第7話 わすらるる企業年金連合会
★松田賢二(まつだ けんじ)
玲奈が連絡をとってくれたおじいちゃんの家に陽菜は行ってみた。
築40年のおんぼろアパートだ、ここで昨年までおばあちゃんと夫婦で暮らしていたらしい。
陽菜が約束の時間にチャイムを鳴らすと疲れて痩せこけた老人が現れた。
「いらっしゃい」疲れた表情で無理した笑顔で迎えてくれた。
「あのー始めまして、玲奈の友達の瀬奈 陽菜と申します。年金の勉強をしていまして、年金生活の実態を聞きたいと思ってきました」
「どうぞ」と老人はかすれた声で答えて陽菜を家に上げてくれた。
老人のプロフィールは以下の通り
昭和19年8月15日生まれの75歳
年金は62歳から特別支給の老齢年金、60歳から報酬比例部分を受給。
しかし23歳から60歳までは自営業だった為。
報酬比例部分は雀の涙だ。
しかし18歳から23歳までは厚生年金に加入している。
月額の年金額はわずか8万円。
おばあちゃんが生きていたときは2人で15万円はあったので何とかやってこれたという話だ。
しかしおばあちゃんが亡くなってからは月8万円で生活しなくてはいけなくなった。
幸い貯金が僅かだがあるのでそれで食いつないでいるという話だ。
「松田さん、今日私が来たのはねんきん定期便を見るためです。昔の書類ですが、ねんきん定期便はありますか?」
「孫の玲奈からも連絡をもらって用意してありますよ。こちらです」
だいぶ昔の書類だが、しっかりと保管されていた。陽菜はそれを受け取るとすぐに基金、基金と呪文の様に唱え始めた。
「あったー 18歳から23歳までの間、小売店に勤めていた時期に基金と書いてある!!」と陽菜は興奮して言った。
「なにがあったのかな?」と松田は不思議な様子で陽菜に尋ねる。
「請求していない年金がもしかしたらあるかもしれないんです!」と陽菜が答える。
「しかし、年金は2ヶ月に一回、日本年金機構から振り込まれておりますぞ」
「でも企業年金連合会からは振り込まれていないんですよね?」
「わしにそんな難しい話はわからん。国がくれている額がわしの年金の額じゃろう?」
「いや、年金は2箇所から支払われる事があるんです。松田さん、若い頃に小売店を辞めたときに退職一時金で受け取りましたか?」
「うーん・・・いくら考えても思い出せん。退職金として受け取ったような気もするが・・・」
「松田さん、とりあえず企業年金連合会に連絡しましょう!私が横で聞いていますから!」
「え!今からかい?なんて言えば良いんじゃ?」
「私の企業年金の請求漏れはありませんか?で大丈夫です」
「え!そんなので大丈夫なのかい?」
「はい、まずは電話しましょう!はい!」と言って勝手に受話器を松田に渡す陽菜。
電話をするとまず本人確認があった。
名前と生年月日、そして加入していた厚生年金基金の名前、加入期間を陽菜がねんきん定期便の該当箇所を指さして松田が答えていく。
女性の声で「松田さんの企業年金は確かにこちらでお預かりしております」が受話器から漏れてきた。
それを聞いた陽菜はガッツポーズ。
松田さんは何が何だかわからないまま、今の住所を言って電話を切った。
「なんか書類を送るので請求してくれだって。ようわからんが・・・」
結局18歳から23歳までの若い頃に入っていた厚生年金基金の裁定請求忘れがこの時点で発覚。
その金額は年額15万円、時効はないので60才時点での遡及裁定請求で15年分の150万円がまず一括で貰えることに。
「本当にそんなに貰えるのかい?」と松田さんも半信半疑だ。