夜に駆ける『僕らいつか化石になる』感想&レビュー【リスナーの悲観に希望として寄り添う】 | とかげ日記

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"夜に駆ける"は若手バンドの中で"ダニーバグ"と並んで頭一つ抜けた才能だ。


‪「化石になろうよ」という曲名のこのMV1本だけで心を鷲掴みにされてファンになりました。‬

‪歌詞からこぼれ落ちる実存に文学を感じたり、音がモダンで気持ち良かったり…‬。情緒を感じさせるボーカル、タメの効いたドラム、ルート弾き多めで歌を邪魔しないベース、印象的なサブメロディを奏でるギター。説得力のあるサウンドと共に、歌詞の一言一言が胸に刺さる。

初期きのこ帝国の実存的な音楽が好きならば、あなたもきっとこのバンドを好きになれるはず。スローで豊かな音楽に宿る輝きが"夜に駆ける"にはある。

"終わりだけが救い"というフィーリングは、楽観主義の僕には正直分からない。だけど、それでも"日々に意味を持たせたい"という思いが、切実に伝わってきた。迫真の演奏に拍手。この音楽を必要とする人はきっと沢山いる。

ところで、村上春樹『1Q84』の編集者の小松じゃないけど、小説において"特別な何か"、つまり"読み切れないもの"って大事だよね。

読者には読んで理解し切れないけど、豊かな意味がそこに含まれていると分かる文章。

文化芸術でも大事だと僕は思っていて、その点で言うと、"夜に駆ける"の作品には、"読み切れないもの"がある。

「化石になろうよ」において、「空気人形のような私は/体温がないみたいに冷たかった」という歌詞で"私"を「空気人形」に喩えるフィーリングも分かりそうで分からない。これこそ、"読み切れないもの"だと思う。

巷にあふれるシンプルなロックは、素直でまっすぐな人には刺さるのだろう。しかし、そこには"特別な何か"や"読み切れないもの"は無い。


デビュー音源である本EP『僕らいつか化石になる』の中で一番の傑作の曲は#6「化石になろうよ」だ。しかし、それ以外の5曲も夜の中の星々のような輝きを放っている。

まず、駅の雑音の中でポエトリーリーディングする#1「3番線」で一気に"夜に駆ける"の音世界に連れて行かれる。「不甲斐なくて惨めで/裸足で夜に駆けるしか/生き方が分からなくなった日」のどれもが愛おしいとつぶやかれるこの曲は"夜に駆ける"というバンドのアイデンティティを鳴らしているように響く。

うねるベースが気持ち良い#2「54秒」、世界の絶望と"君"がいる希望の狭間で揺れる#3「正午を過ぎた頃」、アコギの深い音色に癒される弾き語り#4「昨日の話し」、勢いのあるラップ調の#5「夜が来たら」、どれも佳作だ。

Vo.のはしもとりおの細かく揺れるビブラートは夜の光景を繊細に映し出す。朝や昼の喧騒ではなく、夜の月の孤独に惹かれる人なら本作を好きになれるだろう。これこそ正真正銘のオルタナティブ。この作品はリスナーの孤独や悲観に希望として寄り添ってくれるだろう。

Score 8.5/10.0


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僕は"夜に駆ける"というバンドをうみのての笹口騒音さんの紹介で知りました。うみのての臨時サポートでドラムをした川前ころさんが"夜に駆ける"のメンバーであるという繋がりからです。うみのても夜に駆けるも売れてほしい…!