令和2年8月14日(金) 【旧 六月二十五日 赤口】立秋・寒蝉鳴(ひぐらしなく)

帰省子や夜の東京を心にて  ~原石鼎(1886-1951)

 原石鼎《はらせきてい》は島根県出雲出身。高浜虚子に師事した、大正期の「ホトトギス」を代表する俳人です。

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Photo:今年はこんなUターンラッシュはなさそう。

 いつもなら今頃故郷に帰っているはずなのに、都会の我が家で悶々とお盆休みを過ごしておられる方も多いのではないでしょうか。Go To キャンペーンの対象外の東京にお住まいの方でなくとも、都会のナンバープレートで田舎に帰ったり、旅行の予約をしたりするのは何となく気が引けてしまいます。「私はどんちゃん騒ぎをしません」とか、「親の介護のために帰省します」とか書いたステッカーを車に貼り付けておくわけにも参りません。オンライン帰省やオンライン墓参りというのはちょっと寂しい気がします。

旅行きに行くと知らずて母父《あもしし》に言申さずて今ぞ悔しけ
  ~川上臣老 『万葉集』 巻20-4376

長旅になるとも知らず、母や父に別れも告げず出て来ては、今になって悔しく思うことだ。

 川上臣老《かわかみのおみおゆ》は下野国(栃木)から徴兵された防人です。都から遠く離れた下野の住人なので独特のお国訛りがあります。「母父《あもしし》」は当時の標準語では「おもちち」。結句の「悔しけ」も同じく「悔しき」が標準語。そして中西進先生の注釈には「東山道の歌は比較的父母が多く、東海道は母父」と父と母の順が逆になっていることが記されています。地方による表記の違いも興味深いですね。

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Photo:鞠智城跡に建つ防人像(熊本県山鹿市)

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