代だからかもしれん。
今の世代は現金のありがたみをわかっていないとさえ思っている。持論だが、給与振込が出来てから日本は駄目になった気がする。
父親が、母親が、額に汗して働いてきた給与袋に入った現金のありがたみ、そしてわしが父親になった時の家族からの感謝の言葉。今でも忘れられん。今月もありがとうございました。と家族皆に言われるんじゃぞ、瀬奈先生は言われたことがあるかいのう?」
「時代が違いますから無いです。でも今の話を聞くと羨ましいですね。私が子供のときにはもう親父たちは銀行振り込みだったし、そんな経験もありません。でも想像は出来ます。いい時代ですよね。家族が片寄せあって、力を出し合って、知恵を振り絞って・・・お金のありがたみをみんなで分かち合って・・・」
「そういう意味では大屋敷さんの方が正解なのかもな・・・」瀬奈は少し寂しそうにつぶやいた。
「せやろ、だからわしは現金オンリーなんや、キャバクラなんかいったらチップで現生が一番や!これでアフターも同伴も簡単やで!」と高らかに笑った。
瀬奈も吉田店長も目を丸く見開いて言葉を発しない。
いや、発せない。すぐ前の格好いい話は何だったんだろうと瀬奈は思った。
目で吉田店長に【こんなオーナーで大丈夫?】とサインを送る。【多分大丈夫です】と吉田店長から帰ってくる。
「では本題に入りましょうか」と瀬奈が言った。
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