前田利家

 

加賀100万石の礎を築いた戦国武将。

 

彼は

 

強い正義感の持ち主だった。

 

そのため

 

同僚から

 

”あいつはめんどくさい”

 

”協調性が無い” と煙たがられ

 

主人である

 

織田信長をも激怒させ

 

若かりし頃

 

遠ざけられることもあった。

 

 

不遇の時代

 

前田利家は面白い話をしている。

 

失脚している自分を訪ねてくる友人を

 

分析し分類している。

 

1、自分が信長様から遠ざけられてから、まったく訪ねてこなくなった友人。

 

2、相変わらず訪ねてきてくれる友人。

 

 

その二種類のうち

 

相変わらず訪ねてきてくれる者を

 

さらに細かく分析。

 

1、訪ねてきた本人が不遇で、”いい仲間が増えた。”と

  喜んでやってくる者。

 

2、あれだけ信長様に激怒されたのだから、

  心を入れ替えておとなしくなったかなと様子を見に来る者。

 

3、反抗心が強い男だから、信長様に対してよからぬ企てをしているに違いない。

  その兆候をつかんで信長様に密告してやろうと、探りを入れてくる者

 

4、いままで いい気になりやがってと、

  落ちぶれた様子を笑いに来る者。

 

5、だから言わないことじゃない。

  おれは前々からこうならないか心配していたんだと、得意そうな顔でやってくるもの。

 

どうも

本当に心配して

前田利家のもとを訪ねてきたものは

二人だけだったようだ。

 

柴田勝家

 

森可成(よしなり・森蘭丸の父親)

 

 

前田利家は、

後年、こんな話をしている。

 

”人間は悲運の底に沈んでみなければ、友人の善悪もわからない。

 

 もっと大切なのは、そのときになってはじめて自分の心がわかることだ。

 

 兄弟のように仲良くしていた友人や、おれが目をかけていた後輩のほとんどが

 

 信長様に同調した。

 

 いや、それだけでなく自分からおれの悪口を言い、讒言する者さえいた。

 

 情けないことに、不遇になると自分の心がひがむ。

 

 だからそういうことを聞くと、響きは10倍にもなって胸に突き刺さる。

 

 そんななか

 

 蒲生氏郷は、見舞いには来なかったが、

 

 俺のためにいろいろと信長様にとりなしてくれた。

 

 不遇のときの友人こそ、真の友人だ。”

 

 

 苦労した

 

 前田利家は、しだいにかどが取れて

 

 人柄がまるくなっていった。

 

 

晩年

 

前田利家の終活の話。

 

利家は

 

経理担当者を呼び

 

俺のため、今まで出した、裏金関係の種類をぜんぶもってこいと指示をだす。

 

経理担当者は

 

顔色を変えて

 

”何のためでございましょうか?”

 

利家

いいからもってこい

 

経理担当者は

 

殿は臨終間際、自分の経理方法を責めるのだろうか?

 

不安を抱えながら

 

利家のもとに

 

書類の束を持ってきた。

 

 

利家は、

 

病床の中

 

一枚一枚の書類に鋭い視線をおくり

 

書類を確認して行く。

 

利家は

 

書類を読み終わると

 

二つに分けた。

 

 

前田利家

 

”知らなかった。

 

 ずいぶん苦労を掛けた。”

 

 

経理担当者

 

はっ

 

??????

 

利家

 

”礼を言うぞ”

 

 

経理担当者

 

”いえ。。。しごとですから。”

 

 

 

利家

 

二つに分けた書類のうち

 

こちらの書類は、この理由で支出ができる。

 

しかし

 

こちらの書類は無理だ。

 

焼いて俺の棺に入れろ。

 

俺が冥土にもっていく。

 

 

経理担当者は

 

前田利家が臨終間際に

 

なぜ、こんなことを言うのか分からなかった。

 

 

利家は、

 

経理担当者に

 

俺が死んで

 

息子が跡をついでも

 

息子には息子の方針がある。

 

また

 

新しい側近たちも育っていくだろう。

 

そうなると俺の側近たちは煙たい存在になり

 

追われることになるだろう。

 

追われる理由の一つが

 

不正支出になる。

 

苦労を掛けたお前たちに

 

そんな思いをさせたくない。

 

きっちり決着をつけて

 

俺の死後

 

お前が人事で不利にならないようにしておきたいのだ。

 

俺の息のあるうちに

 

早く処理しろ。

 

判を押して、花押を書く。

 

 

前田利家の死後

 

この経理担当者は失脚するどころか

 

栄進した。

 

 

死ぬ直前

 

利家の妻が

 

これをお召くださいと、

 

経帷子(きょうからびら)を利家にすすめた。

 

 

すると

 

前田利家は

 

”俺は、仏の許しをこうような悪いことは、なにひとつしていない。”

 

笑って退けた。

 

 

 

”冥土で邪魔するやつは斬る。”

 

 

利家は

 

そう言うと

 

刀を抱いたまま死んだ。