あいみょん『おいしいパスタがあると聞いて』 感想&レビュー【リスナーの生活に寄り添う12曲】 | とかげ日記

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●リスナーの生活に寄り添う12曲

あいみょんの音楽の基底をなす90年代ポップス風味の懐かしさは、90年代の音楽をリアルタイムで聴いていない層も感じるものだろう。90年代の多くの歌にあったメロディの輝きがあり、そこにはどこか懐かしく感じさせる要素があるのだ。

ただ、あいみょんの音楽は90年代リバイバルの域を出ないものとなっている。また、プレイヤビリティや技巧を感じさせるような演奏だとは思わないし、音楽的な目新しさはそこにはない。しかし、#5「朝陽」のヒップホップを通過したビートメイキングには感嘆した。以前の曲「生きていたんだよな」とか、こういう新鮮さを感じるリズムアプローチはたまらなく良い。また、ラストを飾る#12「そんな風に生きている」の歌謡曲テイストも中毒性を感じた。

ただただ、実直に音楽と向き合っている姿勢が伝わってくる。一曲一曲に丁寧な手編みの温かさがある。ここでは、誠実な"うた"が鳴っている。演奏にプレイヤビリティを感じさせないのは、あいみょんの歌声にフォーカスするためでもあるのだ。

そして、あいみょんは歌詞が良い。神聖かまってちゃんの"の子"も褒めている描写力があり、表の建前で小綺麗な感情だけではなく、裏や負の感情まで歌詞で描けている。それらを描いた上でまっすぐに希望も描いて見せるから素晴らしいのだ。

#6「裸の心」に彼女の言いたいことが詰まっている。

いったいこのままいつまで
1人でいるつもりだろう
だんだん自分を憎んだり
誰かを羨んだり


曲の最初で上記のように歌っていたのが…

この恋が実りますように
少しだけ少しだけ
そう思わせて
今、私 恋をしている
裸の心 抱えて


最後には上記のように歌う。この明け透けなまっすぐさに惚れる。そして、その歌に「裸の心」と
ネーミングする繊細さと豪胆さに切実さを感じる。

また、爽やかな恋の歌だけではなく、あいみょん独特の湿気や匂いのある歌も前作までと同じく健在だ。#9「真夏の夜の匂いがする」はサビ以外の箇所で真夏の湿気を感じさせ、その湿気からリスナーを解放させるような振り切ったサビを聴かせてくれる。

声を過剰に張り上げたりしないし、聴いていても疲れない。特別さを過剰に演出しない本作収録の12曲はリスナーの普段の生活に寄り添える12曲だと思う。『 おいしいパスタがあると聞いて』というタイトルにインパクトがあるが、生活に寄り添える歌を作りたいというあいみょんの意欲が伝わってくる。#2「ハルノヒ」で歌われる『「お帰りなさい」と/小さく揺れる影を踏む幸せ』の幸福のバイブスが本作では鳴っている。

Score 7.2/10.0

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