ホルムズ海峡のタンカー事件に対処するために憲法改正は必要なのか? | なか2656のブログ

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2019年6月13日午後の報道によると、ホルムズ海峡を航行中の日本国籍のタンカー2隻が、何者かによる魚雷のようなものによる攻撃を受け、タンカーの一部が損傷するなどの事件が発生したとのことです。

この事件については、改憲派の論者の方々からは、「シーレーン防衛のために、やはり憲法改正は必要」との大きな声があがるであろうと思われます。

とはいえ、18世紀以降の自由主義諸国の近代憲法の本質が、「国家権力の専横を防ぎ、国民の権利利益を守るための法」であることを考えるならば、まずは、現在の憲法が現実の物事に対処できていないのか否かを今一度考えてみる必要があると思われます。

ここで、今回のタンカー事件をみると、まだ政府もタンカー会社も情報収集中とのことで、不明な点が多い状況ですので、本件タンカーへの攻撃が、①金目当てのいわゆる海賊・武装勢力などによる場合と、②イランなど国家による場合、との分けて考えてみたいと思います。

まず、①の海賊・武装勢力などによる不法行為であった場合ですが、本件タンカーは日本国籍であり、それに対する攻撃などの不法行為に対しては、日本の警察権がおよぶことになります(旗国主義、刑法1条2項)。

そのため、警察権の問題ですので、まずは日本の警察あるいは海上保安庁が事件への対応を所轄することになります。もちろん、自衛隊の船舶が近傍に居る場合などに、自衛隊がその業務を代行することはできます。ただしそれはあくまでも警察権の行使です。

つぎに、②のイランなど国家による攻撃であった場合ですが、国家からの攻撃が日本国籍の船舶になされた以上、日本は憲法の定める個別的自衛権を発動・行使することができます。すなわち、自衛隊の船舶などが加害者側の国家に自衛権の一環として武力を行使することは許容されます。

ただし、②の場合における自衛権は、従来の政府が採用してきた立場の、日本の個別的自衛権であり、2014年以降政府が主張している、いわゆる集団的自衛権ではありません。

したがって、本件タンカー事件への対応を政府・各機関が行うにあたり、ことさら憲法改正を行い、日本の自衛権を拡大する必要はないことになります。

(なお、かつての憲法学の通説であった芦部信喜教授などは、憲法9条との関係で自衛隊を消極的に評価していました。しかし、樋口陽一教授、長谷部恭男教授、木村草太教授など現代の憲法学者の多くは、個別的自衛権のための自衛隊・自衛権を憲法9条から認め、従来の政府解釈を支持する立場をとる一方、2014年以降の政府解釈に反対しています。)

■参考文献
・小林節『白熱講義!集団的自衛権』50頁、53頁、92頁、95頁


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