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謎多い中間質量ブラックホールの誕生をとらえたのかも!? 総質量が観測史上最大のブラックホール同士の合体を重力波で検出。

2020年09月11日 | ブラックホール
極めて大きなエネルギーを伴う、ブラックホール連星の合体による重力波が検出されました。
合体後の質量は太陽の142倍。これまでに重力波現象が検出されたブラックホールの中では飛び抜けて大きなもの。
この現象は、謎が多い“中間質量ブラックホール”の誕生をとらえたものかもしれません。


ブラックホールの総質量が観測史上最大の合体

2019年5月21日、ブラックホール同士の合体による重力波現象“GW190521”をとらえました。
重力波を検出したのは、アメリカの2台の重力波検出器“Advanced LIGO”と欧州重力波観測所の重力波検出器“Advanced Virgo”。

検出された重力波の持続時間は、過去に観測されたどのブラックホール合体による重力波よりも短い約0.1秒。
ピークの周波数は約60Hzと非常に低いものでした。

これら二つの特徴が示しているのは、“GW190521”で合体したブラックホールの総質量が観測史上最大だということでした。

研究によると、合体前のブラックホール連星は質量がそれぞれ太陽の約85倍と約66倍。
この合体により太陽約8個分の質量が重力波のエネルギーに変換され、太陽質量の約142倍ものブラックホールが形成されたとみられています。

この142倍という値は、これまでに重力波現象が検出されたブラックホールの中では飛び抜けて大きなものです。
それどころか、合体前のブラックホールのうち小さい方の約66倍という数字でさえ、過去に検出された合体後のブラックホールのほとんどを超えていました。
これまでにLIGOとVirgoが観測したブラックホール連星の質量を“GW190521”(一番右)と比較したグラフ。黒い四角が合体前のブラックホールの質量、赤い三角は合体後のブラックホールの質量を示している。縦方向の線は予想される質量の誤差範囲(単位はM⊙は太陽質量)。(Credit: LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration, 2020)
これまでにLIGOとVirgoが観測したブラックホール連星の質量を“GW190521”(一番右)と比較したグラフ。黒い四角が合体前のブラックホールの質量、赤い三角は合体後のブラックホールの質量を示している。縦方向の線は予想される質量の誤差範囲(単位はM⊙は太陽質量)。(Credit: LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration, 2020)


確実な発見例がほとんどない“中間質量ブラックホール”

“GW190521”のブラックホールの異常なまでに大きな質量は、単に観測記録を塗り替えたという以上の意味を持っていました。

多くの銀河の中心部には、太陽質量の数十万倍~数十億倍もの“超大質量ブラックホール”があることが知られています。
太陽系が属している天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*”が存在している。
また、大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量意を持つ“恒星質量ブラックホール”も宇宙には多数存在しています。

一方で、存在は予測されているのですが、確実な発見例がほとんど無いブラックホールもあります。
それが、太陽質量の100倍~10万倍という“中間質量ブラックホール”です。

超大質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールが合体してできるとも考えられています。
なので、この2つのブラックホールの中間くらいの質量を持つ“中間質量ブラックホール”もあるはずなんですねー

合体後に形成された太陽質量142倍のブラックホールは、まさにこの“中間質量ブラックホール”に該当する点で貴重な存在と言えます。
太陽質量の約85倍と約66倍の質量を持つブラックホール同士の合体で重力波現象“GW190521”が発生する様子(イメージ図)。合体前のブラックホールも、それぞれさらに小さいブラックホール同心の合体により形成された可能性が考えられている。(Credit: LIGO/Caltech/MIT/R. Hurt (IPAC))
太陽質量の約85倍と約66倍の質量を持つブラックホール同士の合体で重力波現象“GW190521”が発生する様子(イメージ図)。合体前のブラックホールも、それぞれさらに小さいブラックホール同心の合体により形成された可能性が考えられている。(Credit: LIGO/Caltech/MIT/R. Hurt (IPAC))


合体前のブラックホールも合体により形成されていた

さらに、興味深いのは“GW190521”の合体前のブラックホールです。

太陽の65倍の質量を持つブラックホールだと、太陽質量の130倍の恒星が超新星爆発を起こすことで形成されることになります。

でも、これ以上元の恒星の質量が大きくなると、“電子対生成”というプロセスにより崩壊の勢いが強くなりすぎて、電子対生成型超新星(または対不安定型超新星)という爆発が起こり、後に何も残らないことになります。

恒星の質量がさらに大きくなり太陽の200倍を超えると、別の過程により太陽質量の120倍以上のブラックホールを形成するようになります。

なので、これらの中間である太陽質量の65~120倍のブラックホールは、直接超新星爆発で作ることはできないんですねー
合体前のブラックホールの質量が太陽の85倍というのは、まさにこの空白地帯に収まるというわけです。

つまり、“GW190521”で合体する前のブラックホールそれ自体が、より小さなブラックホール同士の合体で誕生した可能性があるということです。

このような多重合体の実現に必要なのは、星が密集した星団や活動銀河の円盤などといった多数のブラックホールが集まるような環境です。

今回の発見は、そうした合体を繰り返すことで“中間質量ブラックホール”が生成されること、さらには“超大質量ブラックホール”にも成長している可能性を示唆するもので、ブラックホールの形成や進化を理解する上で大きな意味を持つことになります。
大質量のブラックホール連星の合体で重力波が発生する様子。(Credit: D. Ferguson, K. Jani, D. Shoemaker, P. Laguna, Georgia Tech, MAYA Collaboration)


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