第7話 わすらるる企業年金連合会
★仕事探し
そう簡単に仕事など見つかるはずはない。そもそも陽菜には当てもないのだ。
一度友達が大学を辞めるという一件で向こうから転がり込んできた分別の利益の仕事があったが、そうそう仕事が転がっている訳ではない。
しかたなくスマホをいじっていた陽菜だが、あるニュースに目が止まった。
【厚生年金基金等の隠された年金!請求漏れ124.6万人の衝撃!】
ニュースを読んでみると企業年金連合会HP上で発表された数字が話題になっているらしい。
平成30年の3月に発表となっている。
本来なら貰えるはずの厚生年金等企業年金の請求をしていない人が全国で124.6万人もいるらしいのだ、そんな数字が出るくらいだから、連絡して支給すれば良いと思うが、そうは行かないらしい。
結婚して姓が変わったもの。
転居して行方が判らなくなったものが多数を占めるらしい。
そうなると本人から請求がない限り、照会するのは不可能と記事には書いてあった。
どうやら厚生年金基金は普通の年金と違い、日本年金機構に請求するのではなく、企業年金連合会に請求するらしい。
その請求漏れが124.6万人もいる。そしてねんきん定期便には厚生年金基金の加入状況も記載されているので確認するようにという呼びかけで終わっている。
これを読んだ陽菜は閃いた。
という事はこの該当者を見つけ出して、請求するのを代行すれば仕事になるじゃん。
という事だった。
しかしどうやって探す。
果たして見つかるのかそんな都合の良い該当者が・・・陽菜は考えた・・・
「結局、何も浮かばない。片っ端から友達に聞いてみよう」と覚悟を決めてスマホを取り出すとメッセージアプリにこんな文面を載せた。
「教えて下さい!!皆さんの周りで年金暮らしで生活に困っている人を知りませんか?請求漏れの年金の可能性があるので調べさせて下さい」と記事のアドレスも添えて。
これで良いのか?散々、悩んだが、「エイっと」送信してみた。
即レスで返事がいっぱい帰ってきた。その殆どが
「陽菜のアドレス、乗っ取られてない?業者のDMが来たよ」とか
「陽菜?老人をだますビジネスを始めたの?良くないよ。そういうの・・・」
「本当に陽菜?送る人間違っているんじゃないの?」
といった否定的なものだった。
一つ一つに丁寧にゴメン、ゴメン誤送信だったことを返信していった陽菜だったが、一通真面目なメッセージが入っていた。
「陽菜?これ私のおじいちゃんも該当するのかな?」と言うものだった。
彼女の名前は松田 玲奈(まつだ れな)高校の時の同級生だ。
「玲奈!久しぶり!ごめんね、いきなりこんなの送っちゃって。ビックリしたでしょう!!」
「うん、ビックリした!でもなんで陽菜がこんなの送ってくるの?」
「チョット待って!電話で話していい?」と玲奈の許可をとって電話をしてかいつまんで今の状況を説明した。
父親が社労士をしていること。そしてその手伝いをしていること。父親が自分で仕事を探してこいと言ったこと。
全てを説明して、玲奈もようやく理解したようだ。
「それであんなメッセージが来たんだ・・・なんかうちのおじいちゃんのこと、知ってるのかな?なんて思っちゃったよ・・・」
「それでおじいちゃんてどんな状況なの?」
「私も詳しくはわからないんだけど、おばあちゃんが昨年に亡くなって、一人暮らしをしてるんだけど、自営業が長かったから、年金が少なくて苦しいって言ってた時があって、それを思い出したの・・・もしかしたらおじいちゃんも請求忘れがあるんじゃないかな?と思っただけ・・・」
「玲奈!一回おじいちゃんに会わせてくれない?突然で申し訳ないんだけど・・・」
「それはいいけど、何も出てこないかもよ」と玲奈は笑って言った。
「それでもいい!!お願いします!」と陽菜はお願いした。
「わかった。おじいちゃんに聞いてみるね。女子大生が社労士になりたいので年金のことを調べているって言えばいいかな?」
「うん、それでいい!助かるわー」
「でも、そこまでしてお父さんの仕事を手伝わなくても良いんじゃないの?他のバイトはないの?」
「いや、お金が欲しいんじゃないの?父にバカにされたのが悔しいの!私のプライドの問題なの」
「うーん・・・親子関係の事はわからないけど、おじいちゃんの生活が楽になるんだったら陽菜に任せるよ」
「ありがとう玲奈! じゃあ連絡待ってるね」と言って電話を切った。