梅田ベイブルース#3 | BOOGIEなイーブニング!

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重洲にいる。


レンズフィルターを望遠レンズにはめ、珈琲屋の電源からスマホを充電しながら、隣の父娘の話しまで盗み聞きするという難度の高い複合技をやってのけ、新幹線発車15分前に俺はエクセルシオールを出た。


八重洲地下街から駅までの道、改札から新幹線ホームまでの順序も全てシミュレーション済みのはずだったが、珈琲屋を出て、まずどっちに向かうか分からなくなってしまった。ご自慢の方向音痴がここへ来てスパークする。そうなると目の前の八重洲地下街は壮大なダンジョンへと姿を変えるのだ。あの父娘のせいで時間はもうない。緊急事態なので一旦レミリトで強引に地上に出て、東京駅を目視しながら改札口に向かった。


地下から改札口手前の階段でスマートに行くはずが、最寄りの階段で出て、そっから改札に向かうので、発車の時間が迫っている。俺は売店でビールとお茶だけ買ってホームに向かった。このビールは新幹線で隣の見知らぬ乗客が飲んだら俺も飲む用である。隣の客が飲まなければ、当然飲まずにリュックの中である。



俺は乗車口の列のやや後方に並んだ。ちょうど日曜日なので、結構混んでいる。指定席は恐らく満席だろう。新幹線の扉がシューっと開いて、のぞみ31号に乗り込んだ。窓際の自分の席を見つけ座ると後から30代前半のイケメンビジネスマンが隣に座った。


東京発大阪行きの俺の恋の予感が

ただかけぬけるだけで終わった。


もし、美人JDとかなら、俺は2時間半ずーっとクンクンクンクンと美人JDのいい匂いを嗅いでいただろう。そうして過呼吸になるのは漢の本望じゃあないか。


イケメンビジネスマンは2段階ほど椅子を倒した。俺もそれに合わせるようにピッタリと2段階倒す。これが俺のまだ人生で6回しか乗ったことがないけど新幹線の流儀である。


あ、一人で新幹線に乗ったのは初めてだ。


ビジネスマンはビールを持っていなかった。これでもかってくらいダサいパッケージデザインの「お〜いお茶」をシート前部の網に放り込んだだけである。


これで俺の缶ビールサッポロ黒ラベルは荷物としてホテルの冷蔵庫まで運ばれることになった。こういうこともあるんじゃないかとキオスクで静岡産のお茶も用意していたので、俺もイケメンに習ってシートの網にペットボトルを放り込んだ。




いつも思うのだが、新幹線の発車時は、もっとうるさくベルを鳴らしてから発車してもいいのではないか。これから発車するぞっという気合いが感じられないし、なによりも乗り慣れてないから音もなく発車するの怖い。すーっと滑るように加速して気がつくと品川まで来ている。こんな感じで新横浜まで静かに進み、いよいよ名古屋までノンストップで突っ走るじゃんか。


非常に眠い。


恐らく3時間くらいしか寝ていない。終点が新大阪駅行きの新幹線ならガッツリ寝てやろうと思うのだが、この新幹線は博多行きである。音もなく駅に到着し、音もなく駅から発車するので、寝こいたら最後だ。新京成線ならせいぜい松戸駅まで行って帰って来るだけだが、新幹線はそうはいかない。博多に行ったら乗り過ごした分と戻って来る分とで、ガッツリ3万円請求されるはずだ。


何も告げずにそーっと新大阪駅に着き、そのまんま起こしてもくれないで、こそっと博多まで運ばれて、サンマンエンってあんた!そりゃぼったくりだよ。


なので逆算して京都でアラームが鳴るようにしておいた。しかし、寝過ごしたらアウトという緊張感からビタイチ眠れない。俺は静岡の田舎の景色を見るだけだが、隣のイケメンビジネスマンはよりによって窓側の俺の方に顔を向けて寝ている。俺が普通に正面を向いているだけで、このイケビジに横顔を見つめられているような顔の気配があるのだ。そのぐらいガッツリ真横を向いて、なんならちょっと俺側に傾いて寝ている。


これでもし俺が通路側、つまりイケメン側に顔を向けば、愛し合い見つめ合う二人みたいになる。玉木宏似のすっとしたイケメンだ。なんなら、俺の雌(めす)の部分が疼きそうになるので、俺は窓を見るしかなくなってしまった。


シンクロナイズドスイミングペアのキメポーズのように二人で窓側を首を真横に向いている。こんな姿勢で2時間も耐えろというのか。


つづく