とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。

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👇一押し記事👇
【2010年代ベスト】
2010年代ベストアルバム(邦楽)30位→21位
2010年代ベストアルバム(邦楽)20位→11位
2010年代ベストアルバム(邦楽)10位→1位

それでは、一緒に音楽の旅へ!


●逆襲のリバティーンズ

4人組UKロックバンド"ザ・リバティーンズ "(The Libertines)の4枚目のアルバム『All Quiet On The Eastern Esplanade』をレビューします。

【収録曲】
1 Run Run Run
2 Mustang
3 I Have a Friend
4 Merry Old England
5 Man with the Melody
6 Oh SHT
7 Night of the Hunter
8 Baron's Claw
9 Shiver
10 Be Young
11 Songs They Never Play on the Radio

アルバムタイトルは、ベストセラーを映画化し、1930年に公開された(最近もリメイクされた)『西部戦線異状なし(ALL QUIET ON THE WESTERN FRONT)』をもじったと思われる。「Esplanade」は遊歩道という意味であり、オフィシャルな邦題は『東部遊歩道異常なし』だ。参照元の『西部戦線異状なし』とあわせて考えると、人をくったようなタイトルにすでに彼らの個性がある。

まずは、リバティーンズの総論を。リバティーンズで僕が最推しするのが、彼らのデビューアルバム『リバティーンズ宣言 (Up The Bracket)』だ。


「Death on the Stairs」

とにもかくにも、この 『Up The Bracket』の「Death on the Stairs」を聴いてほしい。二人のギターボーカル、ピート・ドハーティとカール・バラーの親密と反発が一体となったような関係性と、競い合うような場の掌握力が本当にスリリング! ロシアの女性二人組のユニット「タトゥー」の二人のような親密ぶりがリバティーンズの音の魅力に表れていて、自分はゲイではないけどすごく萌える(燃える)。

疾走感に風を感じられる。4人のメンバーの中で一番テクニシャンだと思われるゲイリー・パウエルの鉄壁のドラムの上に乗る、酩酊者のような下手ウマヘロヘロギター。悪ぶった脈打つグルーヴに良いことも悪いことも忘れられる。この音楽は衝動をとらえている。

2000年代初頭に起こった「ガレージロック・リバイバル」の現象。この現象でリバティーンズと並び立って紹介されるストロークスやアークティックモンキーズ、フランツ・フェルディナンド。これら3バンドの音には精妙な洗練ぶりを感じるし、ストロークスのモダンな音はガレージロックという言葉の印象とは離れた上質さがあるように感じる。

だが、リバティーンズの音はエレガンスよりもバンド演奏をそのまま真空パックしたような空気感を重視したように聴こえる。だから、彼らの音源は一枚目のアルバムの『リバティーンズ宣言 (Up The Bracket)』が一番良い。無軌道な青春と乱暴な初期衝動が余すところなく真空パックされているのだ。二枚目と三枚目も悪くはないのだが、一枚目の衝撃からはほど遠い。

さて、本作をみていこう。

本作は収録曲#7「Night Of The Hunter」に顕著なようにイマドキのバンド(The 1975)のようなエレガンスも感じる。クラシック(たとえばラヴェル「ボレロ」やドヴォルザーク「新世界より」)のようなフレーバーさえ感じる。アルバム全体がパブロックからAORになったような感触なのだ。まあ、AORと呼ぶには少し荒っぽいサウンドだけど。

複数の曲にストリングス、ホーンセクション、コーラスが取り入れられ、直線的な熱よりも、多様性の豊かさが音に表れている。パンクバンドがポストパンクやニューウェーブに音楽性を変えていったように、これがリバティーンズの彼らの成熟なのだろう。ギターボーカルの二人の密室的な親密さがもっと音楽的に開かれて(拓かれて)いったのだと思う。

#6「Oh Shit」が本作において、一番間口が広いだろうか。ポピュラリティーと作家性が同居する必殺ロックンロールだ。そんな曲にこのタイトルをつけるひねくれ方がいいね。



#9「Shiver」はジョン・ハッサールによるベース演奏が魅力的な一曲だ。リバティーンズでベース演奏を意識することは少なかったのだけど、この曲のベースは温かなアタック音かつメロディアスで素晴らしい。そして、僕が本作で最も好きでオススメするのもこの曲である。



本アルバム全曲をとおして、ソングライティングや楽器フレーズの傾向が、ベタだけど安手にならない才覚の鋭さが素晴らしい。変化球の曲で予定調和を崩したり、オーセンティックなロックンロールを演奏したり。どちらにおいても、彼らの筆致が強く刻まれている。

今のところ、僕が一番に好きなのは前述した一枚目のアルバム(『リバティーンズ宣言 (Up The Bracket)』)なのだが、その一枚目をゆうに超える本作の完成度は今までの彼らのキャリアの中で随一だと思う。好感の具合と完成度の高さは違うものさしなんだよね。とにもかくにも、本作は佳作でした。

Score 8.8/10.0

🐼オマケ🐼
和製リバティーンズといったら、以下の2組❣️
リアルなリリカル🌸×衝動のロックンロール⚡️


andymori「everything is my guiter」


ダニーバグ「退屈ハイウェイ」


👆andymoriは解散しましたが、こちらはバリバリ現役若手です!



●俗っぽく不潔で、だけど高貴で優しい

元うみのて(とかげ日記読者にはおなじみ)、現在はゲスバンドとSuiseiNoboAzのギタリスト高野京介の6曲入りデビューアルバムのレビュー。

このアルバムは、音源が配信されておらず、CDの形態のみの発売だが、そのCDもSold Outとなっている。(なぜか岡山市の「ながいひる」という古書店で店舗販売用在庫が2枚だけあるようだが)。タイトル曲の「ロックマン」は配信とYouTubeで聴けるので、聴いてみて気になった方はCDの在庫復活かサブスク配信を待っていてほしい。


👆アルバム『ロックマン』試聴トレーラー

小沢健二の歌に以下の歌詞のポエトリーリーディングがあるが、高野さんもまさに詩人!(シェルターとはライブハウス「下北沢シェルター」のことだろう。ミュージシャンも詩人なのだ。)

下北沢珉亭 ご飯が炊かれ 麺が茹でられる永遠
シェルター 出番を待つ若い詩人たちが
リハーサル終えて出てくる

小沢健二「アルペジオ (きっと魔法のトンネルの先)」


うみのて笹口騒音さんの天衣無縫で、かつ洗練された手つきの歌詞ではなく、高野さんの書く歌詞はもっと凸凹した歌詞だ。だが、逆にそれが生々しいリアリティを帯びている。編集はしているだろうがフラット気味に聴こえる歌唱とあわせ、ごろっとした生野菜を食べている気分だ。生々しいからこそ高野さんのフィーリングが痛いほどに伝わってくる。

では、一曲ずつ見ていこう。

一曲目「motion」でフェイドインしてくる始めからX JAPAN並みに壮麗なサウンド。後半は女性のポエトリーリーディングがそこに乗るが、リリカルな聴き心地に安堵する。これから何が始まるのだろうと期待させる理想的な導入部の一曲目だ。(音源の一曲目で女声のポエトリーリーディングが披露されるのは、夜に駆ける【バンド名】の「白昼夢」を個人的に思い起こさせた。)

#2「バンドをやめる日」。このギターの気だるい響きと感傷は、きのこ帝国のアルバム『渦になる』を僕に想起させた。一曲目がおそらく高野さんと関わり深いライブハウス「新宿motion」がタイトルの由来であり、最後の曲「朝が嫌」も多くのバンドマンの生息地「阿佐ヶ谷」が元ネタだと思われるので、この曲「バンドをやめる日」も(というかこのアルバムのどの曲も)、高野さんの私小説的な要素がある。「いつまで無職でいるの」「どうして東京来たの」という歌詞がリアル。そして、歌詞がない箇所でギターに熱く語らせるのも私小説的だ。

#3「1997」。イントロから艶やかで凛とした鍵盤の音に耳を奪われる。ピアノが演出するこのロマンティシズムはゲーム音楽由来か。筆者の僕もそうだが、1997年は高野さんの青春時代(厨二病時代)だろう。「X GLAY LUNA SEA 黒夢 ラルク」という、バンド名の固有名詞が羅列される歌詞が高野さんの青春時代、またの名のヴィジュアル系全盛時代へリスナーを連れ込んでいく。

#4「I Love You」。かつて、この曲名で「僕は君を振る」という歌詞の曲が存在しただろうか? この屈託こそ、高野さんの神髄。

LUNKHEADの名曲「月と手のひら」の歌詞で「いつか君のその手は/違う誰かを幸せにする」というラインがあるが、相手の幸せを願って別れるという行為の尊さに泣けてくる。

リード曲の#5「ロックマン」。歌詞に登場する「ときメモ」、「ドラクエ」、「ファイナルファンタジー」、そして曲名の「ロックマン」。ゲーム好きの自己ゆえのロックソング(存在証明)を鳴らす。痛切なシャウトに胸を焦がす名曲。

音楽リスナー歴も浅くない身(耳)として、心に伝えようとする音楽はすぐに分かる。この音楽は心に伝えようとしている。たとえ、このコード進行がくるりのパクリでも。自分の伝えたいフィーリングは、自作他作問わず自分がお気に入りのコード進行の時に乗りやすい。



ラストの曲#6「朝が嫌」 。歌謡曲的な臭みがあるが、ノスタルジックな歌メロや間奏の女声コーラスはジブリの往年の名曲のような求心力があって心地よい。歌詞カードから飛び越えてくるような絶唱は僕の心の壁を何層も突き破ってきた。ギター演奏についても悪目立ちに技巧を見せつけようとせず、ストレートに気持ちを伝えようとする演奏がかっこいい。

本作でギタリストとしてサポートしている「壊れかけのテープレコーダーズ」の小森清貴さんにはMCや演奏のたたずまいからまっすぐな誠実さを感じる。高野京介さんも誠実だと思うが、小森さんとは違う誠実さだ。もっと俗っぽく不潔で、だけど高貴で優しい、そんなカオスな誠実さの魅力が高野さんの音楽と姿勢にはある。

うみのての「SAYONARA BABY BLUE」のMVにおいて、主人公の女性が入水自殺を遂げる描写(多分そう)があるが、それとは対照的に、フライヤーで同じく海辺に立つ高野さんはこれからも「生きる」ことを辞めないだろう。不潔な魂だって生きていてよいのだ。その生き方は最高にロックであり、その生き方を貫く高野さんは最高の「ロックマン」なのだ。

いつか出るだろう二作目が楽しみだ。



Score 9.4/10.0
↑現時点において2024年最高スコア。

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さて、今回の特集記事はスピッツを取り上げてみようと思います。「非シングルA面マイベスト10曲」と題して、シングルとしてはリリースされていなくとも、今も色あせない名曲10曲をご紹介します。

『とかげ日記』で初めての試みとして、本件についてのアップルミュージックのプレイリストをこの記事の最後に公開しています🍎

#スピッツ非シングルA面MyBest
【10位】アパート('92)


美メロ良し、切実な歌詞良し、清らかなサウンド良しで三方よしの名曲。邦楽ネオアコ&ギターポップとして一つの完成形がこの曲だ。この曲が好きな方は同じアルバム『惑星のかけら』の「日なたの窓に憧れて」「僕の天使マリ」もどうぞ。

#スピッツ非シングルA面MyBest
【9位】ウサギのバイク('91)


藤井聡太がフェイバリットに挙げていた「魔女旅に出る」や、ジリつくようなギターが魅惑的な「プール」など、素朴な作風の良曲が並ぶ名盤『名前をつけてやる』。本曲も素直でのびやかな恋心が描かれる名曲です。

#スピッツ非シングルA面MyBest
【8位】猫になりたい('94)


僕がまだ10代だった頃、スピッツの隠れた名曲として本曲がファン投票で1位になることが多かった。この曲には濃厚な「空気」がある。刹那が永遠に続いていくような、穏やかで温かな気持ちにさせてくれる親密な空気だ。

#スピッツ非シングルA面MyBest
【7位】サンシャイン('94)


『空の飛び方』のラストをしんみりと飾る名曲。「すりガラスの窓を あけた時に よみがえる埃の粒たち」という歌詞とサウンドの空気感が一致。こんなに過不足なく情景を豊かに伝えられるバンドは他にいないと思う。

#スピッツ非シングルA面MyBest
【6位】魚('99)


良曲ぞろいな3曲入りスピッツのEP『99ep』の2曲目。現在はオムニバスアルバム『色色衣('04)』で聴ける。

人間がまだ海の生き物だったころへの懐かしい叙情と、「君」への達観した温かな優しさを感じる。魚になって全ての気持ちを海に預けたい。

#スピッツ非シングルA面MyBest
【5位】8823('00)


尖っていたり、ソリッドだったり、サイケだったり、ヘヴィだったり、スピッツ史上最強にロックな名盤『ハヤブサ』に収録された最強のロックソング。サビの疾走感が気持ち良い。単なる売れ線J-POPバンドと思っている方は驚くはず。

#スピッツ非シングルA面MyBest
【4位】フェイクファー('98)


同名アルバムの最後を飾る曲。(このアルバム、草野さんは出来に納得していないけど名盤です。)イントロのギターのもこもこした音が毛皮(ファー)っぽい。曲終盤の四つ打ちサウンドは彼らの曲で五指に入る感動的な聴きどころ。

#スピッツ非シングルA面MyBest
【3位】ガーベラ('02)


メンバーが(テツヤさんだったかな?)この曲を好きな人は変態と言っていて、そうだとしたら僕は音楽的変態間違いなし。この曲が描く夜と闇を心地よく聴けるのは、マイノリティだろう。優しい暗闇に心をすべて預けたい。

#スピッツ非シングルA面MyBest
【2位】祈りはきっと('23)


「美しい鰭」のc/w。なんでこの曲がニューアルバムに入らないの?と思うくらい素晴らしい。「さらさら」などを想起させるこの刹那な切なさは彼らの十八番だね! イントロのアコギのストロークから持っていかれるよ。

#スピッツ非シングルA面MyBest
【1位】夜を駆ける(02')


切なげに哀しげに鳴るピアノリフや透明感あふれる草野さんの歌声が情景を紡いでいく。一夜を駆けていく刹那のロマンティシズムがたまらない。「ガーベラ」も収録されたAL『三日月ロック』はスピッツ屈指の名盤ですよ。

#スピッツ非シングルA面MyBest
【オマケ】タイムトラベラー('93)


草野さんのラジオ番組『ロック大陸漫遊記』の番組最後のコーナー名(ちょっぴりタイムマシン)にひっかけてこの曲をオマケとして選曲。

スピッツ史上最深のノスタルジーが僕らを黄昏の世界へと運んでいく。そして、収録アルバム『Crispy!』の次の曲「多摩川」でリスナーは霊性と匂いが立ちこめる沼(川)に完落ちするのだ。(その後、アルバムラスト「黒い翼」で不死鳥のように舞い上がり、無限の空へ落ちていく。)

【1位】夜を駆ける(02')
【2位】祈りはきっと('23)
【3位】ガーベラ(02')
【4位】フェイクファー('98)
【5位】8823('00)
【6位】魚('99)
【7位】サンシャイン('94)
【8位】猫になりたい('94)
【9位】ウサギのバイク('91)
【10位】アパート('92)
【オマケ】タイムトラベラー('93)

以上、10曲(+1曲)はいかがでしたか?
👇に載せるのはアップルミュージックのプレイリストへのリンクになります。好評だったら、今後もプレイリストをブログ上で公開しようと思います。
(Spotify上でも公開しようと思っていましたが、本名が知られてしまうためと、有料会員ではないので編集に手間がかかるため、掲載は取りやめました。)



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【音楽文掲載文章】僕の胸に黄色い花を咲かせたスピッツ
👆ロッキンオンのウェブサイト(音楽文←現在は公開終了)にも掲載された文章。

このブログ『とかげ日記』上のスピッツについての記事一覧(現在、8件あります)