大した事のない風景でもハニはその一つ一つに歓声を上げているのを見るのはだいぶ前の事だった。
「ねぇスンジョ君、この景色をスンハにも見せたいね。」
「そうだな・・今度は家族三人で来ようか。」
「生活が大変で、スンハニ旅行らしい旅行に連れて行ってあげられなかった。一度もどこかに連れて行ってと言った事がないから、どこに行きたいって聞くと『おじいちゃんのお店に行きたい』って言うだけで・・夏休みや冬休みになると、他の子供たちは家族で旅行を楽しんできた話を聞いていたのに・・・」
「スンハは本当におじいちゃんのお店が好きだったのかもしれないよ。カフェの手伝いをしている時のスンハは、とても幼稚園児らしくない料理の腕前だった。」

台の上に乗ってハニとそろいのエプロンを着けて手伝いをしている姿をスンジョは思い出していた。
ああしてずっと二人で過ごしていたのだと思うだけで、ハニとスンハの二人の生活はそれなりに幸せだったのだといつも思っていた。
「幼稚園児らしくない料理の腕前って、私と似ていなくて上手という事?」
「そうは思っていないよ。ハニがどうしてサンドイッチはオープンサンドばかりなのか不思議だったけど、あれはスンハが盛り付けていたと知って、二人がどう生きて来たのかよくわかったよ。」
スンジョの手をそっとハニは触れてみた。
無意識に触れる事が出来た大学時代と違って、今は少し考えてからしか手をつなげられない。

「スンハはおじいちゃんのお店を継ぎたいのかなぁ・・・そうだったらすごく嬉しい事だけど。」
「スンハは将来は医者になりたいと言っていたよ。」
「医者に・・・・記憶力はスンジョ君に似てすごくいいから、きっとその方がいいかもしれないけど、医学部に行くのならソウルの大学かなぁ・・・・」
「どうだろう。子供の夢なんて大きくなったら変わるからな。」
観光をしていても、ここにスンハも連れて来たい、スンハに見せてあげたいというハニに少し嫉妬している自分の顔を見せないように、スンジョは風になびいて自分の顔近くに来たハニの長い髪の毛にキスをした。

「さぁ、そろそろホテルに戻ろうか。」
振り返ってスンジョに微笑むハニの顔は、キラキラと輝いていた。
一度も二人っきりで旅行をした事がなかった。
シーズンオフの時期でも観光地の済州島は、観光客がいない場所はない。
ハニが愛おしい、キラキラと輝くようなハニの笑顔をもう失いたくない。
「スンジョ君?」
スンジョは人に見られている事が分かっていたが、ハニにキスをしたくて仕方がなかった。

「ひ・・・人が見ている・・・」
「見ていてもいい・・・・新婚旅行なんだから誰も気にしていないさ。」
大学時代にハニの部屋で過ごした時、ハニが言っていた事をスンジョは思い出していた。

『新婚旅行に行ったら、景色のいい場所で永遠に時が止まるくらいに長いキスをしたい』
借りて来たDVDを観た感想を言いながら、ハニがそう言った事をオレはその時が来たら実現しようと思っていたって、ハニは知らないだろうな。



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