ギドンの店から実家までは、車を使っての移動でも10分もあれば行ける。
見慣れた住宅街の夕方の景色も、自分の心の結審で印象が随分と変わる。
パラン大病院を退職して、地方の街でクリニックを開院してからそれほど時は経っていないのに、妙に懐かしく思うのはハニと再会することが出来たからなのだろう。

高校生の頃に、学校から帰宅する途中にある公園で、家に帰ればハニとグミがにぎやかに会話をしながら家事をしている姿を思い、つぶす必要もないのに公園で一人で考え事をよくしていた。
他人に無関心だった自分が、どちらかというと苦手なタイプのハニが気になって、心がサワサワとすることに戸惑っていた。
同居してすぐにハ二のことが気になって、この感情が『恋』というものだと割と早い段階で気が付いていた。
ただその気持ちをどうしていいのか持て余していただけで、否定していたわけでもなかった。

高校卒業式後の謝恩会会場のある店舗内の物置のような場所での初めてのキスは、自分の心のサワサワとした気持ちに従って起こした行動。
それをごまかすために、いたずらにしたキスだとハニにそう言い放ったが、本当は気になり始めてから普通の男子高校生が日々考えている行動と同じだった。

特別に自分の気持ちを告白したことはなかったが、夜遅い時間の家族が寝静まった時、少し開いたハニの部屋のドアから様子を見た時、窓際に座っていたハニのその姿に自分の気持ちが抑えきれなくなっていた。

部屋に入ってもいいか?と確か聞いたような気がする。
拒否をすることなく招き入れてくれたハニは、女性として意識してしまうくらい不思議な香りを漂わせていた。
あの初めて部屋に入った時、いきなりハ二を抱きしめたのにハニは拒まなかった。
素肌に来たパジャマから伝わるハニの体は、自分もパジャマを着ていたのにストレートに体が感じていた。
その空気の流れで真剣な思いでしたキスは、いたずらにしたキスの時間の何十倍の長さだったような気がした。

大学生になったあの時が最初で、その後もほぼ毎日のようにハニの部屋に入って時間を過ごしていたが、だれも気が付かなかったのが不思議くらいだ。
ただキスをして抱き合っているだけの関係から、深い関係に代わるまでに結構時間はかかった。
これ以上自分の気持ちに歯止めが効かなくなったらどうしようと、そう思っていた時にハ二が言った一言で、将来の相手はハニだと決めたのだった。

「スンジョ君は、普通の男の子みたいに女の子とこうして抱き合っていてもそれ以上のことをしたいと思わないんだね。」
それが何を意味していたのかは、お互いに聞かなくてもわかっていた。
「私・・・・スンジョ君となら、どんなことがあっても後悔しない。」
そう言ったハニの言葉に、オレは応えられなかった。
「もしかしたらお袋が耳を澄ませているかもしれない。それに、何も準備をしていないから。」
がっかりしたハニの顔が暗闇でも分かった。




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