<前立腺がん診療と骨の健康>
前立腺がん診療で、昨今声高に言われるのは『骨の健康』です。
前立腺がん治療とくに進行前立腺がんの治療における『骨の健康』を考えるときに考慮すべき点は、以下に示したものです。
1. 前立腺がんは高齢者の病気である。高齢者では、骨の健康が重要。
2. 進行前立腺がん、転移性前立腺がんでの遠隔転移は、骨転移が多い。
3. 治療に使われる内分泌療法、新規内分泌療法薬、ステロイド剤は骨の健康に有害!?
4. 進行前立腺がんで悪化して、亡くなる場合の最大の原因は骨転移である。
前立腺がん治療での骨の健康を阻害する一番嫌な病状は、『骨折』と『骨転移の痛み』です。
前立腺がん患者さんに限らず、『骨折』を起こす具体的な誘因、要素、原因は何でしょうか?
『骨折』を誘発しやすい因子・原因として考えられているものには以下のものがあります。
高齢
骨密度が低い
過去に骨折したことがある
たばこを吸っている
過度のアルコール摂取
ステロイド剤を使用
過去に家族が骨折したことがある
運動不足
転倒しやすい
骨吸収マーカーが高い値
低体重
カルシウムの摂取量が少ない
骨転移
男性ホルモン低下
前立腺がんの患者さんには、
高齢
内分泌療法(男性ホルモン低下、筋力低下)
ステロイド剤(男性ホルモン低下、ステロイド剤の直接作用)
骨転移
などの『骨折』のリスク、増悪因子があります。
これらの因子はお互い影響しあい、悪循環を引き起こす可能性があります。
高齢・内分泌療法 → 男性ホルモン低下による筋肉量低下、体重増加、骨粗しょう症 → 筋力低下 → 運動不足 → 転倒 → 骨折 → 運動不足 → 筋力低下 → 転倒 → 骨折、寝たきり、要介護→筋力低下
多発骨転移 → 骨折・痛み → 運動不足 → 筋力低下 → 転倒 → 骨折、寝たきり、要介護 → 筋力低下
といった具合で、前立腺がんの治療をしていたはずが、骨の健康を害して、寝たきり状態になってしまうかもしれません。
前立腺がん患者さんの骨粗しょう症、骨折は、案外、過小評価され、見落とされがちです。
『泌尿器科医は、骨粗しょう症の診断や治療には疎い』というのが実際のところです。
仮に、前立腺がんの治療中に骨折が起きても、整形外科医が治療に専念してくれます。
整形外科医は、内分泌療法や骨転移による骨折の治療は応援してくれますが、前立腺がん自体に対する治療には関与しません。
逆に、泌尿器科医は骨折の治療や予防に不慣れで関心が低いのです。
前立腺がんの治療中、外来に来られた患者さんから、
『骨折して、整形外科に入院して治療を受けました。』
『骨折して整形外科で手術を受けました。』
といわれることが時々あります。
転倒などでの骨折や骨粗しょう症による圧迫骨折が起こることが原因です。
前立腺がんと骨折は関連があるのですが、別々の疾患として治療されてしまいます。
泌尿器科医も、前立腺がんの患者さんに骨折などがおきないような、全身的な配慮や予防の治療を考えていなければなりません。
骨折が起きてしまうとすぐには回復しません。
前立腺がんの患者さんも、すべてを泌尿器科の主治医の先生にお任せにするのではなく、自分の身を守らなければなりません。
にほんブログ村
前立腺がんランキング
この配信は、
進行前立腺がん、転移性前立腺がん、去勢抵抗性前立腺がん、再発性前立腺がんの方を対象にしています。
ご希望であれば、過去のバックナンバーも見ることができます。