第6話 未払賃金立替制度
★未払い賃金の話
「ざっと未払い賃金が発生しているメンバーは何人位ですか?」と瀬奈が吉田に尋ねる。
「未払いが続くので嫌になって辞めてしまったメンバーもいます。この方たちの分も請求できるのですか?アルバイトなんで無理だとか諦めていましたが・・・」と吉田は尋ねる。
「いいかい?未払い賃金立替制度とは独立行政法人 労働者安全機構が行っている制度で正社員だけではなく、パートやアルバイトも対象となる。
対象者は倒産または倒産状態の認定を労働基準監督署に申請した日の前の6ヶ月間、および、その後の2年間に退職した人が該当します。
ですからこれから申請すればその日から6ヶ月前までに退職した人は全て対象になります。でどうでしょうか?対象者は何名位ですか?」と瀬奈が尋ねる。
「辞めたアルバイトさんが2名で、あと残っているメンバーが10名おります。合計で12名です」と言ったあと、首をかしげながら吉田店長が?な顔をして
「先程、瀬奈先生は申請した日の前の6ヶ月間、および、その後の2年間に退職した人が該当するとおっしゃってましたよね。まだ私達は残っているんですが・・・」
「これから退職するんです。オーナーが借金をして失踪している会社のことを事実上の倒産と言います。倒産ですから、解雇という形になります。雇用保険に加入していた場合はもちろん会社都合になります。ですからこのまま失業保険はすぐにもらえるので、それをもらいながら次の職を探すのも一つの手ではあります」と瀬奈が説明する。
困惑した表情で吉田が「実はその雇用保険も僕らはたぶん入っておりません。オーナーにも何度か、雇用保険の被保険者証を見せてくれと言ってたんですが、のらりくらりとかわされてしまって・・・それだけではなく健康保険は国民健康保険料を払っていますし、年金も国民年金です」
大屋敷が驚いて言った。「それはひどいな、法律違反じゃないの?」
「そうなんですよ、いくら個人事業主とは言っても加入義務はあるはずですよね?」と吉田は瀬奈に確認する。
「いや雇用保険はともかく、社会保険の方は個人事業主のサービス業は適用事業所には該当しない可能性がありますよ。家族経営でやっている商店などはよくある話だよね」と瀬奈も説明する。
「でも法人でやってたんですよ。屋号も登記していましたし・・・」
「でしたら完全に法律違反ですね。全ての法人には加入義務がありますから」と瀬奈
「ですよね?なんども、なんども何故加入してくれないのか?聞いたんです。でも教えてくれないんです」と吉田
「良くある話です。零細企業には社員の保険料を払ったら、潰れてしまう位の経営状態の所が少なくない。確信に近いが吉田店長の会社もそういう状態だったと思うよ。もちろん吉田店長も被害者だけど、やはりある程度ちゃんとした会社で働かないと自分の人生も狂うからね」
「そうなんです。今はこんな会社に長くいた事を後悔しています。大屋敷オーナーの所は大丈夫ですか?」と吉田店長は済まなそうに聞いた。
「わしの所は大丈夫じゃ、社会保険完備って求人にも掲載しておる」と胸を張って答えた。
今どき社会保険完備なんて当たり前過ぎて誰も求人には載せませんよ・・・と瀬奈は思いながら
「それは良かったですね。大屋敷さんの所では退職金の制度もあるんですか?」と聞いてみた。
「当然じゃ、瀬奈先生には悪いが、大手の社労士法人に全て委託しておるのでな、ちゃんと就業規則もあるでよ」それも当たり前ですと瀬奈は言いかけたが、途中で吉田店長が口を挟んできた。
「なんで大屋敷さん、瀬奈先生の事務所に頼まないんですか?おかしいじゃないですか?」
大屋敷は苦笑いして、こう答えた
「わしも本当は瀬奈先生にお願いしたいんじゃが、支払い方法がな・・・特殊でわしとは合わんのじゃ。瀬奈先生も良い先生だが、現金で受け取ってもらえんのじゃ・・・」
吉田店長も驚いて
「銀行振り込みもだめなんですか?」
大屋敷も大きくうなづく。
「Jコインのみだ」と瀬奈が力強く言った。
「瀬奈先生!それで損をしているとは思わないですか?大屋敷オーナーだって、絶対に瀬奈先生にお願いしたいと思っていますよ」
大屋敷も大きくうなづく。
「いや、そうは思わないな、私はJコインの未来というか、ステーブルコインの未来を信じている。必ず、現金、貨幣の時代はなくなるだろう。デジタル通貨しか残らないと思っているよ」
「でもそれは遠い未来の話ですよね?今は両方共使えばいいじゃないですか?」と吉田も食い下がる。
「いや、遠くないよ、2,3年後には現金はなくなる。断言する」
大屋敷も吉田もこれには二の句が継げなかった・・・
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